女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
35号   pp. 56 -- 59

マディソン郡の橋

女のと〜く

 全世界の中年男女の胸をしめつけ、号泣させた『マディソン郡の橋』。クリント・ イーストウッドの名演出と名演技。メリル・ストリープの田舎のおばさんから 恋する女への輝くような変身ぶり。この作品を取り上げるのには色々賛否両論がありましたが、 シネマジャーナルだからこそやりましょうとのことで、取り上げました。


['95米・ワーナー]
クリント・イーストウッド:監督・製作・主演
キャスリーン・ケネディ:製作
ロバート・ジェームズ・ウォラー:脚本
ジャック・N・グリーン:撮影
メリル・ストリープ:主演


●フランチェスカの生き方

出海「では、始めます」

宮崎「トークでやるから見に行ったけど、基本的にはこの手の映画は行かないな。 不倫したければ、勝手にどうぞという感じよ」

佐藤「私はこの前に少しオーバーにかいちゃったかもしれないけど、あの時代って ベティ・フリーダンが女性解放の本を書いて、ちょうどそれが拡がった頃でしょ。 私も夫との関係はこれでいいのかなんて思い、家を出たわけなのね。彼女の場合も 不満はないけど、他にやることがあるんじゃないかと思っていた時に彼が来た。 教師をやめて家に入り、亭主にも子供にも不満がないのに満たされない気持ちが よく出てた。普通ならこんな場合、家を出るのがアメリカ映画のパターンだったでしょ。 でも出ないじゃない。家を出なくても、あの4日の経験があったお陰で あとの人生が変わる。小さな田舎町で差別されてた不倫の女性を彼女だけは優しく接して、 いい友達になり、最後はその女性が彼女の灰をまく。そこに私は感動したわ。 子供が母親を見て成長していくのも映画ではよく描けていたと思う」

宮崎「私も佐藤さんが言った部分はよかったと思うけど、 基本的に興味がないな。 家庭とか不倫とか。それと、あの不倫した女性に近づくけど、自分の体験とかを 打ち明けたりはしてないでしょ」

佐藤「言ったかもしれないけど」

出海「言わないでしょう、この女性は」

宮崎「覚えてないな、寝てしまったから(笑)」

佐藤「ひどいわね、この人」



●ふたりの恋愛は永遠か?

宮崎「たんに、疲れてんだけど、疲れても寝ない映画はあるしね。とにかく、 ふたりの恋愛を基本的に永遠の4日間で完結させてしまうドラマには興味がわかない。 あの映画が人気出たのは、主人公が等身大だからね。好きな人がいても行けないのが 普通でしょ。映画はこれまで、現実では体験できない危険に飛び出していく女性を描いて、 すごい!と皆の共感を得てたけどこれはそうしない。それが中年以上の男女には たまらなくいいんじゃないかな。ただ、若い人とか、私みたいに結婚しないで 生きてる人間にとっては、うーん、『そうなの?』っていう気持ちよね」

出海「私なんか、あの小説読んで、 あの主婦の生き方と恋愛を考えた時、カメラマンはレンズを通して現実を見てるでしょ。 女性は家庭の窓枠から外の恋愛を見ている。幸せな家庭という安全で傷つかない スペースから、恋愛をのぞき見しているとしか見えなかった。そういう二人だから恋愛は 成り立たないと思う」

佐藤「おい、おい」

出海「互いに夢と夢が重なっただけで、 あれは4日しかもたない話なのよ。 だって車に所帯道具つんで、サンダルばきでGパン。仕事で世界中回ってる人って いかにもいるじゃない。格好いい生き方の男として書いてあるけどどうかな。 現実に出会ったら、話したり、お酒を一緒に飲んだりするのは楽しいかもしれないけど、 一緒に暮らすとなるとね。この女性だって、ついていかなかった中に打算が働いたと 思うわよ。こんな男じゃ自分がどうなるかわからないって。それと、最後まで旦那に 黙り通して、傷つけなかったっていうけど、夫婦でわからないわけないと思う。 旦那はわかってて、黙って見守っていた…かもしれない。細かく見て行くとこの女性は 相当したたかな主婦だと思う」



●フランチェスカは良妻か悪妻か?

