女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
40号   pp. 34 -- 37

ミルドレッド

女たちの勝手にトーク

 『愛は野の草と同じ。芽を吹けば手をかけなくても、ほんの少しの水で育って行く。 でも、芽をつんでしまえば枯れてしまうの。愛はとどまらず浮遊している。 求めてつかまないと去ってしまう。』

 実の息子が実の母親を主人公に母親の自立を描く。どんな話しになるのか…。

 父親は、あの、インデペンデンツ映画の父と言われるジョン・カサヴェテス。 母親は『グロリア』のジーナ・ローランズ。息子はニック・カサヴェテス。


■ラストがはっきりしない

出海「では片岡さんから、どうぞ」

片岡「金と時間を返してほしい。若い監督さんが中年女性の自立を描いている というので楽しみにしてたんですが、何を言いたいのかわからなかったですね」

佐藤「私もいまいちでしたね」

宮崎「どこが?」

佐藤「うーん、ラストがね。フロリダへ行ったのか、息子と暮らすのかわからない。 それから、彼女は有産階級の人でしょ。自分で稼ぐというんじゃない。あの家を全部 売ってそのお金で食べていくわけでしょ。お金をどう使うかが自立ならつまらないわ」

出海「私は、愛は育てるものだということがテーマなのは、わかったんだけど、 やっぱり、金持ちの女性の話しであまり感情移入はできなかった。娘が家に 帰って来るじゃない。私だったら、助け合ってこの家で一緒に生きていこうよ、 と言うわ。でも、そこそこに泣いた」

佐藤「エピソードは、よかったわ」

宮崎「私は、最後は何を選んだのか、という点がひっかかった。中途半端。 悪くはないんだけど。ん、だから彼女はどうしたかったのって感じ」

志々目「最後は見てる人がね、こうあればいいなって感じ?そういう終わり方も いいじゃないかって思う。友達に老後どうしようかって悩んでる人がいるの。 子供もいないし。やっぱり自立って、人間は一人だなと自覚したとき、人と 優しい接し方ができるんだなあと思いましたね」


■自立の意味

地畑「でも中産階級とかいってたら切りがないと思うの。お金はあることに こしたことないでしょ(笑)。精神的に自立した、旦那さんの家から出たってことが 強いんじゃない。孫の面倒はみません。家は売る。家から離れることが自立だったと思う」

出海「でも、家を売らなくても精神的自立はできるんじゃない」

地畑「あのままミルドレッドは息子のところへは行かない。家を売るのは、 安直かもしれないけど、旦那さんの思い出を捨てることでしょ。彼女にとっては それが自立だと思う」

佐藤「思い出を捨てるのは、男ができたからだと思うけど(笑)」

地畑「それを言ってると、ちょっとね」

出海「だから、ほかに何か描いてくれるとよかったな、たとえ男だって いいわけだけど」

片岡「そうですよね。ロマンチックにトラックの運転手のところへ行くのも いいですよ。自立して恋もして、ラストはマイアミの飛行場で待っててくれて」

佐藤「ちょっと、ちょっと(笑)」

片岡「でもそれだったらそれで、しっかり映画って感じで、いいなって思ったんだけど、 そこが不明のままだから」


■隣の若いママとの出会い

出海「となりの女性の交流はどう?面白かったけど」

地畑「カフェへ行くの、よかったね。娘とうまくいかない時ああいう空気にふれて」

出海「転機になったのよネ」

地畑「あまり、難しく考えないで。確かにお金があるからできるんだと言えば それまでだけど」

宮崎「お金に切実な人はそう思っちゃうよね」

志々目「ただ、おばあさんと女性が同じエリアの家に住んでるのが不思議だと思いませんでした?」

出海「借家と持ち家の違いじゃない?」

佐藤「そんなこと言ってた?言ってないしさ。私も変だと思ってた」

宮崎「いい家だったわね」

佐藤「二人の交流はよかったけど、全体の設定がわからない」

片岡「生活感覚がないというか、甘いんですよね」

地畑「あえてああいうふうに出したのかもしれない」

宮崎「トレンディドラマみたいに?」

片岡「そのあたりもはっきりしませんね」


■娘との関係

片岡「あと、わからなかったのは、実の娘との関係ですね。私なんて、 特に母が死ぬまでベタベタした関係だった。いい悪いは別にして、ある程度の 年齢になると同士的なものになるでしょう。だけど、あんたには家はやらないとか、 娘は父親の金で食べてるくせにって怒るし、両方に腹が立ちました」

