女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
40号  (March, 1997)   pp. 28 -- 33

ゆうばり国際冒険・ファンタスティック映画祭'97



関口 治美


 例年以上に雪深かったゆうばりファンタ。映画よりもスキーを目当てにきた人は、 リフトが止まってしまい不完全燃焼だったようです。タランティーノ、ロドリゲス、 スビエラークといった監督を生み出した〈ヤング・ファンタスティック・グランプリ部門〉 は正直言って迫力不足で、3本立て続けに観た私はリタイア。おかげで3年連続 グランプリを見損なうというハメに。けれども例年以上に豪華なゲストと二度と 見られないようなイベントの数々に、目を見張りっぱなしの5日間でした。


《上映作品》

 3つのコンペティション部門、特別招待作品、そして様々なイベント上映を 合計すると8ヶ国43本が上映。私が今回観たのは計11本でしたが、その中で 主な作品をご紹介しましょう。


『101』

 オープニングはこの映画。昨年夏に初めて予告編を観て以来、大いに期待していた作品。 あのディズニーの傑作アニメ『101匹わんちゃん(“大行進”の文字は いつからなくなった?)』を同社が実写でリメイク。それぞれが違ったキャラクターと いう101匹のダルメシアン犬はもちろん、子犬の捜索に奔走する他種の犬達や馬、 アライグマ、小鳥達を実写にアニマトロニクス(『ベイブ』を観よ)をミックスして 再現。ディズニー・アニメ史上NO.1の悪女クルエラ・デ・ビルを演ずるは グレン・クローズ。彼女の悪ノリ演技を楽しむだけでも一見の価値あり…のはずでしたが、 どうもおかしいゾ!親ダルマシアンがたどり着く前に救出犬に子犬達が発見されて しまってから話がどんどんヘンな方向へ。そう、この映画の製作・脚本はジョン・ ヒューズ。子犬で『ホーム・アローン3』を作ってしまったのでした。 観終わったあとの不快感はかなりのもので、あっけにとられた観客達はエンドタイトルが 終わってもしばらく拍手もできない状態。『ホームアローン』そのままにクルエラと 手下達が動物にいじめられていく様には、ジョン・ヒューズの人間性を疑いたくなって しまいます。演技とはいえ(この映画ではゴールデン・グローブ賞主演女優賞に ノミネート)、糖蜜と汚水に塗れたクローズに同情さえ覚えてしまう、サイテーの映画。 益々ディズニーに対する嫌悪感さえ強まりました。子供達に夢を与えた、かつての ディズニーは何処へ行ってしまったのでしょうか?


『リトル・シスター』

 ヤング・ファンタスティック・グランプリ部門審査員特別賞受賞。正直言って 耳を疑い、ブーイングしてしまいました。全編8ミリビデオを通しての、 一人称的な映像は確かにユニーク。けれど、ここは大学の映画研究会では ないのです。だったらオフ・シアターに出品するべきでしょう。近親相姦が テーマの一つ、というよりも妹のSEXを正面から撮る兄も、それを知りつつ 行為を続ける妹も変態としか思えません。賞に推した審査員(ミレーユ・ダルク というウワサ)に、選出理由を聞いてみたいものです。


『破壊王』

 昨年の収穫『クライング・フリーマン』の一瀬隆重プロデューサー、マーク・ ダカスコスと加藤雅也が主演となれば、期待しないわけにはいきません。 サイボーグ物に『リーサル・ウエポン』調のデコボコ・コンビをプラスし、 ダカスコスの華麗なアクション(香港系ともハリウッド系とも違う舞うような 美しさ)で味付けしたジェット・コースター・ムービーで、予想以上に楽しめました。 が、これってコンペティションに出す作品とは思わないな、などと話していたところ、 南俊子賞(批評家賞)を受賞してしまいました。監督のスティーブ・ワンは台湾生まれ。 もともと特殊メイクなどを手懸けていて、スクリーミング・マッド・ジョージとの 共同監督作品『ガイバー』で監督デビュー。トレーナー一枚で吹雪の町へ飛び出して 行きましたが、風邪をひかなかったとっても心配です。


