女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
35号   pp. 53 -- 55
劇場で公開してほしい! せめてビデオ化してほしい!

香港映画(6)



「こんな香港映画が日本で劇場公開されればいいのに、せめてビデオ化されればいいのに」 という声がある中、日本で劇場公開される香港映画はほんの少し。それでもレイトショーで 公開されるのはいいのだけれど、東京より遠方に住む人たちや遅い時間帯に劇場に 足を運べない人には不都合なのが現状のようです。

 ということで、今回もこのコーナーを設けました。

 次号ではもっと多くの方々の参加をと願っています。どうぞお気軽に原稿をお寄せ下さい。

地畑寧子






『殺手的大空』

記…知野二郎

監督: 陳木勝
出演: 任達華(樂文華)
于榮光(陸承風)
鐘麗(蓉蓉)
陳少霞(蚊女)
陳啓泰(陳警部)
羅家英(光頭英)


1.「闇の帝王・陸承風」

 香港黒社会に君臨する陸承風(于榮光)。彼は類希なる統率力と時には非情とも思える 残忍性で、ここ数年の間に目ざましい台頭を見せて来た香港の闇を支配する男だった。

 彼の右腕とも言える樂文華(任達華)は、陸に気に入られ…絶えず陸と行動を共にしていた。 陸の一の子分、蚊女(陳少霞)は、そんな樂を毛嫌いしており…陸の愛人である蓉蓉 (鐘麗)だけが樂に対して好意的だった。

 だが或る日。大麻の取引の為、港に到着した陸と樂達を待っていたのは警察の一斉検挙だった。 「サツか!? 小華!ズラかるぞオ!」陸は必死に追いすがって来る警察を振り切るべく 車を走らせる。「風哥…逃げられっこない。自首しよう! 今なら…まだ間に合う」 「自首…?てめえがそんなに根性無しとはなア」アッという間に警察隊に包囲された 陸達の車。「ケッ! こうなったらサツを一人でも道連れにしてやらア。小華、 銃を寄こせ!」だが樂文華はその銃を陸に突きつける。「小華?…お前!」 「すまない風哥。俺は刑事なんだ。頼む、俺はあんたが好きだ。降伏してくれ! 今なら罪も…」「黙れええ! そうか…あれだけ目を掛けてやったのによ? てめえが サツだったとはなあ!? くそオオオ!」

 樂が潜入刑事だった事を知った陸は必死に説得する樂を車から蹴落とすと警察隊に 車ごと突っ込んで行く。「小華オオオオ! 地獄で待ってるぜえええ!」 「風哥ア? やめろオオ! 撃つなアア!」だが樂の願いも虚しく居合わせた陳警部 (陳啓泰)の命により一斉射撃が陸の車に浴びせられ、陸は車ごと海へ突っ込んでいった。 「風哥アアアア! 何故だ? 何故撃ったんだ!? 俺がきっと彼を説得できたのに!?」 呆然と海面で炎上する陸の車を見つめる樂…闇の帝王、陸承風死す…。



2.「樂と蓉蓉」

 樂は本件の功績が認められ、警部に昇進。「フッフ…またお得意の潜入捜査で 出世ってわけだ?」何時も樂に敵意を示す陳警部の侮辱に耐えた樂は、その足で 陸の死んだ港へ向かう。そこでは蚊女達による陸の葬式が営まれていた。

 凄まじい敵意の視線の中、樂は静かに三拝を陸の遺影に示すが、「この裏切り者オオオ!」 「ドス!…」蚊女のナイフが樂の腹に突き刺さった。「グウウ…、す、すまない! みんな、 俺の為に!」樂は血ダルマになった腹を押さえたまま、三拝を終わらせるとそのまま 気を失った。「樂ウウウ! てめえなんか死んじまえエエ! ギャハハハ!」 蚊女の狂った哄笑が楽の耳に響いた。



 一年後。回復した樂は何とか平静を取り戻し、次々と事件を解決。樂文華警部の名は 香港警察でも広く知られていた。

 プライベートでも看護婦の恋人、阿JUNEという美しい女性に支えられ樂は過去の 苦しみからやっと解放されていた。

 だが、そんな或る日。樂は軽犯罪に手を染めた蓉蓉と再会する。そして陸の死後、 彼女の兄が殺され、陸の組織も解散した事を知る。「皆あんたのせいだわ! どうして くれるの? 帰ってよオ!」「阿蓉、俺に償いをさせてくれないか?」「償い?  そんな事しても風哥は帰ってこないわ!」「!…」

 失意の樂に日頃から彼を励ましてくれる黄警部から通報が入る。大金持ちとして 知られる光頭英(羅家英)の家に再三に渡って、脅迫行為が繰り返されていると 言うのだ。だが当の光頭英は、ガンとして警察の保護を拒んでいた。

 「阿華、こりゃ臭いぜ! あのハゲ親父、何か隠しているな」「黄警部…?」



3.「生きていた陸承風」

 樂は彼の誠意ある謝罪によって、少しずつ心を開き始めていた蓉蓉の家へと その足で向かった。既に夜となり、樂は足早に蓉蓉の家の門を通り抜けようとした時、 「小華!…久ぶりだな?」そう声を掛けられた樂は暗がりに立つ屈強な男性の姿に 思わず愕然とする。それは1年前に死んだと思われていた陸承風だった。「風哥…?  生きていたのか!」「ああ、俺は不死身だぜ」二人は思わず抱擁を交わす。 「小華、俺はお前を少しも恨んじゃいねえ。だがチョットだけ力を貸してくれ。 なあ? いいだろう?」「風哥、いったい何を?」

