女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
10号 (1989.04)  pp. 13 -- 18

ふぃるむとーく『告発の行方』

女に責任はなかったか

▼沢田 T.  30代
▼S. 玲子  40代
▼I. 悦子  40代
▼岩野 M.  30代

■監督/ジョナサン・カプラン
 製作/S・R・ジャッフェ、シェリー・ランシング
 脚本/トム・ボトル
 撮影/ラルフ・ボード

■被害者サラ(ジョディ・フォスター)
 担当検事補キャサリン(ケリー・マクギリス)



悦子 今日は、 『危険な情事』のスタッフが再び問題作に取り組む…といううたい文句の映画、 『告発の行方』です。さて、いかがでしたか、一番若い岩野さん。

岩野 ん……。

玲子 今日、すごく遅れてきたんだから、 あなたから言いなさいよ。

悦子 スミマセン。じゃあ、えーと、私、 好みでいくと好きなんです。『危険な情事』もこれも。極端なんだけど、 ああいわざるを得ないところが面白いでしょ。 特にいいなアって思ったのは、サラが囃したてた男のトラックのドテッ腹に 車を体当たりさせるあそこ。あそこで彼女が泣きながら帰ってしまうようなのは、 今までさんざん見つくしてきたけど、ぶつかっていくのよね。力で対決しようとするの。

玲子 あそこね、あなた好きそうだな。

悦子 ただ一つ気になったのは、 被害者の女性の内省があまりでてなかったこと。つまり…。

玲子 ちょっと、あなたばかりしゃべってないで、 他の人にも…。

悦子 だって、しゃべりなさいって言ったじゃないの。

一同 (笑)

玲子 あたしもそう思ったのね。 サラは挑発したんじゃないっていうアピールの仕方が弱いんじゃない。

岩野 なんか、それは、わざとー、

玲子 (さえぎって)あいまいだわね。

悦子 だからァ、 あの女は女から見たら男にモテるねたましい存在の部分をもつ一方で、 彼女自身も女同士より、自分をセクシーとみて寄ってくる男性と適当に遊ぶ方が 好きだったみたいでしょ。それがああなって、はたして勝てるか…。 でも、ね、最後はセックスした、しないじゃなくて暴力の問題なんじゃない。 中には弱い男もいるけど、男と女が殴り合ったり、力でいけば女の方が負けるわよね。

玲子 やっぱりあいまいだな。悪い意味じゃなくて、 女が誘ったかどうかっていう点が。『危険な情事』 もあの金髪の女性が誘ったかどうかの部分でキワドクて、 それが議論になったけど、いつもそれが面白さなのね。

悦子 「女も反省すぺき点はしろ」って言ってるわけかな。 そこで、せっかく、今回も忙しい時間をさいて沢田さんが来て下さってますので、 唯一男性側の意見を ??。

沢田 僕はジョディ・フォスターが すごくセクシーで魅力的でしたね、ただ、 あの映画はマスコミなんかが一つのメッセージとして、どう受けとめるか、 みたいな宣伝がされてたでしょ。これをみたカップルはどう思うかとか、映画のラストで、 アメリカでは6分に1件のレイプが行われていてこの現実をどうするかとかね。 でも観てみると、告発ものというより非常にアメリカ的娯楽映画なのね。 ラストにちゃんとアクション映画の醍醐味を思わせるレイプ・シーンを用意していたり。 ただ、あの行為そのもので男側を訴える他に、 まわりで囃したてた男たちにも罪があるっていうところが、 少しこれまでのと違う点だけど、その考えは少し危険だと思う。 なんていうか、あの男たちは男の僕の目から見ても、異常なんですよ。

一同 (笑)

沢田 ああじゃなくて、 もう少し引いたところの傍観者はいないかなって、思いますね。

玲子 でも、男の人って、ノッてくるとああなるんじゃないの。

沢田 異常ですよ。あれをひっくるめて、全部。 見てた者に罪があるってのは危険だな。

玲子 でも、ショーを観るような気でいる男たちは許せない。

悦子 ピンボールの上の行為そのものは、 どちらがどうなんだってことは結局、最後まであいまいですね。 でも、初め、検事が負けそうだからって弁護士と取り引きするでしょ。 やった側を懲役にさせて、円満解決で終わる。ところが、サラが、 「あなたには私の気持ちはわからない」と詰め寄って共闘していくわね。 サラ自身にかっとうはあったと思うけど。

岩野 だから、そういうのをつきつめていくと、 娯楽映画じゃなくなるんですよね。暗いイメージが出てきて。 それで、内面的部分は意識して触れなかったんじゃないですか。

玲子 でも、どうして止める人がいなかったの、悲しいな。

悦子 沢田さんからみて、あの女はああされるのは、 当然と思う?

