女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
40号   pp. 26 -- 27
1996年度 読者&スタッフが選ぶベストテン

一九九六年ベスト20



宮崎 暁美

  • 推手(李安/台湾)
  • ショーシャンクの空に(フランク・ダラボン/米)
  • 天與地(黎大韋/香港)
  • ナヌムの家(ビョン・ヨンジュ/韓国)
  • 女人、四十。(許鞍華/香港)
  • 恐怖分子(楊徳昌/台湾)
  • トキワ荘の青春(市川準/日本)
  • スモーク(ウエイン・ワン/米)
  • ショア(クロード・ランズマン/仏)
  • GAMA月桃の花(大澤豊/日本)
  • 天の馬(ナンサリーン・オランチメグ/モンゴル)
  • Dearフレンズ(レスリー・リンカ・グラッター/米)
  • 梁祝/バタフライ・ラバーズ(徐克/香港)
  • イルポスティーノ(マイケル・ラドフォード/伊・仏)
  • わが心の銀河鉄道(大森一樹/日本)
  • さよならビクトール(アンヌ・クレール・ポワリエ/加)
  • 地域をつむぐ(時枝俊江/日本)
  • 浮草人生(林正盛/台湾)
  • 愛の黙示録(金洙容/韓国)
  • 戦士の刻印(プラティバ・パーマー/米)

 96年に観た映画は一〇四本。ベスト20は観た順に並べた。96年は突出して好きという 作品がなかった。そこそこにいい映画が多かったという印象。 『Shall We ダンス?』や『絵の中のぼくの村』などを観ていたら入っていたかなと思う。 『太陽の少年』、『變臉』は観ているけど、公開がこれからだから入れなかった。 来年にはきっと入ってくるだろう。

 やっぱり今、私の好きな監督は李安(アン・リー)。彼の映画の中にある独特な ユーモアと皮肉、映画の中の間合いというかリズムが好き。『推手』は 李安のデビュー作だけど、この一作目から彼のカラーはすでにあるなと思った。 アメリカで暮らす息子の妻(アメリカ人)との文化ギャップがユーモラスに、 そしてシビアに描かれていた。郎雄/ラン・シャンさんのがんこさもいい。 太極拳に中国人の歴史の重みを感じた。どこでも中国人は太極拳をやっている。

 『ショーシャンクの空に』は救いのない映画だなと観ていたら、最後のアッという 展開でホッとした。この映画のストーリー展開は天下一品。希望は捨てちゃいけないと いう気にさせてくれる。それに対して『天與地』は、どうなるのかドキドキさせながら、 希望はないのかと思わせるようなラストシーン。良かったと思うのに 評判にならなかったのは、悲惨な最後と劇場での銃撃戦のしつこさのせい?  それにしてもこの『天與地』を始め、アンディの映画は『天若有情(アンディ・ ラウの逃避行)』や『天地長久(アンディ・ラウのスター伝説)』など、 もっと評価されてもいいと思うのに、男性評論家受けしないのはなぜ?  『古惑仔』なんかよりよっぽど良かったと思うのに、パンフレットさえ無い!  悲しいな。

 昨年香港では、いくつもの映画賞を独占した『女人、四十。』。 高齢化社会や社会の対応事情は日本も香港も同じと認識した。でもこれは 深刻にならず、娯楽作品としてうまくできていた。

