女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
40号   pp. 49 -- 50

第9回東京国際映画祭 補記



取材/文 地畑寧子

『リベルタリアス — 自由への道』

 ビセンテ・アランダ監督と製作者のアンドレス・ビセンテ・ゴメス氏の記者会見


Q. スペイン内戦は、『大地と自由』でイギリスのケン・ローチ監督も 題材に撮っていますが、本国人である監督にとってこの戦争の意義とはなんでしょうか。

「皆さんは、この内戦を題材にした映画がスペインで数多く作られていると 思われているかもしれませんが、意外なほど少ないのが事実です。スペイン国内では この戦争に関して矛盾した意見があり、あまりにも身近で、今だ活きた話題であるため 感情的になりがちというのがその要因だと思います。ですからこの戦争を題材にした 映画は今後も少ないと思われます。が、私はこの内戦は映画にするに足りうる様々な テーマを投げ掛けていると思います。
世界中の注目を浴びて三年間続いたこの内戦は、40年代にさまざまな解釈がなされ、 フランコ独裁後の40年間沈黙し、意志的沈黙が20年続きました」

Q. この映画は巨額の予算を投じて制作されているとのことですが、 近年他のヨーロッパの国でも大きな予算をかけた作品が目立っています。 アメリカのメジャー系映画に対抗するためにはこのような手段が必要なのでしょうか。

「この作品は、取り立てていうほどの巨額の予算はかけていません。500万ドルの 予算です。世界的に大きな市場をもつメジャー系アメリカ映画に、ヨーロッパ映画は、 まず才能とインスピレーションで、そしてマーケティングを強化して対抗していかなければ ならないと思います。というのも、全世界で公開されている『ミッション・インポッシブル』 『インデペンデンス・デイ』はまさに、この巧みなマーケティングの勝利だからです。 アメリカのメジャー系映画が全世界で収益をあげているのは、公開される前から 見なくてはいけないと観客に思わせる見事なマーケティング活動の賜だと感じています」

Q. 当時を再現したロケーションに関しては、どのような方法をとりましたか。

「かなり手間取りましたが、その点は専門家に一任し、舞台になる町をそっくり 再現するなどの方法をとりました。600人もの出演者に当時の衣装を着せることも 大変でしたが、それ以上に彼らに内戦時特有のいわばヒステリックな感情を 伝えることはなかなか骨が折れました。当時を知る人たちの意見を取り入れ、 役者たちの役づくりに役立てました」

Q. ヒロインたちのモデルになった人物はいたのでしょうか。

「当時多方面で活躍した、私(監督)の友人であるコンチャリアーニョという女性が モデルです。彼女のキャラクターを6人分に分けて、この作品にキャスティングしました。 主役を飾った女優たちは、与えられたキャラクターを各々自己解釈してよく演じてくれたと 思います」




『愛を織る娘ギャベ』

 モフセン・マフマルバフ監督の記者会見


Q. 『サイクリスト』など今までの作品とは異なり、この作品にはファンタジーな 部分が挿入されているようですが。

「私としては、空の色をもらうシーンなどは除いて、あくまでもリアリズムな ドキュメンタリーに徹したつもりでいます。タイトルにある、ギャベとは、 遊牧民が移動中に編む絨毯のことですが、この絨毯には彼らの生活風景や 想像の風景が絵柄として織り込まれています。 私は、この絨毯を現実と想像を結ぶものとして捉え、題材にしました。 イランの国家財産は、一に石油、二に絨毯です。 ことにこのギャベは美術工芸品の域に達していて、人生、あるいは生活そのものの 意をもったものなのです」

Q. この作品はフランスとの共同製作ですがその意図とはなんでしょうか。

「現在のイランは、映画を製作しにくい状態にあります。イランでは一年に 70本ほどの映画が製作されており、海外で250もの賞を受賞しているとはいえ、 本国のプロデューサーに出資してもらうのは、なかなか厳しいものがあるのです。 この作品も海外からの呼び掛けで起動しました。6年前にも国内上映を禁止された 作品があり、そういった批判は主にキアロスタミ監督と私に集中しています。 現在のイラン映画の潮流としては、映画の原点を問い掛けるものが増えていることだと 思います」




『死とコンパス』

 アレックス・コックス監督と製作者のカール・ブラウン氏、 ロレンツィオ・オブライエン氏、ミゲール・カマチョ氏の記者会見


Q. 『ディック・トレイシー』に似た色使いを感じましたが、これは意図して 採用したのでしょうか。

「この作品は銃撃戦を主体としたアクション映画ではありません。アクションを 糸口にしてはいますが、あくまでもアルゼンチンのボルヘスの原作を元にした 謎解きの世界がメインです。ですから、『ディック・トレイシー』に似た原色使いの 謎に満ちた世界は、まさに意図したものなのです」

Q. このボルヘスの原作を元にした映画はすでに92年にテレビ映画として 制作されていますが、劇場用として再度着手した理由はなんでしょうか。

「BBC放送の短編テレビ映画として一度制作しましたが、55分という短い制約の 中では詳細が語れなかったと感じたのが大きな理由です。そもそもボルヘスの 原作が複雑かつ難解であるのがテレビ映画向きでなかったのです」

Q. 監督が感じていらっしゃる母国イギリスの映画界の変容をお聞かせください。

「この五年間に大きく変化しました。それ以前はイギリスの劇場用映画は、アメリカ 資本が参加し、アメリカ人俳優がほとんどの作品に出演し、文化的にも経済的にも アメリカの波がイギリスに打ち寄せていたわけですが、今はその波が通り過ぎ、 バラエティに富んだイギリス独自の映画が生まれてきています。この現象はいずれは 他の国の映画界にも訪れ、アメリカの文化パワーの転換期が来ると思います」

Q. 監督はメキシコを地盤に映画製作をされていますが、メキシコを舞台にする 魅力とはなんでしょうか。

「メキシコを舞台に撮った作品は『ウォーカー』『PNDC/エル・パトレイロ』そして、 この『死とコンパス』です。メキシコの映画界は、スタッフも一流でスタジオなど 施設も整っているうえアーチストを迎えてくれやすい、クリエイティブな環境に あります。ですからハリウッドでは作りにくい物語性の強い作品を作ることが可能だと いうことです。また、ロケーションが何でも揃っているのも魅力です。メキシコの 諺にもある通り(すべてが可能)なのです」

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