『ラブ・アンド・アザー・カタストロフィーズ』

 5人の大学生にカップルが出来るまでの二十四時間。トレンディ・ドラマを 欧米風に洗練させて凝縮したような、誰にでも受けそうな作品でしたが、受賞ならず。 オシャレでロマンティックなこの映画を作ったのは、日本でモデルをやっていたという 24才の才人エマ・ケイト・クローガン。島田陽子の結婚式では、超オシャレなモデル・ モードで地元のオバチャマ達の度胆を抜いた彼女。オーストラリアからまた注目の 女性監督が登場です。
(編集部注:本作品は『ラヴ&カタストロフィ』のタイトルで5月にシネ・アミューズにて 公開予定です。ここでは、当映画祭でのタイトル表記に従いました)


『殺し屋&嘘つき娘』

 一昨年『SCORE』でようやく主役の座についた小沢仁志が、当時のスタッフと 組んで製作・監督・脚本・主演のワンマン映画を完成。ヒロインは、今やバラドルとしての 人気も上昇中のビビアン・スー。前作が『レザボア・ドッグス』だったら今回は 『デスペラード』?まだまだ、超面白いと手放しで誉められるような出来とは 言えませんが、『SCORE』組の映画に対する情熱は買いです。ビビアン・スー (まあ食べる食べる!)の舞台挨拶によると、全編フィリピン・ロケ。クライマックスの 荒野はピナツボ火山で廃墟になった地帯だったとか。彼らに必要な課題は独創性。 もう「○○に似てる」は通用しませんよ。


『301・302』

 今回の収穫の一つ。過食症の女と拒食症の女の話が、なんでファンタ?と 思っていたのですが、推理劇としてもよく出来ていて、ラストはナルホド! と思わせる、まさにファンタ向けな作品でした。これなら日本ではもちろん、 欧米でも受け入れられるでしょう。大々的な特集が組まれても、まだまだ 特殊なジャンルだと思われがちな“韓国映画”を意識せずに洋画として 観られるお薦めの作品です。ちなみに過食症の女優パン・ウンジンの肥満は 全て特殊メイク。あまりにも自然な二重アゴには頭が下がります。拒食症のファン・ シネは審査員として来日しましたが、その輝くような美しさに、女性の 私でもクラクラしてしまいました。これからの飛躍が期待できる彼女の 名前を忘れないように。


『クロノス』

 珍しや、メキシコからユニークな吸血鬼映画が登場。ふとしたことから 吸血鬼になってしまった骨董店の老店主の苦悩。虫の脱皮のように剥がれる皮膚。 トイレの床にしたたった鼻血さえ舐めたくなってしまう血への執着。様変わりしても 愛情をこめて接する孫娘のいじらしさ…。モダン・ホラーと思いきや、ラストは 涙さえ浮かんでしまった、掘出物のファンタジーです。吸血鬼物にありがちな セクシーさや残虐性などはなく、メキシコといってもラテン的なカラッとしたところがない、 この不思議な映画の上映を呼び掛けたのは、ファンタの観客だったとか…。


『ミラクル・マスクマン〜恋の大変身〜』

 審査員として来日したレオン・カーファイが、「カーファイに変身した チャウ・シンチー」として舞台挨拶、というビッグなおまけつき。昨年の チャウ・シンチー騒ぎに比べ、今回は平和なものでしたが、観客のウケは 上々。というのも、日本人向けにパロディ・シーンのセリフがアレンジしてあった (ように思う。私は広東語がダメなので真相は映画を観て!)から。また、 『パルプ・フィクション』のパロディ・シーンは香港以上にウケたのでは? ただし、周りの意見を聞いた限りでは、チャウ・シンチーのギャグにそろそろ 飽きもきたような…。これでは本当に香港のジム・キャリーになっちゃいそうで 心配です。