沢田 ま、当然とは思わないけども、あの設定では、 彼女自身が、ああなる何かを作っちゃってると思いますね。

悦子 ムラムラしてくるとか?

沢田 誘われてるなって意識は、男の側は持つでしょうね。 警戒を解いた状態で彼女が向かって来たって感じね。 ただ、それがその行為に結ぴつくかどうか。

玲子 だってあんな所でしなくても、 後で個室へ行くとか方法はあるじゃない。

沢田 普通はそうだよね。「今夜はどうだい?」とか言って。

玲子 私は許せないな。まわりの男たちも罪があると思うな。 だって、あんなに大勢いるのよ。一人ぐらい止めたっていいじゃないの。

沢田 でも、それは倫理的な問題でしょ。

玲子 だから、この映画は、それを告発してんじゃないの。 囃したてるなって。

悦子 そうかな。

沢田 でも、一方であれは裁判ドラマとして 進行してるわけでしょ。単に女の復讐じゃないでしょ。

玲子 でも裁判そのものが復誓じゃないの。 男たちを殺すわけいかないんだから。裁判に勝つことが復讐を果たすことでしょ。

悦子 違うな。あの女はそんな気持ちじゃないな。 あれは、自分の人権を守っただけよ。

沢田 ちょっと待ってよ。復讐っていったって、 すごい権力の下で、闇から闇に葬られそうになったのを裁判でっていう、 これまでの裁判映画のパターンと違うでしょ。囃したてた男たちっていうのは、 皆の前で、酔った勢いで調子に乗って度がはずれて(笑) だってスーパーのおっちゃんとか、普通の僕たちみたいな奴らなのよ。

悦子 だから、それを言っちゃいけないのよ(笑)。

沢田 いや、だから大目に見ろって言ってんじゃなくて うん…と、倫理とか良心の問題は別にして、そういう構造で、 裁判の論理でバシッと有罪にしていくのはある面でイヤですね。たとえば、 レイプじゃなくて、どこかで警官と誰かが衝突して、 それを見てただけの人も同じ罪ってことだってあるわけでしょ。

玲子 そうよね。

沢田 だけど、あの店の男たちは、 はっきり言って異常だよね(爆笑)。

玲子 でも、いるいる。ああいう男(笑)。

悦子 沢田さんのような冷静な人は、あり得ないけど、 いると思うな。私も(笑)。

沢田 だって、極端でしょ。あれは。

玲子 いるわよ。絶対。お前は小さい、とか言われたら カーッとなって、コノヤローって。

一同 (爆笑)

沢田 いや…それは飛躍ですよ。

玲子 女はそんなことで怒らないわよ(爆笑)。

悦子 それと一つ疑問なのはァ…ほら、 女はみんなの前で裸になるって恥ずかしいでしょ。でも、男だって脱ぐわけでしょ、 恥ずかしくないのかな。

沢田 え?

悦子 やるためには男もパンツ脱ぐわけでしょ。 みんなの前で。

沢田 それは、野獣と化すわけですから。

玲子 そこがわかんないな。

悦子 攻めるほうは、無我夢中かな。

沢田 そこまで考えてたらやれませんよ(笑)。

悦子 だけど、あそこにいた人は、 みんな女の方を見てたみたいね。

玲子 ギャーギャーつらがってるのを見て、どこが面白いの。 そういう獣性は軽べつします。

岩野 私もします。この映画を観た直後は一瞬、 男性不信に陥りそうになりました。

悦子 でも、仮にその場に居合わせたとしたら、女も、 男より女の方を見ると思わない? やっぱり。

玲子 私もよ。男は汚いもの。

悦子 キタナイ(爆笑)。

沢田 キタナイかどうかは知らないけど、あの囃したてた男は、 もう人格崩壊しちゃってる(爆笑)。

玲子 キタナイと思わない?

悦子 露出してる分だけ、逆に清潔なんじゃない。

岩野 なんか、だんだん話がずれてきてません?

