女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
10号 (1989.04)  pp. 29 -- 31

☆熱狂香港電影☆

“香港映画の何がこれほど私をのめリ込ませるのだろう”

山本

実は、何度書いてもまとまらない。
一九八七年五月二十日に『男たちの挽歌』を観てから、 禁断症状にさいなまれるほど香港映画に惚れ込み、 ハマリ込んでしまった今に至る迄の事を、『蜀山奇傳』『夢中人』 『奇縁』〜於香港電影博『トップレディ』『ゴールデンスワロー』『ソウル』 『最後勝利』etc.と作品名を挙げて書いていると、 とめどもないけどまとまりもなくなってしまう(まとめられない自分も情けないが…)。

だからまず、私の愛する二人の俳優に絞って書いてみたいと思う。 この二人の男達によって私はこんなにも香港映画に魅きつけられ、 強烈にのめリ込んでしまったワケだ。

一人は、運命の『男たちの挽歌(英雄本色)』以来、 とても好きだった狄龍(ティ・ロン)。 “汚れた顔の天使”的『英雄正伝』では、私が女優で一番好きな林u^o`霞 (ブリジット・リン)と共演し、彼が一番素敵に見える(と私は勝手に思っている) 耐える男の魅力を発散していた。

『野獣たちの掟(人民英雄)』は、ちょつと異色の面白さだ。 銀行強盗と人質の心理、警察の駆け引きに息詰まる。狄龍も、 凶悪犯でありながら人間的なちょっと複雑な役柄を、地味だがしっかり見せてくれる。 これはちょっと『狼たちの午後』的で、『英雄正伝』同様ラストはつらいが見応えがある。

狄龍の作品は残念ながらこの三本しか観ていない。 背が大きくガッシリしていて、男の哀愁漂う渋さが彼の持ち味だと思う。 ショーブラザーズで活躍後に不遇の時代もあった人らしく、 人間的なものがにじみ出ている気がするのはそのせいもあるかも知れない。

さてそしてもう一人、私が今最も夢中になって追っている人、真打ち登場である。 その名も李修賢(リー・シャウイン)ダニー・リー。 香港では、“刑事役の最も似合うスター”と呼ぱれ、 “名前で客を呼べるスター”(羽仁未央さんが書いていらした)でもある。 確かに私の観た作品では、八二年 『狼の流儀』で珍しく署長を演じていた以外は全て刑事役である。 私が李修賢をこれ程好きなのは、多分に好みもあるとは思うが、 でもやっぱりこの人はとてもいい!!と思う。つまり刑事役と言っても、 例えば周潤發(チョウ・ユンファ)を挙げてやるぞと追いかける 『愛と復讐の挽歌野望編(江湖情)』、ラストに瓢々と出てきてカッコよくきめてしまう 『愛と復讐の挽歌(英雄好漢)』、 刑事が天職と悪人追跡に熱くなり美人の奥さんと危なくなる『愛と銃弾の掟(赤胆情)』、 ちょっと三のセンの女好きの刑事だがやるときゃやる 『九竜バイス?無法都市〈H.K〉?(流氓公僕)』など色々あるが、 一貫しているのは彼が間違いなく腕利きの刑事であるって事。 一本スジが通っていて身のこなしもプロっぽくて、 本当にこんな刑事が居たら頼りになるなって感じ(居たらというより居そうなのだ!)。

李修賢の映画で私がせつなくなる程好きな『男たちの絆(兄弟)』は語るにも胸が痛い。 ラストで声なき声をあげて胸を押さえてしまうくらい辛いこの映画には、今や米、英、 まして日本映画からは到底感じる事のできない痛切な何かがある。 そしてその一端は間違いなく彼が握っている。 李修賢は限りなくやさしい正義漢なのである。 彼が八五年に香港電影金像奬(香港のアカデミー賞みたいなものだそうだ) で主演男優賞を取った『公僕』、八七年に出演した傑作『龍虎風雲』、 同年の第一回中時晩報電影奬・優秀作品で製作総指揮、主演をした『霹靂先鋒」、 ビデオが見つからなくて今だ未見の「狼の烙印」、李修賢は出ていないが、 香港電影事情通の羽仁未央さん、宇田川幸洋さんが絶賛してらした 「等待黎明」「秋天的童話」「烈火青春」が今観たくてたまらない!

観たいと言えぱ、ツィ・ハークが「男たちの挽歌」と同じ八六年に林青霞、 鍾楚紅(チェリー・チェン)、葉[くさかんむり/倩]文(サリー・イップ) の三大女優を擁して撮った「北京オペラブルース(刀馬旦)」と、 周潤發の出世作『獣たちの熱い夜(故越的故事)』が、 お店に置いてないとはいえ未見なのはなんとも辛い。一日も早く観たいもんだ。

『チャイニーズゴーストストーリー」の公開や、 「男たちの挽歌」のT・V放映でもっとメジャーになってしまうのかなあと 複雑な思いもする香港映画。その魅力というと、まずパワー! 香港って、西洋と東洋の欲望とか、快楽とか、消費とか諸々の物が 一番highなところでミックスされた場所という感じがする。 それと女優の美しさ(スクリーン映えする美女の多いこと!)、唐突な展開、 惜しみない見せ場、ためにためておいてラストで一気に爆発パターン、 痛快さとせつなさ…そして男優の味と巧さかな!? 「愛と復讐の挽歌」の萬梓良(アレックス・マン)なんかギリギリ 歯ぎしりしたくなる悪い奴演って本当に凄かったもの。 萬梓良は「血と報復の掟(捕風漢子)」という、まるで「誘惑」(米) のような作品ではメロも演じている。周潤發は「復讐は夢からはじまる(小生夢驚魂)」 で悪役をやっているし、演技派で幅広い役を演じる男優が目立つ。

J・チェンの映画ででもなければなかなか大スクリーンでは観られない香港映画だったけれど、 映画祭開催、周潤發の来日などで、これからはもっともっとスクリーンで観られるようになるかも知れない。 そういうのって雰囲気が古き良き時代っぽいなと思うのは楽天的かな?  でも心の隅にビデオでいいからたくさん出て欲しい。 一人でワクワク観てやるぞ! という屈折したファン心理もあったリする。 李周賢も狄龍も独り占めしたいんだなきっと。 これだってほんとは秘密にしときたいんだけど、あんまり人気がでないうちに “私はこの人が好きですよ”と宣言しておこうという顕示欲で書いている気もするし。

とにかく今の私、前にはそんなに行かなかったレンタルビデオショップに連日通い、 同じビデオを何度も借りる。 “昨日も朝六時までビデオ” “今日の睡眠時間二時間半” “眠るより香港ノワールが観たい!”の毎日。 古いギャグじゃないけれど“ほとんどビョーキ”だ。

つまり香港映画って、まるで麻薬だ!!

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