女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
40号   pp. 38 -- 41

Mars Attacks!
ティム・バートン監督&リサ・マリー
来日記者会見



志々目

 『バットマン』『エド・ウッド』などで日本でも御馴染みの奇才ティム・バートン監督。 そして監督とは公私共にパートナーという火星の美女役のリサ・マリーが、 『マーズ・アタック!』のPRで来日し、記者会見が行われました。

 お立ち見状態の会場は始終笑いと熱気に包まれていました。




---今回の映画で初めて横長のシネマスコープにしたのはなぜですか?
「今回初めてシネマスコープを使ったのですが、この映画の素材から考えて広がりと 大きさを出すためにはこの方がいいと思いました。そしてシネマスコープを使うことに よって叙事的な感じを狙いました。」

---『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』『エド・ウッド』などでは、 ストップモーション・アニメーションのこだわりを感じていたのですが、 今回エイリアンに関してはすべてCGIを使うことにしたのはどうしてですか?
「今回はワイドスクリーンだし、それから火星人がたくさん画面に出てくるので コンピューターの方がやりやすかった訳です。しかし、どんなにハイテクが進んでも 最後はコンピュータでは出来ないアニメーターの腕なんですね。人間しかできないところが 決めてなので今回素晴らしいアニメーターを使ってとてもいい効果を出す事ができた。 そういう意味でこの映画に関してはとても合理的なやり方だったと思います。」

---今回の映画でも感じたのですが、監督の映画を見るとジェリービーンズを ばらまいたようなカラフルな美しい世界が見えて来ますが、監督には世界が このように見えてくるのでしょうか?
「やはり映画はカラーがある方が楽しい訳で、何色を使うかによって自分の ムードまで変わってきてしまう。色というのはムードまで作り出す作用があるので 色を大切に映画を作っています。」

---憎々しい火星人の姿形を誰が思いつかれたのですか?
「アメリカには、60年代、トレーディング・カードという子供達が友達と交換するカードが ありまして、そのデザインが元になっています。その絵というのはおかしいし、ちょっと いたずらっぽい、それでいてちょっと怖くて、そのへんは全部カードからいただきました。」

---光線銃で出てくる光の色が赤と緑があったのですが、その効果の違いは?(笑)
「新しい文化に遭遇するとわからないことだらけ。火星人のやっていることは わかんないことがたくさん多いということ。だから何だかわからない!! わからないことがたくさんあるのがこの映画の中の火星人なんだ。」

---リサ・マリーさんはいつもチューインガムをかまれていてセリフが無かったのですが、 喋りたかったのではないですか?
リサ「セリフがないというのがこのキャラクターに引かれた理由のひとつです。 ボディランゲージと目の演技、これに興味がありました。動き方に関しては監督が 最初からこういうふうに動くという明確なアイデアを持っていまして、それを もとにして実現しました。1か月間ムーブメントコーチについて彼が望むものを 作りました。」
「ボディランゲージは国際語だからね。」

---リサ・マリーさんの火星人の動きは撮影の時に多少ギミック(コマ落としや モーションコントロール)などあったのでしょうか?
「コンピュータはリサの動きには全然加えていません。 」
リサ「全部私よ」

---最近のSFはエイリアンが悪いというイメージがあるのはなぜでしょうか?
「宇宙人にも善玉、悪玉の流れがあるようで、50年代のSFでは大抵悪かった。 80年代にはいいエイリアンが来て、でもこの映画の中のエイリアンたちは 必ずしも悪玉だとは思わない、悪い子という感じで考えています。今後 エイリアンが来るとしたらまったく無関心なエイリアンというのも考えられますね。」

---この作品は、エド・ウッドの『プラネット9・フロム・アウタースペース』 に捧げられているような気がするのですが、その辺はいかがでしょうか?
「私が『エド・ウッド』を作ったことで、エド・ウッドの魂が私に乗り移ったままであるようで、 彼の宇宙船には紐がついたりしていて、こういった映画は作れなかったんですよね。 でも彼は映画を作るエネルギーを持っていてそのエネルギーが僕に取り付いてこの映画を つくるようになったと言ってもいいかもしれません。」
———リメイクと見てもいいのでしょうか?
「そう言ってもいいかも知れません(笑)」

———監督がB級映画を好きだと言うのはこの映画を見れば一目瞭然なのですが、 リサさんも同じ様に昔から好きなのですか?
リサ「小さい頃キングコングは見ていたわ。だけど正直言って、彼に会うまでは あまり見ていなかった。でも今は彼からたくさん見せられまして…。」

