女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
35号   pp.44 -- 47

お母さんが東京国際映画祭で見た映画

出海



 第八回東京国際映画祭が開催されました。今年は京都から東京へもどったので、 何本かまとめて見ることができました。その一覧表です。 (★は??、★★楽しい、★★★すごく楽しかった)

南京の基督
34号に感想は書きました。 富田靖子さんが主演女優賞とはね…。『ラストソング』のモックンといい、 日本にチョット甘い。
渚のシンドバッド


『二十歳の微熱』についで快調。橋口監督の長まわしは時間が苦にならないほどいいですね。 感情がキューと集約される。
好男好女
現代の部分の主人公とやくざの恋愛…もうついていけない。 台湾の旗手もただの中年おじさんだったのか。
烈火戦車

劇場の前で立っていたら、目の前に止まった車からアンディが降りて来た。 Yシャツと髪が同じブラウンなのが印象的。
チャイニーズ・チョコレート
カナダの中国系女性は、あんな簡単に男と寝てしまうのか。泣いて 『愛する夫と家庭が欲しい』はないでしょう。頑張れ。
息子の嫁


監督のユーモアが最高。息子の嫁に手を出したお父さんの悲劇。 でもお父さんを憎めないし相当のエンタテイメント映画
ベルリン
話の核となる失踪女性がワーキュレーお姉さん。存在感も、失踪理由も判然とせず、 ただ回りが騒ぐだけ…どうして??
アクセルの災難


モテ男アクセルが長年の恋人と言い寄るゲイの間に挟まれて大変… 結婚とは何か、パンクでコミカルなセリフが最高
君さえいれば〜金枝玉葉〜


これはミュージカルと言っていいのかな。『さらば、わが愛』のレスリーとは まったく別な彼の魅力。私はこっちが好き。


『渚のシンドバッド』

監督 橋口亮輔
脚本 橋口亮輔
撮影 上野彰吾
出演 岡田義徳
山口耕史
草野康太
浜崎あゆみ

 『二十歳の微熱』でデビューした監督の2作目は、高校生が主人公。 クラスのリーダー浩之に憧れる修司。浩之は、誰にでも優しく、親切だ。 同じ吹奏楽部で親友として付き合っているが、修司の特別な感情に浩之は 気づいてくれない。そのあたりの修司の切ない気持ちの演出がうまい。

 そこへ、いわくありげな女子の果沙音が転校してくる。彼女はいち早く 修司の気持ちに気づき、相談相手になるうちに、ふたりはいい友達になる。

 一方、果沙音の大人びた言動と人をバカにした態度に面食らう優等生の浩之は、 同級生のガールフレンドがいるのに次第と果沙音に魅かれていく。

 この監督の描く男女のからむシーンが好き。少しもいやらしくなくて、真摯で、 必死でしかもやるせない。彼の作品を見てると必死に人を好きになった頃の自分が よみがえってくる。自分への嫌悪感、自信のなさ、不安など…。特に修司が 教室で浩之に言い寄るところは迫力満点だ。

 惚れられる男、浩之のキャラクターもよく出ていた。母子家庭の長男である彼は 母や妹に頼られるが人に甘えない。博愛主義。それが修司には耐え難いのだ。 バイクなどささーっと修理して、乗りこなし、重い物もさっと持つし、母親に 頼まれれば夕ごはんの買い物だって気軽に行ってくれる。監督はいい男の魅力を よく知っている。これってもしかしたらすごい好みの問題かもしれないけど、 監督のこれからの仕事に注目!




『チャイニーズ・チョコレート』

演出・監督 チェン・ツイ
チー・チャン
出演 ダイアナ・ポン
シャーリー・ツイ
ヘンリー・リー

 カナダへの中国系移民は香港の中国返還を前に増加し続けているといわれている。 この映画は、ひとりは留学で、ひとりは単身赴任の夫に会いにトロントへやってきた女性の 生活を描いている。

 留学生ジェシーはハンサムな中年英語教師にひかれてベッドをともにする。けれど 彼には家庭があり、美しい妻と子供がいる。

 夫を持つカミーユのもとには、会社の同僚から夫の交通事故死が知らされる。 絶望した彼女は空港で知り合ったビジネスマンに悩みを打ち明け、二人は恋人同士になる。 しかし、男は結婚を望むカミーユに煮え切らない返事。若い恋人も発覚する。 慣れない異国で男に裏切られ、女ふたりが慰めあうという話。

 映像的にアップが多用され、作者の狙いがわからず苛立ってしまった。

 内容的にはジェシーが先生と別れて、金のために中華料理店の店主のじじいと 寝るところや、カミーユが男の裏切りに遭い、『愛する夫と家族が欲しかった』 と泣くところなど、全体的に受動的な女性の生き方、意識が根底に流れていて いやになってしまった。現代西洋社会に翻弄される中国女性の前途は多難。 あまりにも簡単に男と寝すぎるところも気になった。