宮崎「私は、もう結婚して家庭を作ること自体 拒否してきた人だから、家庭を守ると言われてもね、 その基本的なところが感覚的に違うから何とも言えない」

佐藤「泣いたって言ってたけど、どこで泣いたのよ」

宮崎「ただ、火葬した部分は泣けた。 基督教の精神が残ってる田舎で、火葬ってよほどじゃないとしないでしょ。 それを子供が母親の気持ちを受け入れてしてあげる。そこが泣けたわね」

佐藤「何度もいうけど、子供たちの描き方はよかったわね」

出海「でも、私こういう女性には共感できない。 家庭のためとか子供のためとかいっても、この女性は最終的には旦那を裏切ってるわけよね。 旦那がかわいそうよ。疑りながら死んだのよ。子供だって変に思うでしょ」

佐藤「私、今『心のおもむくままに』を読んでるけど、 主婦が不倫して子供産んで、旦那に隠し通すのね。でも旦那は知ってたのね。 死ぬ間際に『あの子は俺に似てない』って言うわけ…隠してたのはよくないよね。 今思った。でもこっちの女性は打算かな。 確かに風来坊についていってもしょうがないよね」



●フランチェスカの真似をしたら大変!

出海「良い悪いは別として、 やっぱり普通の男性が書いた小説よね。男の理想は『男が船で女は港』」

佐藤「渡り鳥やシェーンね」

出海「今は、女性の感覚を持った男がモテモテなのに。 港みたいな男がいたら…港の陣取り争いで大変か(笑)。それに私、 サンダルはいたカメラマンなんて格好いいと思わない。背広に革靴じゃだめなのかな」

佐藤「ジャーナリストは格好いい職業ではあるよね」

出海「あの名前をいれたペンダント、おかしいな」

佐藤「小説にあった?」

出海「あった、泣かせどころよ。 でもいかにもって感じ(笑)。ただ、こう言う風来坊に憧れる女性って多いわね。 周りにもいる」

宮崎「これが普通だと思うよ」

佐藤「等身大だけど、卑怯な等身大」

宮崎「一般には、なかなか冒険できなくて こういう結果になることが多いかもしれないけど、こういう本がベストセラーになったり、 映画がヒットするのは疑問だな。保守回帰の現象を感じる」

佐藤「それと、夫が不誠実な奴ならわかるけど、 いい人でしょ。この映画がヒットしたのは、やっぱりこういう普通さかな。 何か求めてる主婦が観たら『私だ』って共感する。でも私は、前世から星のもとに 運命がどうのこうのっていうのはいやだな」

宮崎「あたしもだめだな」

出海「でも、そういうのがないと何十年も 思い続けられないでしょうね」

佐藤「それに離れてたからね、一緒になってたら、 すぐ終わりよ、アラばっかり見えちゃってさ(笑)」

出海「それを、こういう恋愛もあるなんて錯覚したら大変」

佐藤「忠告しておくけどさ、これを真似して何か ヨレヨレした変なのが来てさ、カーッとなって出ていったら、困るわよ(爆笑)。ほら、 何かしなくてはいけない症候群て、40代にあるでしょ。男はね、何か人生を 変えたくなると仕事をどうするか考えるけど、女はそれが恋愛。 男を変えることで人生を変えるのはよくないよ」

出海「それは、女が経済力がないからでしょ。 ぶら下がっているから。あの女性も教師をやめて農家に嫁いできた。 そこから、苦しみが始まった」

佐藤「だから、彼女はね、なにもあのカメラマンに付いて 行くんじゃなくて、彼が隣町かなにかに越して来て、会いにいけばいいのよ」



●フランチェスカと夫の関係は?

