女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
37号 (1996.06)   pp.16--22

特集『天使の涙』



殺し屋  レオン・ライ(黎明) Leon Lai
エージェント  ミッシェル・リー(李嘉欣) Michele Reis
モウ  カネシロ・タケシ(金城武) Takeshi Kaneshiro
失恋娘  チャーリー・ヤン(楊采[女尼]) Charlie Young
金髪の女  カレン・モク(莫文蔚) Karen Mok


監督・脚本  ウォン・カーウァイ(王家衛) Wong Kar-wai
製作  ジェフ・ラウ(劉鎭偉) Jeff Lau
製作主任  ジャッキー・パン(彭綺華) Jacky Pang
企画  ロー・マン(羅文) Lo Mang
撮影  クリストファー・ドイル(杜可風) Christopher Doyle
美術  ウィリアム・チョン(張叔平) William Chang
照明  ウォン・チーミン(黄志明) Wong Chi-Ming
編集  ウィリアム・チョン(張叔平) William Chang
ウォン・ミンラム(黄銘林) Wong Ming Lam
音楽  フランキー・チャン(陳勲奇) Frankie Chang
ローエル・A・ガルシア Roel A. Garcia

原題=「堕落天使」Fallen Angels
1995年香港映画/カラー(パートモノクロ)/ヴィスタサイズ/1時間36分
製作=JET TONE PRODUCTION LTD
提供=テレビ東京/プレノンアッシュ
配給=プレノンアッシュ


 昨年、大ヒットを放った『恋する惑星』(原題『重慶森林』)の王家衛監督の新作 『天使の涙』が早くも日本で公開されます。公開に先立ち、監督の王家衛、 主演俳優の金城武が来日しました。


公開日程
東京  シネマライズ  6月29日〜
大阪  パラダイス・シネマ  7月27日〜
京都  京都朝日シネマ  7月27日〜
神戸  アサヒシネマ  8月17日〜
福岡  シネテリエ天神  7月20日〜
札幌  シアターキノ  7月下旬より
名古屋  ゴールド劇場  8月上旬より
広島  サロンシネマ  8月下旬より

その他全国順次ロードショー


主な受賞データ
第32回金馬奬
*最優秀編集賞/  張叔平(ウィリアム・チョン)黄銘林
*最優秀美術賞/  張叔平(ウィリアム・チョン)

第15回金像奬
*最優秀助演女優賞
 莫文蔚(カレン・モク)
*最優秀撮影賞
 杜可風(クリストファー・ドイル)
*最優秀映画音楽賞
 陳勲奇(フランキー・チェン)& Roel A. Garcia

**ちなみに今年開催された第15回金像奬では、本作は、最優秀作品賞、 最優秀監督賞、最優秀新人賞、最優秀美術賞、最優秀衣装デザイン賞、 最優秀編集賞にもノミネートされた。


王家衛監督 プレミア試写にて



 『天使の涙』日本劇場公開に先駆け、去る4月に来日した王監督。 プレミア試写で、自作のPRをしてくれました。


天使の涙』誕生の経緯

「前作『恋する惑星〈重慶森林〉』は、94年に製作を始めて、当初三つのストーリーから つくるつもりでした。しかし、最初のストーリーが面白かったので、 長くなってしまいました。
 『恋する惑星』の三話めは、ヒットマンとそのエージェントの話で、 このアイデアを膨らませて、『天使の涙』になったのです」

恋する惑星』と『天使の涙

「『天使の涙』を『恋する感星』のパート2だと思われている方もいると思いますが、 別のものです。この二作を併せて一本の作品だと、私はとらえています。
 確かにこの二作は、シンプルな点、作品に流れるスピリットはほとんど同じです。 ですから、私としては、二本立てで映画館で上映していただくとうれしいのですが」



撮影方法について

「前回の『恋する惑星』では、ロングレンズを使いましたが、 今回の『天使の涙』では、 広角レンズを使いました。
 理由の一つとしては、香港のロケーション事情からいって、 非常に狭いスペースを使用することになるのです。 ですからその手狭な空間を広くみせるということがありました。
 もう一点は、今回の企画で、極端な試みをしてみたいということがありました。 ですから、広角レンズといってもダブルワイド・アングル・レンズを使用しています。 カメラマンからは、そんなことをしたら、 面長な李嘉欣(ミシェル・リー/エージェント役の主演女優)の顔が、 バナナのようになってしまうといわれました。
 しかし、実際編集段階に移ると、 このレンズから出た映像が映画の雰囲気に合ったものでした。
 このレンズは、遠近法が倍増されて撮られるようになっていて、面白い効果が得られます。 実際カメラから近くにいる役者やものがかなり遠くに映るようになります。 今回の試みも近くにいる人たちを遠くに映し出すことだったので、 効果的だったと思います」