『息子の嫁』

監督・脚本 スティーブ・ワン
出演 リー・リーチュン
ファン・ルイチュン
クォ・ツーチェン

 主人公リン・アディは養子の息子と嫁、孫の4人で、人里離れた山林で暮らしている。 このアディおじさんが異様なキャラクターの持ち主。1945年まで日本の統治下にあった 台湾で日本軍として戦った経験を持ち、サムライ、軍国精神の人。毎日訓練よろしく 刀の素振りを忘れない。天皇をこよなく崇拝し、君が代を歌う。

 息子が徴兵に出て中国との国境で戦っている時、おじさんは若くてかわいい嫁にムラムラと…。 山林を叫びながら走って邪心を振り払うのだが、ある日、釣りに行った折り、とうとう 嫁を押し倒してやってしまう。と、書いてしまうと日本にもよくある話だが、 ラジオから流れる怪談話や、家宝の蛇酒など効果的に使って、聴覚、視覚からこの話を ユーモアある寓話に仕立てている。羽衣伝説のように、嫁が羽衣の裾を翻して 空に上って行くシーンや、室内に射し込む光、ラストの火事などウナるような美しい映像が続く。 編集出身の監督らしくその技術もすごい。台湾の新人監督スティーブ・ワン氏に期待したい。



※上映後のディスカッション

ワン監督「日本に来れて嬉しく思います。 ニューヨーク大学ではたくさんのプロ映画人と共に時間を過ごせたことが 何よりの収穫です。このドラマを皆さんはアクション映画とみますか、喜劇と見ますか、 それとも悲劇とみますか? アクション+悲劇とみて欲しいです。 アクションをにこやかに見ていただけたら嬉しいです。シリアスにならず、 この時間を楽しんで下さい」

質問「製作について教えて下さい」

ワン「製作費用250万ドル。撮影3ヶ月。仕上げに58日 かかりました。撮影中、台風に3回も遭い、スタン・ライも京都で私のことを 台風男といっている」

質問「原作はあるのですか」

ワン「65年に実際に起きた事件で、私がニューヨークから 帰った時、友達が本を見せてくれた。台湾は保守的な国で仏教など古い世代が 新しい世代の愛をかちとるためにこれらをどう取り去るかがテーマになっている」

質問「へびのシーンには必ず異様な音楽がかかるが 意味があるのか」

ワン「東洋ではヘビが悪、セックスの欲望を表すが、 曲が流れるたびに蛇を出してサスペンスを盛り上げた。ラストにおじさんは 蛇に咬まれて死ぬがそれも暗示している」

質問「ラジオのゴーストストーリーが効果的に 使われているがその狙いは」

ワン「はじめは嫁が一人で家にいる時の不安感を高める効果に 使った。なってはいけない関係になってからは、彼らの言うに言えない気持ちを ラジオの語りで表し、悪の予感を知らせた」

質問「撮影はどこでしましたか」

ワン「山に囲まれたシータオ国立公園のそばで行いました」




『アクセルの災難』

監督・脚本 ゼンケ・ヴォルトマン
出演 ティル・シュバイガー
カーシャ・リーマン
ヨハヒム・クロール

 こういう映画が見れるのも国際映画祭のいいところ。『きらきらひかる』や 『ウエディング・バンケット』に似てるが、一番違うのが主役の男がストレートなこと。 その点からいくと『渚のシンドバッド』の図式に近い。ゲイにも女にもモテる男。 浩之と同じに自然体、男らしくておおらか。求められると振り切れない。 それを優しさととるか博愛主義の残酷さととるか。とにかく浮気が原因で 恋人にアパートを追い出されたアクセルが、泊まりに行った先がベジタリアンのノベルトの家。 彼はゲイでアクセルを一目見てポーとなる。それとは知らないアクセルは どんどん裸になってシャワーを浴びたり…。大の字になって寝たり。

 ゲイと言ったら逃げられると思い、言わずに尽くすノベルトのかいがいしさと、 アクセルの奔放ぶりが面白い。恋人が妊娠してることがわかりラストは皆なに祝福されて 結婚するのだが、ノベルトとの友情やアクセルを囲む仲間がみんなユニークで 笑わせてくれる。監督は初のコメディ映画がドイツで動員120万人の大ヒット。 これが4作目。セリフがすごくウマイ。








§映画の本紹介

『原節子伝説』

「おばあさんになって、女優をやめて、のんびり何もいわれないで、 どこでも歩ける時が、いつくるかしらと、楽しみにしています」 42歳でスクリーンから消えた銀幕の大スター原節子。この本は、 彼女の写真集と伝記を2分の1づつ合わせた構成になっている。

 中でもモノクロの写真がいい。高峰秀子や杉村春子など日本的な美女の中、 西洋的な体格と知的で強い意志を秘めた顔、近代的な原節子の美しさを 改めて認識した。

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