沢田 つまりさ、 あのレイプは日本の感覚では考えられないくらい、あっけらかんとしてるのね。

玲子 明るくレイプしてる(笑)。

岩野 明るい暗いの問題じゃないと思うんですけど…。

玲子 だってハシャイでるじゃない。あんなことして。

沢田 つまりさ、セックスにアメリカ人がどのくらい 重きを置いてるか…。露出度が先行しちゃっているってことがあるでしょ。

悦子 それを言うならヨーロッパの方が昔からスゴカったじゃない。

岩野 アメリカの国民性もありますよね。 表現の仕方が何でも直接的だとか。

悦子 そう。日本のセックスは淫扉で、 四畳半でゴソゴソするのが、すぱらしいとか、燃えていくとか。

玲子 自分の好みを言わないでよね。ちょっと(笑)。

悦子 欧米の人にとってセックスは当たり前のものだから、 自然に当たり前にやっていていいっていうことがあるんじゃないの。

沢田 日本の男はね、精神的にレイプしちゃうの。

悦子 視姦か。目でやっちゃうわけ。

沢田 目でって(笑)。

玲子 バカね。頭の中でよ。

沢田 その女性との支配と被支配の関係の中で、 精神的にレイプしちゃうわけ。だけどアメリカの場合は肉体が先行しちゃうっていうか。

悦子 どうやって(爆笑)。

沢田 だから、日本の方が、たちが悪い。

悦子 女もそうかな?

沢田 いや、実は精神的にレイプされてるんだけど、 自覚しない人が多いんだよ。

悦子 レイプされてるのかな。

玲子 そんな主観的に考えるなんて、オカシイのよ、アンタ。

悦子 じゃあ、私、街を歩けない(笑)。

玲子 なによ、岡田茉莉子やなんかじゃあるまいし。

一同 古いナァ(笑)。

悦子 いいのよ。精神的なレイプのことより、 直接肉体的なことが問題になってんでしょ、今。

玲子 あれがレイプかレイプじゃないか。なのに、私たち、 あの女も悪いんじゃないかって気持ちがこの辺にあるから歯切れが悪いんだな。

悦子 あの検事も、初めはそう思ったのよね。 負けるって。だけど、振り返った時、自分はこれではいけないって感じて 女同士の連帯を組むことになって勝ったのよね。

玲子 そうそう。

悦子 だけど、今までのものって、大体弁護士が主役よね。 検事は珍しいんじゃない。この場合も、もし加害者の男たちが、いや、 あれは和姦だったって言い張ったら、彼女も弁護士をたてて闘わなきゃならないでしょ。 どうしてそうしないで検事対弁護士の話にしたのかな。

岩野 それは相手から何か言われて、 それに応じたっていう受げ身の形じゃなくて、 こちらから積極的に告発したんだっていうことなんだと思います。だから 『告発の行方』っていう題名なんですよ。

沢田 それとね、現場が飲み屋みたいなところで、 日本の場合だと、酒の上のことだからって大目に見られるでしょ。 ところがアメリカは全然そういう習慣がないし、 弁護士も弁護するのにそのことを使ってない。その差も面白い。 だけどね…あそこまで大々的に誘いをかけてる女なら、 なにも強引に倒さなくてもホテルヘ誘ったってよかったと思うよ。何度も言うけど。

悦子 でも、沢田君、男だって女だって色気のある セクシーな人間に見られたい部分てあるでしょ。好みでしょ。 でも、そのたびに誘われたと思った男に暴行されたんじゃ、女もたまったもんじゃないわ。

玲子 ハハハ…。

沢田 でも普通レイプというと、見も知らない相手に突然、 事故みたいにっていうのが多いでしょ。その点からも考えると、これはどうなのかな。

玲子 場所も場所だし、 売春婦がいそうなところにも感じられるでしょ。

悦子 何も落ち度のない女が犯されましたじゃ 新しくないのよね。じゃあ、露出度満点の女が犯されたらどうなのか。 酒の上ではどうなのか…など合わせるとあの場所しかなかったんじゃない、たぶん。 それと互いに誘い誘われの状態があっても、イヤだというものをねじ伏せて セックスするのはいけないわよ。

沢田 でも、イヤだ、イヤだは好きのうちっていうね。

玲子 ノーはノーよ。一方がノーと言えぱ、 セックスは成り立たないのよ。当り前じゃない。それを無理矢理、 押さえつけて犯した男も最悪だけど、あの囃したてた、人格崩壊人間も許せないわ。 ノーはノー。やっぱり女たちが勝つのはいいことでしたね。

岩野 もう少し、内面的な部分も描いて欲しかったけど こだわらずに観れぱ、それなりに、良く出来た映画だとは思います。 ジョディ・フォスターの演技もすごく良かったし。

悦子 いろいろあるけど、好きな映画です。

沢田 でも、あの男たちを有罪にするのはやっぱり、 やり過ぎです。

悦子 なんだか結論が別れちゃったけど、 今日はここまでで。ありがとうございました。

(構成=出海)

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