 一夜明け、陸は樂に運転させる車で、或る小学校に向かう。「チョット待っててくれ、 直ぐ戻るからな」「風哥、いったい?」

 樂が長い時間と共に車内に居ると、突如として銃声が学校内に響いた。そして陸が 銃を片手に、そしてもう一方の腕には幼い少年を抱え戻って来た。「出しな、 裏切り野郎オ!」更に助手席には蚊女が乗り込んで来た。「これは風哥! どういう事だ!?」 「早く車を出せエエエ! 小華オオオ」

 何と陸は自分が失踪する以前、自分の金を横取りした光頭英から金を奪い返す為に 光の一人息子を誘拐したのだ! そして金を奪い返した陸は、光頭英を惨殺。 「風哥、あんた何をやってるんだア!? 俺は警部なんだ。このまま見逃す訳にはいかない。 あんたを逮捕する。」「小華、俺を逮捕するならしろ!? だがお前も共犯になってる事を 忘れているぜ、ヒイヒヒヒヒ」「風哥?」「いいか? 俺は帰って来たんだ。陸承風こそ 帝王よ! ガハハハハハ」



4.『堕ちる男』

 陸は更に、樂が敬愛する黄警部をも時限爆弾で爆殺。その罪を樂にナスりつけた上、 樂の恋人・阿JUNEを誘拐する。「阿JUNE! 陸、まさか貴様ア?」 駆けつけた樂を押さえつけた陸は強力な覚醒剤を樂に注射し、意識朦朧となった樂の 目の前で、阿JUNEを海へ投げ込んだ。「阿JUNE! ウオオオオ」 泣き叫ぶ樂を尻目に、陸は「オイ、コイツを街のド真ん中へほうり出して来い。 手に銃を縛りつけてなア。グハハハハ!」と命じる。

 覚醒剤によって錯乱状態となっている樂は恋人を失った悲しみと陸への怒りで、 街のド真ん中へほうり出されると狂ったように銃を乱射。駆けつけた警官を射殺してしまう。 無数の警官に追われる樂は必死に逃亡を開始する。

 「陸承風! 俺は貴様を許さない。許さんぞオオオオ!」意識を失いそうになるのを 必死に堪える樂の背後に追っ手の警官の足音が迫る。だが、そんな樂を寸での所で 救ったのは蓉蓉だった。「さあ、乗って!」フラフラの樂を車に押し込んだ蓉蓉はタイヤを キシませ、街を走り抜けた。

 街外れのアバラ屋で意識を取り戻した樂は、自責の念から銃によって自殺を図る。 だが、「あたしは、貴方をここで死なせるために助けたんじゃないのよ。阿華、 どうして判ってくれないの? あたしはずうっと貴方の事を…」との蓉蓉の涙によって 自殺を思い止まった樂は「蓉蓉、待っていてくれ。俺にはやらなければならない事がある。」



5.「対決」

 夜の倉庫。陸承風は大きな取り引きの為、ここへやって来ていた。だが…!

 「ガンガンガン!」手下が次々と射殺され始める。「誰だ! 出てきやがれエエ!?」 「俺だ、陸!」唖然とする陸の目の前には両手に銃を持った樂文華が立っていた。 「この死に損ないがアアア!」蚊女がバイクに跨ると樂に迫る。だが樂は懐から 火炎ビンを取り出すと蚊女目掛けて投げつけた。「これは黄警部から貴様への 贈り物だアアア!」「ぐぎゃあああああ!」火炎ビンは蚊女を直撃する。火ダルマと なった蚊女は悶え苦しみながら息絶えた。

 「樂、てめえ!?」「陸承風、貴様は余りに多くの人間を殺した。貴様だけは許さない!」 「ケッ! ならケリをつけようじゃねえか!?」陸はショットガンを手に繁華街へと走り出す。 追う樂。

 激しく銃撃戦を繰り返す二人。ビル内へ逃げ込んだ陸は楽が狙い撃ちしたプロパンガスの タンクが爆発した際の凄まじい爆風で、ビルから路上へ叩きつけられる。「ぐええ…」 血泡を吐き、身悶える陸に樂文華は頭上から高らかに吠える。「風哥、あんたは 帰って来るべきじゃなかった。何故帰って来たんだ!? 何故だあああ!?」「小華…!」 樂は猛然と陸へ突進すると、激しく陸を殴打する。何度も、何度も。陸は樂の 怒りのコビシによって血ダルマになる。とそこへ、陳警部が部下を引き連れ到着する。

 「二人を包囲しろ!」

 樂は血ダルマとなった陸を引きずり起こすと、「風哥、俺はあんたを殺さない! だが!」 と樂はズルズルと陸を引きずり、陳警部の前に陸を投げ捨てる。「樂…警部!」 樂を取り押さえようとする警官に陳警部は「待て! 彼は仲間だ」だが一瞬の隙を突き、 陸が警官の銃を奪い樂を撃った。「ガアアアアアン!」「小華、俺の勝ちだな!?」 だが「撃て!」陳警部の声により一斉射撃が陸を襲った。銃弾の雨によって、 蜂の巣になった陸承風ボロ切れのように地面に倒れ、息絶えた。アッという間に 陸の亡骸の回りに人だかりが出来る。

 樂は陸の最後を見届けると、ユックリと倒れた。陸の放った銃弾は確かに、 彼の身体を撃ち抜いていた。次第に意識が遠のいて行くのを感じながら、 樂は救急車のサイレンが近づいて来るのを聞いた。

 「阿華! 阿華! 大丈夫? しっかりして!」樂の目に蓉蓉の涙に濡れた顔が映った。 「…阿蓉?」樂は蓉蓉の柔らかな髪にソッと手を触れると、再び自分に生きる力が 甦って来るのを静かに待った。


—— 劇 終 ——

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