出海「そうしながら、亭主にたいして罪の意識をもって、 逆に愛情がわいたりして。でも考えたら、この亭主も女と似たりよったりの男だったのね (笑)。だまされてても家庭の平和は壊したくない。生活第一で、夫婦がどうの、 愛がどうのなんてどうでもよかった」

宮崎「それは現代に生きて、都会に住んでるから思うのよ。 地方で農家だったら仕方ないと思う」

佐藤「金持ちだったしね」

宮崎「村八分になるし」

出海「『普通の女』って観た? ストーリーも シチュエーションも似たような話なんだけど、女が違うのね、 男(セールスマン)を追って汽車に乗るの。気付いた男が恐れて、どうしたと思う? 必死にしがみつく女を汽車から突き落とすのよ。それを亭主が看病する。 女はそれからも農家の主婦をして暮らすけど、窓から汽車が走るのをぼーっと 見てる姿で終わるのね。その方が好きだな。 やってみたけど駄目でしたっていうのが」

佐藤「これまではさ、神経的な人が気が触れて… 大波乱になるのが多かったけど、これは普通じゃない。でも、 夫が知ってるか知らないかが曖昧なままで終わってるのが残念ね」

●不倫と浮気

出海「キンケイドは、得したわよね。 やりまくって帰っちゃった(爆笑)」

宮崎「ひどい言い方だな(笑)」

佐藤「やり捨て、やり得(爆笑)」

宮崎「ちょっと言い方に気をつけるべきよ」

出海「あの女性、本当に大胆よね。だって本では、 ベッドルームに入れたってはっきり言ってる」

佐藤「そうそう、驚いちゃった。旦那と同じベッドなのか、 すごく考えちゃった(爆笑)」

出海「その間に旦那から電話かかってきたでしょ。 『牛の品評会、うまくいってます?』なんて、よく普通に対応できるわ(爆笑)」

宮崎「でも映画じゃどの部屋かわからなかった」

佐藤「どっか行けばいいじゃない。一日はホテル行ったのかな」

出海「あの男もズウズウしい。上がり込んじゃって」

佐藤「人が来たりするし、安心して出来ないんじゃない」

出海「隣の奥さんがコンニチワって(爆笑)」

佐藤「不倫はそのスリリングなところがいい(爆笑)」

出海「でも、いくら鈍い旦那でも帰ってきたらわかるわよ」

佐藤「かわいそうね…」

出海「だからキレイなところしか見せてないわね、これ」

佐藤「でも彼女の気持ちも分からないでもない」

出海「彼女、大人だったのか、世間知らずのお嬢奥様だったのか」

宮崎「もともとそこの人じゃないから。 それと情熱的なイタリアの血が入ってる設定でしょ。 好きなことを大胆にやってのけることも出来るのね」

出海「この女性に対する感じ方はふたつに大きく分かれると思う。 共感するのと、もう一方の意見は?」

佐藤「すごいしたたかな不倫の女性。よくないって」

出海「私もそう思う。よくないな」

佐藤「若い人はそう言ってる。 新聞でベタベタほめてるのって男の人が多い。 年いってる人が多い。ああいう女性はかわいいのかな」

出海「旦那の気持ちになったらとんでもない妻だと思わないの」

佐藤「逆なのよね。これまでは旦那が外で浮気していて、 家庭も大事だからと帰ってくる。この映画では妻がその立場なのね。 自分がフランチェスカに重なって見えるって書いてた男の人がいたわ」

宮崎「女が別の男と関係すると不倫で、男は浮気。不倫は人道に背くということだから、女性により厳しい言い方なのね」



●これからの恋愛

佐藤「今まで夫がしてきたパターンを、 そのまま妻が真似るのはよくないわよ。 ずるさに気がついてほしいな。するなら破滅覚悟で本気でしてもらいたい。 そうなってもいいように自立してからね」

出海「成り行きでどうかなるのは止めた方がいい。 それから、もう、男のロマンに女が夢を託すパターンの恋愛はやめて、 自分でしっかり現実を見る恋愛がいいんじゃない。 たまたま道を聞かれたからって、カーッとなるのはやめよう(爆笑)」

宮崎「男がしてきた間違いをたどるのはやめましょう」



( まとめ 出海)

出席者 佐藤 宮崎 出海


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