女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
40号   p. 83

■映画雑感



宮崎 暁美

 パソコン通信で映画評論家の佐藤忠男さんの事が批判されていると聞き、 パソコン通信をやっていない私は、友人にどんなことが書かれているのか 見せてもらってビックリ。佐藤忠男さんを師と仰ぎ、王晶の大衆娯楽映画を こよなく愛するものとして、これはないなと思い、書いてみることにしました。

 「佐藤忠男は香港映画が嫌い」と題して、香港映画というより韓国映画が好きな方が 書いていたのですが、まずひとつの論旨は佐藤さんの著作の中に香港映画の記述が 少ないから香港映画を軽視、そして蔑視しているという言い方。あるいは彼の著作 【アジア映画】中、彼が言ったのではなく香港の映画監督が言ったものを引用した 「病的なまでの商業主義」という言葉を利用して、「香港映画は商業主義に 毒された空手映画とドタバタ喜劇しかなく国際的にアピールする映画はないと 言っているわけです」などと決め付けていて、エッ!と思ってしまった私でした。 私も彼の著作の中に香港映画の記述が少ないと思っているけど、それを香港映画への 軽視とか蔑視とかは思っていません。私の解釈としては香港映画はそれだけで 何冊もの本ができるくらいに日本で普及しているし、他に紹介する人も たくさんいるから、佐藤さんは「自分が出る必要はない、自分ではなかなか語る人の いない他のアジアの国の映画を中心に紹介していこう」という姿勢だと思うのです。

 シネマジャーナル二六号でお薦め本として私も紹介した【アジア映画】の中から かなり引用しているのですが、その方は「佐藤忠男にとっては、地域の現実や 社会の問題点とか民族の苦悩を描いた作品こそがよい映画なのであると思っている」 と書いてあったけど、【アジア映画】の中で佐藤さんはこう書いています。初期の 頃のアジアの映画を紹介する裏話で「どうせ、アジアには低俗な娯楽映画しかないだろうと いう先入観に対して、こんなに程度の高い映画が存在するのだということを示して びっくりさせたいという狙いがあった」と語っています。その一方で 「どこの国でも作られている映画の大部分は娯楽映画だし、一緒に楽しめるところまで いって通といえる」とも書いています。まさに香港映画のファンの人たちは地元の人たちと 楽しめる所までいっているのではないですか。

 今でこそこんなにたくさんのアジア映画が上映されたり、公開されたりするように なったけど、佐藤さんがアジアの国々の映画を紹介始めた頃のアジアへの偏見は、 今とは比べものにならないと思います。そんな中で質の高い作品を日本で公開する ことによって、日本人のアジアへの偏見をなくす役割もしたと思います。

 まだまだ、アジアの映画で日本で話題になる映画というと、芸術作品、 文芸作品などが多いですが、最近ではコメディタッチのものも入ってくるようになり、 いろいろなタイプの映画を楽しめるようになった気がします。その先鞭をつけたのが 佐藤さんだと思うので、この佐藤さんへの見方はあんまりだと思った私でした。

 よしんば、佐藤さんが香港映画を好きでなくてもいいじゃないですか。 香港映画は佐藤さんが書かなくたって、語れる人はたくさんいるんだし、 アジア映画と括れないところで、独立して語ることができるんだから。 いずれにせよ、佐藤さんばかりでなく評論家が語るのを好きなのは芸術作品か、 文芸作品、社会派作品に偏っているのは、香港映画だって同じ。私としては 王晶の“おバカ映画”みたいのももっと語ってほしいんだけどなあ。 日本では香港映画ファンの人たちが出した本などでは結構語られているのに、と残念。

 その意味ではキネ旬増刊の【香港電影満漢全席】は、ファンのためのファンによる 熱い情報満載の、香港ファン必見の雑誌です。

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