出海「いるわよ、ああいう娘は」

片岡「娘は自立したかったんでしょ。母親をみてて。でも結局、男のところに 行ったわけだから、自立してないわけですね」

宮崎「もう会わないけど、一応、お金はあげる、と」

出海「孫はみないといっても、きっと、ああいう女性なら、自分から率先して みちゃうよね」

佐藤「だけど、ちょっとさ、私たちがみていてわくわくした70年代、80年代 みたいな映画、ないのかな…」

地畑「この映画にそれを期待しても、それはね」


■かわってきた女性の自立映画

出海「『愛を綴るキルト』の時も思ったけど。あれは結構ほめられていたけど、 私は全然、面白くなかった。年代的な問題かなあって感じたのね」

地畑「それは、自立って考え方が全然違うの。何ていうかな。闘争的な経験を してきた人と違うのね。私の年代が最後ですよ」

佐藤「だってさ、隣の女性の夫婦関係がさ。あれだけ争って別れたのに、 男親がいた方がいいってさ、受け入れるでしょう」

出海「あんなのいやね」

佐藤「私もいや。よく解るけど、ああ強調されるとね、自立よりそっちが気になる。 ミルドレッドとの交流がよかったから残念。保守とは言わないけど、よき家族観が チラチラする」

地畑「ハリウッド映画の今の流れは、この映画はハリウッド映画じゃないけど、 気風としては、家族揃っているか、別れても戻ってくる」

出海「『キルト』がそうなの。主人公の若い娘が悩むわけ。母親の奔放さが 影響してるんだけど。だけどラスト、母親が現れて、『お父さんと復縁したわ』 って。何、この無責任母親って感じなの。20代、50、60代の女性はナイーブに 描かれていて、私くらいの母親よね、それがすごくいい加減な女性に描かれている」

地畑「そこが違うんだね。そう思わなかった」

出海「戦う女性を皮肉ってる。古いんだよって」

地畑「女性の監督なんだけどね」

出海「じゃあ、頑張った女はどうなるのって」

片岡「何の意味もないみたいですよね」

出海「その感覚がちょっとこれに感じられたわ」

志々目「世代なんでしょうね。家族を大切にしている」

佐藤「だって、今日みた『マイルーム』も家族のことでいえば、そういう感じなのね」

出海「『フォレストガンプ』なんかは好きよ」

地畑「監督が出海さんと同じくらいの年代だから」

出海「家族の描き方で年代差が出てるなって思う」

佐藤「私たちがワクワクしてくる映画がみたいなあって思うわ」

地畑「それは悲しいかな、女の監督自体が変わってきてるから、難しいですよね」


■男の描き方

片岡「だけど、あの息子が妻に君は黙ってろって叱るじゃない。あんな保守的な 夫婦がいたのかって驚いた」

佐藤「あれはギャグ。こっちの夫婦を生かすために対比させたのよ」

地畑「あれ、一応、ヤッピーなんだけど」

佐藤「それより、あのイレズミの男なんとかしてよ。酒乱の人って繰り返すって いうじゃない」

宮崎「しばらくはいいけどね」

佐藤「偏見かもしれないけど、あの男のフォローがないわよ。もっとほら…」

出海「もっと悪役でいいわよね、よくなり過ぎ」

佐藤「突然よくなるから、あれがさ、違和感なの」

宮崎「現実感がないよね」

地畑「でもね、あの女性もそんな深刻じゃない。痴話ゲンカだからさ、 考え方の相違とかじゃないから」

佐藤「だからさ、彼女の方はわかるんだけど男の方が、足りない。伝わってこない」

出海「テレビでさ、族だったお父さんが改心して『許しをこう』とかやってる(笑)」

佐藤「それそれ、そう考えるよりないじゃない」

地畑「でも、私はそんなに悪くなかった。闘争的な映画ってめったにない。 寂しい気持ちはわかりますよ」

佐藤「そう?そうでしょう、わかるでしょう(爆笑)」

出海「まあ、世代交代っていうか、女性の自立もかわってきたというか、 佐藤さんや私たち世代は寂しいですね…」


■女性の映画はどうなる

佐藤「取り上げるのがなくなってきたって書いといてよ。昔はさ、 バンバンやるのとか(笑)。『テルマ&ルイーズ』だっけ」

宮崎「バンバンやる(笑)」

出海「そうね、だから、CA‐TVや深夜映画をみちゃう。懐かしい70年、 80年代の映画やってるでしょう。きのう夜中もたまたま見てたら『マイライバル』 っていうのやってた。ヘミングウエーの孫が出てて。すごかった。戦いよ。 女性ランナーの話し」

地畑「今ないですね。でもこれまでは上昇志向というか、作られた理想の女性だったのが、 『ミルドレッド』では等身大の女性を描いたのかもしれない」

佐藤「でも、この主人公のいい映画があるでしょ」

出海「『グロリア』?」

佐藤「それよ、それがいいって聞いてたから」

地畑「この監督のお父さん、亡くなったけどスゴイ監督で、彼が作った名作だもの」

出海「ちょっと驚きの、格好いい女が出てくるの。佐藤さんや私はこれみるより、 お父さんの作った映画を見た方がいいのよ(笑)」

宮崎「まあ、息子が次ぎどんなものを作るかね。だって、これ初めての作品だもの」

出海「それと、女性の自立映画はどうかわっていくのでしょうね。もう死語に なってきてるのかな」

(まとめ 出海)


出席者   佐藤   志々目
地畑   片岡
宮崎   出海

父ジョン・カサヴェテスと母ジーナ・ローランズの映画への愛は、 息子ニックに引き継がれた。

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