王監督への一問一答

—— 『恋する惑星』で林青霞(ブリジット・リン)が演じた女ヒットマン役のモデルは、 髪型やスタイルからみて、『グロリア』のヒロインをモデルにしていると思いますが、 今回の『天使の涙』で黎明(レオン・ライ)が演じたヒットマン役にもモデルがいたのでしょうか
「レオン・ライの役は、ブリジット・リンの役を反映したような形でつくられたキャラクターなのです。 いうなれば、『サムライ』のアラン・ドロンの役をイメージしたといえますね。 また、『天使の涙』での金城武の役は、『恋する惑星』 での王靖[雨/文](フェイ・ウォン)の役を反映したようなキャラクターといえます」

—— つまり、二作で、性別を反転した形でのキャラクター設定をなさっているという ことですね。
「そうです。二作の関係からいっても、キャラクター設定も表裏一体の形をとっているといえます」

—— 『恋する惑星』の後半部分は、昼間の場面が多いのに対して、 同作の前半部分、 『天使の涙』は全編にわたって夜間の場面が大半を占めていますが、 意図した点はあるのでしょうか
「特にありません。ただ、昼間スクリプトの作業にかかっていたので、 おのずと撮影が夜間になってしまったのです」

—— 王監督の作品の中で、必ず女性が床を拭いているシーンが出てくるのですが何か 意図するものがあるのでしょうか。
「女性が掃除をしている場面は、セクシーだと思っているからです。 今度は男性でそのシーンを撮ってみようかと思います。(笑)」



*王監督は、始終にこやかな雰囲気で流暢な英語で質問に答えてくれました。
 中国語圏はもとより、東南アジア、韓国、そして、フランスをはじめとするヨーロッパ、 さらに北米と『恋する惑星』と『天使の涙』は、昨年から今年にかけて公開が相次いでいます。 世界を舞台にさらなる監督の活躍を期待したいところです。




金城武 来日会見



 九六年のヒット作『恋する惑星』に引き続き、 王家衛監督の『天使の涙』 で主演を飾った金城武が去る五月に来日しました。
 昨年茶髪だった髪も、本来の?黒髪に戻って、数々の取材にもかかわらず、 丁寧に質問に答えてくれました。


—— 今回の『天使の涙』では、男女の恋愛のエピソードのほかに、 父子の関係が描かれていますが、息子役を演じるにあたって、役柄で留意した点はありますか
 「今回もシナリオがなかったので、当日父親がいる役だと知りました(笑)。 しかも、今回は話さない役だったので、一日一枚渡されるスクリプトには、 ほかの役者さんのセリフの合間合間に、“武入(たけしはいる)” の二文字が記載されているだけだったので、困惑しましたね。 どういう表情で入るのかが指示されてませんでしたし。
 アイスクリーム屋のセットは、はじめから決まっていたのですが、そこで何をするかは、 はっきりしていなかったのです。で、アイスクリームに火をつけたら面白いんじゃないかと 提案したんです。アイスクリームに火をつけるシーンですが、 はじめ角砂糖にウォッカをしみ込ませてアイスクリームに埋め込んでいたのですが、 いざ本番となると蒸発してしまっていて、蝋燭をつかうようになりました」

—— 父親役を演じた素人の俳優さん(陳萬雷)とは、いかがでしたか。 実際に舞台になった重慶マンションの管理人の方だと伺っていますが。
 「気配りのある、おとなしい方でした。 映画の撮影を間近に見て、面白いなって思ったのか始終クスクス笑っていました」

恋する惑星』でもここがロケ場所でしたが、借りるだんになって、 彼のキャラクターが監督にひびくものがあって、今回の出演が決まって、 予想外に役も大きくなったようです。 そういう意味では焼き鳥屋の日本人店主斉藤さんも同じらしいです。

「逆に素人の俳優さんたちの好演で、監督に叱咤激励されちゃったこともありました(笑)」

—— 『恋する惑星』と 『天使の涙』の両作に出演なさって、違いはありましたか。 今回はしゃべらない役でしたが。
 「前回より王監督により近付いたことで監督が意図しているものが、 なんとなくわかるようになりました。セリフがあればキャラクターの表情と感情がわかりますから、 演技しやすいのですが、例によって演技の細かい指示もないし、 しかも今回はセリフがなかったので、ありきたりのものにならないよう、 自己判断で演じました。モノローグも後から入れる部分が大半でした」

—— 金城さんがヒロインをバイクの後にのせて、疾走するラストシーンは、 全編を覆う冷たさの中で、人の体温を知る温かみのあるシーンで、 非常に印象的だったのですが。
 「このシーンは、初日に撮りました。あらかじめ締めのラストシーンとして 用意したものではなかったようです。当初は、全く違うストーリーで、 ミシェルさんが演じた女性は麻薬中毒者で、そこで僕が演じた喧嘩早い男とラーメン屋で出会って… っというように展開していく予定だったんですけどね。 出来上がった作品とまるで違ってますね。(笑)」