「彼女をずっと苦しめ続けているんだ(笑)」

---二人そろって好きな作品があったら挙げて下さい。
「プラン9・フロム・アウタースペース」

---生き残る者と死んでいく者と明暗がわかれるのですが、本当に火星人が 襲ってきたらどういうものが生き残ると思いますか?それから最後にトム・ジョーンズが 「It's not Unusual (よくあることサ)」と歌って終わるのですが、何が一体 It's not Unusual なんでしょうか?(大爆笑)
「トム・ジョーンズはやっぱり生き残るでしょうねぇ(笑)。この映画のテーマは、 人間、物事というものは必ずしも見た通りではないということをいいたい訳です。 実は何も取り柄がない人が最後はとても大きな働きをしたり、権力を持っている人が 実は悪かったり物事は見かけではないということです。この人間社会には驚きが たくさんあるのです。もし本当に襲撃があったら、いい人といい物が残ってほしいと 思います。それからトム・ジョーンズも(笑)
 なにが usual で、なにが unusual なのかという判断は私にはわからない。 でも少なくともトム・ジョーンズがあそこに出てきたのは、彼が歌手であろうと 何をしているときであろうと、あの人はアクションアドベンチャーヒーロー、 何でも出来ちゃう人というイメージが非常にあるので、彼に登場してもらって 火星人と戦ってもらった。彼ならできるという訳です。」

---この企画のゴーサインをどうやってワーナーの偉い人からもらったのですか?
「ワーナーとの関係は非常に長く、昔からいろんな映画を作っている実績もあって いい関係が続いている。彼等は必ずしも私を理解してくれているわけではないけれど、 賛成はしてくれるという風変わりな関係なんです。」

———監督はハリウッド一の変人とも言われていますが、監督の頭の中をリサ・マリー さんから分析して下さい。
リサ「とても変わっているわ…。ウソよ。信じられない素晴らしい男性よ。とても 優しくて、強くて、頭がよくて、すごくクリエイティブで彼とこういう仲になれて 世界一ラッキーな女の子だわ。」

 会場の中からヒューヒューと喚声が飛び、大照れのティム・バートン。 なにかごそごそしていると思ったらサイフの中からお札をとりだしリサに向かって、 あげるよなんて言っていました。もちろん会場中大爆笑でした。




 この記者会見の模様をテープで聞き直してあまりにも楽しい会見だったので、 ワープロに向かってまた大笑い。ユニークな質問の数々に、さらにユニークに 愛想よく答えてくれたティム・バートン監督ですが、記者会見が始終楽しかったのは、 とにかく『マーズ・アタック!』がおもしろい映画だからというのは言うまでも ありません。

 『マーズ・アタック!』題名通り、火星人の地球襲撃、そしてエイリアン地球侵略と くれば、思い出すのは『インディペンデンス・デイ』。でもバートン監督は地球上で この映画を見ていない、たった一人の人間なんだそうですヨ。『インディペンデンス・ デイ』がセットにお金を掛けたとすれば、こちらは配役が凄いです。大統領と 不動産屋二役のジャック・ニコルソン(本当は全部の役をやりたかったそうです)、 グレン・クローズ、アネット・ベニング、ダニー・デビート、マーティン・ショート、 マイケル・J・フォックス、ナタリー・ポートマン、そしてもちろんトム・ジョーンズ。 ピアース・ブロスナンとサラ・ジェシカ・パーカーにいたっては、『クラッシュ』 も真っ青なスタイルでのトホホのラブシーンを演じています。しかもこんな 信じられない豪華な俳優たちが、火星人の光線を浴びて次から次ぎと惜しげもなく 殺されていくなんて、見ていて痛快極まりないです。

 近頃のハリウッド映画というか『インディペンデンス・デイ』もそうなんですけど、 ヒロイズムとでもいうのでしょうか?普通の人がある事件をきっかけにスーパーマンの ように変身して、悪と戦うなんていうのが多くて、ちょっと鼻につくなぁと思っていました。 しかもキャスティングから考えればヒーローになるのは誰かは一目瞭然。しかし、 この『マーズ・アタック!』に関してはそんな公式は当てはまりません。地球を 救うのは一見無力の人達なんです。バートン監督もこの映画のテーマとして 挙げていましたが、人間見かけだけで判断できないということです。

 ちなみに火星の美女、リサ・マリーのナイスバディ(カルバン・クラインの 元モデルですから…)は特殊な食べ物ではなく、日本食によって維持されているそうで、 それを聞いた通訳の戸田奈津子さん、「私なんてバリバリの日本食なのに…。」 とおっしゃっていました。私もまったく同感です。

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