『マーズ・アタック!』

 そしてクロージングはティム・バートンのこの作品。まずは火星からの 宇宙中継(という設定で、先頃来日のバートン&リサ・マリーのコメント)から。 続いて火星人登場(どうやらプレス関係者が駆り出されたらしい)で大いに 沸いたあと、いよいよ上映。同じグレン・クローズ(来年はぜひゲストに) 出演でも『101』とはダンチの出来。ビッグ・バジェットでオール・スター・ キャストでも『エド・ウッド』のノリで堂々と作ってしまったティム・ バートンに大喝采してしまいました。エド・ウッドが作っていたような ハリボテ風のUFOの脚はまるでUFOキャッチャーだし、火星人のキャラクターは 昔のSF小説の挿し絵そのもの。惜し気もなく使われたオールスター・キャストと いえば、何〜にも考えていない大統領とゴーツク不動産屋の二役で楽しませて くれたジャック・ニコルソン、その妻(ファースト・レディだ!)のグレン・ クローズ、ご令嬢はナタリー・ポートマンで、大統領補佐官はエッチ大好きな マーティン・ショートという世紀末なホワイト・ハウス組。火星人は友好的と 信じたあげくに彼らに誘拐されてしまうトホホなピアース・ブロスナン。 あっという間にさようならしてしまうマイケル・J・フォックスなどなど。 なかでも注目はティム・バートンの彼女ことリサ・マリーで、そのクイン・ビーな スタイル。ロボット的な身のこなしにシビれてしまいました。往年のセクシー・ ダイナマイト男トム・ジョーンズも強烈すぎていうことなし。さらに御年86才という シルヴィア・シドニーのあっと驚く演技。私は『インディペンデンス・デイ』よりも ずっと好き。こういう映画で締めてもらってよかったよかった。


《ゲスト》

 この映画祭の最大の魅力は、ゲストの素の魅力に接することができること…、 と毎年書いています。8回目を迎えた今年のゲストは一癖も二癖もある大物ばかり。 審査員として来日したのは、アラン・ドロンと浮名を流した頃のまま58才でも 美貌を保っている驚異的なミレーユ・ダルク(現在のパートナーは魅力的な建築士)。 ジャン=リュック・ゴダールの元妻であり、彼の作品でのヒロインで今も輝く アンナ・カリーナ。『301・302』の拒食症ことファン・シネ。ついに サングラスをはずしてくれなかった、かかりすぎのパーマがお茶目な阿部寛。 愛の伝道師(小松沢陽一氏の命名。ぴったりです)大林宣彦。ゆうばりから ベルリンへ『弾丸ランナー』を持っていくというウワサのサブ。『誘拐報道』 の子役から美女へと成長した高橋かおり。その他自費で参加してイベントまでやってくれた 高島政弘。特集上映のあった植木等。『MISTY』での舞台挨拶に徹夜組さえでた 豊川悦司と天海祐希など。これだけでもお腹いっぱい状態でしたが、以下の ゲストには霞んでしまうばかり。では、私が印象に残ったゲスト達をエピソードを まじえてご紹介しましょう。


☆レオン・カーファイ

 東京からのおっかけツアー客よりも現地で待ち構えていたファンの多さにびっくり。 初日のウェルカム・パーティでは収拾がつかず、廊下で一列に並んでサイン会。 翌日の島田陽子の結婚式後、帰りそびれて氷上舞台にとり残されてしまった彼は、 再びサイン会をするハメに…。ここで風邪をひいてしまったカーファイはその日の 記者会見を中止し、翌日は病院まで行ったとか。それでもカメラを向けるとついつい スター・モードでとびきりの笑顔を作ってくれた彼の人の良さにはホレました。 スターのおっかけはやめよう!とは言いつつも、あの笑顔には惹かれるものがあります。 奥様と双子のお嬢ちゃん(一人はパパ似、もう一人はママ似)と共に夕張入りした カーファイ・ファミリーの姿は街のあちらこちらで見受けられました。ころんで 大きなコブのあったお嬢ちゃんのお目々は直ったかしら?