—— 香港で俳優をなさっている立場として、 97年の香港の中国返還を前にした香港映画界について感じられていることはありますか
 「台湾にしてもシンガポールにしても、香港映画は、出尽くした感があるようで、 新しいマーケットとして中国大陸をめざしているようです。ですからワンシーンでもいいから、 中国大陸でロケしたものを入れるなどの工夫がなされているようです。 でも、中国大陸へ売り出すためには、ストーリーの中で描かれる表現に限定があって、 体制批判的なニュアンスのあるものや、過激な暴カシーン、男女の性的なシーン、 同性愛を描くシーンは避けなくてはいけないのです」

—— 王監督以外に特に一緒に仕事をしたい監督はいらっしゃいますか。日本では 先日洪金寶(サモ・ハン・キンポー)監督の作品が公開されていましたが。
 「あらゆる監督と仕事をしたいです。ひとつひとつが勉強になりますからね。でも、 私的な理由で俳優やスタッフに怒る監督はイヤです。なんとなく現場の雰囲気が悪くなるから。 サモ・ハンさんはとてもやさしい人です。 ただスタッフには厳しい人のようです」

—— 次回作についてお聞かせ下さい
 「まず『北京之戀』です。これは、王家衛監督が製作で、監督は、 葛民輝(エリック・コク)。主演は、監督と僕が決まっています。6月から撮影に入ります。
 あと、『北京之夏』ですが、この作品は、 王監督があちらこちらでPRしているようですが、 僕は詳しくは知りません。出演するとしたら冬のシーンらしいですが。
 王監督にこのことを聞いたら、『北京之戀』の演技いかんで、 『北京之夏』 のほうの出演を決めるって言ってました(笑)」



*将来はもしチャンスがあれば監督もしてみたいとの言も。多忙なスケジュールの最中で 少々お疲れ気味のようでしたが、監督をするなら、 ぜひ俳優で王監督を起用してみたいなどというジョークも飛ぴ出して大笑。でもその時には、 王監督は「しっかり台本をみて演技するから、台本がなくちゃ出ないぞ」と言っていたそうです。

(取材・文/地畑・志々目)



〈フィルモグラフィー〉

九三年 ワンダーガールズ東方三侠2〈現代豪侠傳〉』 (杜[王其]峰/ジョニー・トウ&程小東/チン・シュウトン)
九四年 沈黙的姑娘』未 (陳勲奇/フランキー・チェン)
九四年 恋する惑星〈重慶森林〉』 (王家衛/ウォン・カーウァイ)
九四年 報告班長3』未 (金鰲勲)
九四年 第六感奇緑人魚傅説』未 (羅文/ローマン・ロウ)
九四年 校園敢死隊』未 (金鰲勲)
九五年 中国龍』未 (朱延平/チュー・イェンピン)
九五年 金城武の死角都市・香港〈無面俾〉』 (洪金寶/サモ・ハン・キンポー)
九五年 臭屁王』未 (朱延平/チュー・イェンピン)
九五年 天使の涙〈堕落天使〉』 (王家衛/ウォン・カーウァィ)
九五年 冒険王』未 (程小東/チン・シュウトン)
九五年 逃學戦警』未 (朱延平/チュー・イェンピン)
九六年 四個不平凡的少年』未 (朱延平/チュー・イェンピン)
九六年 馬永貞』未 (元奎/ユン・ケイ&劉鎮偉/ジェフ・ラウ)

*()内は監督名


*会見中に出てきた王家衛監督の新作『北京之戀』についての補足を少々。
 この作品は、梁朝偉(トニー・レオン)、張曼玉(マギー・チョン)、 關叔怡(シャーリー・クァン)、金城武の主演で、北京で撮影の予定だそうです。
 金城武の役には当初中国の人気ロッカー何勇の名があがっていたようですが、 やはり金城武の出演が決まったようです。ちなみに關叔怡は、 『天使の涙』の中で、 黎明と李嘉欣を繋ぐ「忘記他」という曲を歌っていた歌手で、それが縁で? 次回作に出演が決まったとか。

ちなみに王監督にはもうひとつ『春光乍洩』 (BUENOS AIRES AFFAIR)という新作の予定があるそうで、主演は、 張國榮(レスリー・チョン)と梁朝偉(トニー・レオン)だそうです。

本誌「シネマジャーナル」及びバックナンバーの問い合わせ:
order@cinemajournal.net
このHPに関するご意見など: info@cinemajournal.net
このサイトの画像・記事等の無断転載・無断使用はご遠慮下さい。
掲載画像・元写真の使用を希望される場合はご連絡下さい。