 『ナヌムの家』『ショア』『GAMA月桃の花』『戦士の刻印』は、 ぜひたくさんの人に観てもらいたい作品。今も自主上映会が続いている作品もある。 『ナヌムの家』は「資料がないから強制連行はなかった」、だから「慰安婦は商行為」 などと言い出した人たちにぜひ観てほしい作品。従軍慰安婦だった人たちがいるという事実の前に、 そんなことを言い出すことは何の意味も無い。でもこの映画は堅苦しい映画じゃない。 元従軍慰安婦だった人たちが一緒に暮らす家の生活を淡々と追ったドキュメンタリーである。 今も、監督は彼女たちの事を撮り続けているそうだから続編にも期待したい。 『ショア』は九時間にも及ぶ映画で、さすがに疲れたし途中で眠ってしまいもした。 でも、ナチスの戦争犯罪をいろいろな人への証言で立証した功績は大きい。 『GAMA月桃の花』は沖縄戦での市民の姿を描いた作品。 「沖縄戦を初めて沖縄の人の立場にたって描いた映画」というのがうたい文句に なっているけど、今迄の沖縄戦を描いた映画の中にも、そう感じられるものは いくつもあったように思う。女は子供に執着するものだというのが、この映画でも 強調されているように感じられて、この点はやはり男の監督の見方と思った。 女というと、か弱い存在か母は強し的な描かれ方しかされないのは疑問。 良い作品だと思ったけどその点がひっかかった。 『戦士の刻印』は女性性器切除の悪習慣を告発していて、本当にびっくりした。 女性の心と体を傷つける信じられないような習慣だけど、今でもこの習慣が 続いている事実に驚愕する。それでもこの悪習慣を撤廃するため、アフリカの 女たちは立ち上がり始めたのが心強い。

 『恐怖分子』、ずっと気になっていた映画。都会の病理、不気味さをうまく 表しているなと思った。新作の『カップルズ』や前作の『エドワード・ヤンの 恋愛時代』あたりはトレンディ・ドラマ的な感じも受けるけど、この作品は 初期の作品で荒削りな分、とても実験的な感じがした。実験的なのが良い方に 転んだ例だろう。

 『スモーク』は、タバコ屋と作家の物語かと思っていたら、黒人父子の和解ストーリーだった。 どうして、宣伝でこっちの方を強調しなかったんだろう。とても良い作品だと思ったので それが残念。

 『天の馬』はモンゴルの平原を舞台に繰り広げられる、お爺さんと血の繋がらない 孫との交流ストーリーが素晴らしく、モンゴルの人たちの馬にかける思いがヒシヒシと 伝わってくる作品だった。

 『梁祝/バタフライ・ラヴァーズ』と『花月佳期/トワイライト・ランデブー』では、 チャーリー・ヤンを見直してしまった。美人ではないけれど、やんちゃな感じと ドスの効いた声。とても愛すべきキャラクターを持っている。単なるアイドルだと 思っていたけどこれからどんな風に成長するか楽しみな女優だ。

 『わが心の銀河鉄道〜宮沢賢治物語〜』は、彼の作品が生まれた背景を知ることができ、 宮沢賢治をよく知らない私でも楽しめ、伝記物としてはとてもよくできていると思った。 私は彼の作品をほとんど読んだことはないけど、読んでみたいと思わせてくれた。

 『浮草人生』は、主役の李康生(リー・カンション)が全然父親には見えなかったという 難はあるものの、村と都会の生活を淡々と描いていて、ほのぼのとさせてくれる。 かつての侯孝賢作品のようでもあるけど、監督の林正盛(リン・ツェンスン)が 持っているぼくとつな雰囲気と、とてもマッチした作品だと思った。監督は 俳優としても活躍していて、『熱帯魚』にも誘拐犯で出演しているし、 呉念眞(ウー・ニェンチェン)監督の新作『太平、天国』では主役を演じているらしい。 『太平、天国』日本で公開されるといいな。

 『愛の黙示録』は韓国で孤児の救済に従事した日本女性を描いた作品。こんな 女性がいたなんて全然知らなかった。

 王家衛ブームだけど、私は彼の作品は全然だめ。話のスジがあるような無いような 物語と、ゆらゆら落ち着きのない映像の連続にはついていけません。睡眠薬です。 『天使の涙』も『楽園の瑕』も途中で寝てしまった。私は王家衛の“芸術作品” よりも王晶(バリー・ウォン)の“おバカ映画”の方が好き! 私って香港人モード?

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