☆島田陽子

 私が初めてゆうばりファンタに参加した1993年の審査員だったヨーコ・シマダ。 その時街の人々の優しさに触れたのがきっかけで、今回市民結婚式をあげたわけです。 ワイドショーや週刊誌などでは、この結婚式さえもが否定的に取り上げられ、 彼女がいかにマスコミに叩かれているのかがわかります。が、五日間彼女の 行動を追ってみると、マスコミ報道と島田陽子の実像とのギャップが見えてきました。 「国際女優の看板が泣くさむ〜い結婚式」とコキオロした某大手週刊誌もありましたが、 私はヨーコ・シマダをこれからも応援していこうと思います。ハンサムで誠実そうな 旦那様共々。余談ですが、紅白の餅を取ろうとして跳び跳ねていた私の姿が、 どこかのワイドショーに映っていたとか…。あな恥ずかし。


☆ロミー&ラスティ

 テレビ『シネマ通信』が昨年に続きやってきました。超強力な助っ人を連れて…。 デッカイお尻で豪快な笑い声のラスティと、まじめで利発そうな美女ロミーの二人は、 番組中のコーナーそのままに、凍えかけた私達の身も心も暖めてくれたのです。 この二人、実はれっきとした女優で、ロミーは『マイ・ライフ』に、ラスティは 『ツイスター』(冒頭ヒロインの母役というなかなか重要な役柄)に出ています。 今回私が最も仲良くなった(と思い込んでいる)二人に、帰りの羽田でお菓子を プレゼント。TVを観ていてラスティがより太っていたら、 私に責任があるのかもしれません。


☆藤岡弘

 そしてゲストの大トリはこの人、元祖仮面ライダーです。その濃さは高島政弘があっさり 見えてしまうほど。彼ら二人が豪快にキムチを三皿ずつ(高島兄は汗を拭き拭き…) 食べている所に居合わせた時などは、感動するやら唖然とするやら。その豪快さは 朝食のバイキングに始まり、山盛りのフルーツで一杯のプレートを抱えた姿は ヒーローそのもの!オープニング・パーティでは着飾ったオバチャマ達やオミズ系の オネエサマ方に囲まれて、私の入りこむスキなどなし。どうにかしてチョコレート (初日はバレンタイン・デイなので、私と相棒でチョコレート配りに奔走しました) を渡すと、両手で握手されてしまいました。その後、深夜にロビイで会って 「お休みっ!」と修学旅行の先生風に声をかけられた時などは眠気も翔んでしまうほど。 トイレや大浴場でご一緒した男性群の面白エピソードもあるのですが、これはまたの 機会に…。


 結婚式のおかげで、マスコミ取材が目に付いた映画祭でしたが、悲しいかな、 結婚式とゆうばりファンタの関係を把握していた媒体は少なかったようです。 前出の大手週刊誌などは中田市長さえ覚えていなかったくらいなのですから。 せっかく夕張まできたのだから、せめて映画祭の勉強くらいはしてきてほしかった というのが本音。貴方たちのおかげで、ホテルに泊まれなかった観客も多かったのですよ。

 ゆうばりファンタは再来年(1999年!)の十周年に向けて、夕張市をあげて 早くも立ち上がっています。島田陽子のように、夕張が第二の故郷になりつつある 私は、長野五輪を見ながらどうゆうばりファンタを過ごすのか、今から頭を悩ませて いるのです。


《速報》

 冬の夕張と秋の東京、この二つのファンタスティック映画祭に、三人目の兄弟が この夏誕生します。場所は韓国、ソウルの衛星都市プチョン(=富川)市。 金浦空港からは車で約15分という便利な土地です。このプチョン国際ファンタスティック 映画祭のセレモニーが、ゆうばりファンタ開催中に行われました。発案者は イー・チャンホ監督、イメージ・ガールとしてカン・スヨンという豪華さで、 プチョン市からは実に四十三名という大視察団が来日。サムヌノリの舞や儒教的な 儀式という珍しい光景の中、プチョン市の意気込みがひしひしと感じられました。

 また、十月には第二回プサン(=釜山)国際映画祭も開催されます。こちらは 香港映画回顧展もあるとのこと。十一月には東京国際映画祭と東京ファンタがあるし、 映画ファンは大忙しですね。

  • 富川国際ファンタスティック映画祭
     8/29〜9/5
  • 釜山国際映画祭
     10/10〜18
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