女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
31号   pp. 18 -- 33

東京国際ファンタスティック映画祭94報告

>>香港映画特集編



関口治美

 東京国際映画祭の協賛企画として生まれた東京ファンタは今年で十周年を迎えました。 一回目から通い続けているファンタオタクの私は、今年も有給を駆使して 23作品という映画三昧。ここでは香港映画を除く主な作品について語りたいと思います。


『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』 (オープニング作品)

93年/監督/ヘンリー・セレック
声の出演/ダニー・エルフマン
     クリス・サランドン 他

 『バットマン』のティム・バートンの原案、製作による人形アニメ。 もしもハロウィンのモンスター達がクリスマスを乗っ取ったら、というブラックかつ ファンタジックなミュージカルです。ティム・バートンの世界が好きな人は必見で、 私はモチお気にいり。バートン映画には欠かせない映画音楽家 ダニー・エルフマン自身によるボーカルもなかなか聴かせてくれました。 ただし、幼い子供に観せるのはやめた方がいいのでは。 タイトル通りに悪夢でうなされそうな気がします。


『バッド・ガールズ』

94年/監督/ジョナサン・キャプラン
出演/マデリン・ストゥ
   アンディ・マクダウェル
   メアリー・スチュワート・マスターソン
   ドリュー・バリモア

 マデリン・ストゥ、アンディ・マクダウェル、メアリー・スチュワート・マスターソン、 ドリュー・バリモアという美女四人組による異色ウエスタン。 『テルマ&ルイーズ』の西部劇版といってもいいかもしれません。 四人とも今までのキャラクターを一新するような活躍ぶりでしたが、 中から一人選べといわれたら、私は迷わずドリュー・バリモアを上げます。 二挺拳銃が板につき、派手なスタント、ついでにお色気シーンも一手に 引き受けてしまうカッコ良さで、「いよ! 元・天才子役」と声をかけたくなるほど。 彼女の作品は東京ファンタで三年連続上映され、ファンタオタクの中でも 意外と人気者のようです。


闇の帝王復活! ゾンビ・オールナイト

 ファンタジー、SF、ホラー。これらが元々ファンタの三本柱ですから、 十周年にスプラッター・ホラーの原点に戻るのはごく自然な事でした。 ファンタ名物オールナイトに私はほとんど参加していますが、 今年は二夜連続(前夜は『香港電影不夜城』)という超ハードさ。 おまけにバージョンが違うといっても、もとを正せば同じ『ゾンビ』 を二回観るというのはしんどい、というのが正直な感想です。 場内は立ち見が出るほどの盛況ぶりで、前夜よりも入りが良かったけれど、 よほどのマニア以外はどちらかのバージョンでコックリしていたようです。

 上映されたふたつの『ゾンビ』の違いはというと、 監督のジョージ・A・ロメロの『ディレクターズカット完全版』は、 かの有名なゴブリンの曲や擬音を極力抑え、生き残ったキャラクター達の描写に 重点を置いてあるので、サバイバル・ドラマという感じ。もう一つは製作、 脚本に協力したダリオ・アルジェントの監修版。かつて今はなき有楽座で ロードショーされたときのバージョンとほぼ同じですが、全編にくどいほど ゴブリンの曲がかかり、ゾンビが肉をむさぼるときには大げさな擬音がはいるという 典型的なスプラッターぶり。マニアにはロメロ版の方が評価が高いようですが、 スプラッター・ホラーとして観るなら、アルジェント版の方が面白いと思います。 二本の間には、ルパート・エヴェレット主演の『デモンズ95』が口直し(?)に 上映されました。次々と現われるゾンビと戦うエヴェレット君(なぜか阿部寛に似ている) が滑稽な、なかなか面白いホラー映画でしたが、ファンはがっかりするのでは?


『ナチュラル・ボーン・キラーズ』

94年/監督/オリバー・ストーン
出演/ウッディ・ハレスソン
   ジュリエット・ルイス

 今や90年代を代表する盤督になってしまったクエンティン・タランティーノの 原作をあのオリバー・ストーンが映画化。いつものストーン流偽善ぶりが形を潜め、 とってもシュールなバイオレンス映画に出来上がっています。さすがオリバー・ストーン。 演出ぶりはずっとタランティーノより上だとうなってしまいます。 今までオリバー・ストーンに嫌悪感を抱いていた人にこそお薦めしたい作品ですが、 タランティーノのトレードマークである“血”もものすごいので、覚悟して下さい。


『レイジング・エンジェルス』

94年/監督/クリス・クリスチャンセン
出演/ショーン・パトリック・フラネリー
   マイケル・パレ 他

 もと肉体派女優の筑波久子が、渡米してロジャー・コーマンに弟子入りして プロデューサーになったのが、チャコ・ヴァン・リューウェンというオバサマ。 ファンタのオープニングからその意表をつくパフォーマンスぶりで私達を 「なんだ、あのオバサンは?!」と釘づけにしていたのですが、 この日の舞台挨拶もすごいものでした。いきなり歌を歌い出し、自己陶酔の極致。 きらびやかなドレスに身を包み(振り袖の日もあった)、投げキッスしながら 甘い声で語りかける“愛の伝道師”姿を皆さんにお見せできないのが残念です。 はっきりいってこの人のキャラクターは、今年のファンタ最大の収穫 (というかなんというか)だった気がします。 で、作品のテーマは天使と悪魔の戦いなそうな。壮大なテーマのわりには、 なんじゃこれは!と言いたくなるようなラストで、シェリー・ウィンタースと ダイアン・ラッドというオバサマ達がいなかったらお話にならないようなものでした。 悪役のマイケル・パレ(彼のバンドについて知っている方いませんか?) がなんともなさけないのよね。

掲載写真キャプション: かつての日活、新東宝の映画で活躍した女優・筑波久子こと、 チャコ・ヴァン・リューウェン


『居酒屋ゆうれい』

94年/監督/渡邊孝好
出演/萩原健一
   山口智子
   室井滋 他

 なぜか評論家受けが良いらしいこの映画、私はあまり買っていません。 この手の話ならかつてファンタで上映された(チェリー・チェンとポーリー・ウォンの 舞台挨拶付き)『ファントム・ブライド』の方がずっと面白かったと思います。 まあ、酔っ払って山ロ智子にからんだショーケンを上映前に見てしまったせいも ありますが…。この舞台挨拶は本編よりも楽しませていただきました。

掲載写真キャプション: 『居酒屋ゆうれい』の舞台挨拶にて/ お三方の表情、特に室井滋の冷ややかな表情…/ ここでの顛末は女性週刊誌の話題にも…


『アラビアのロレンス完全版』

62年/監督/デビッド・リーン
出演/ピーター・オトゥール
   アレック・ギネス
   アンソニー・クイン
   オマー・シャリフ

 今年の目玉の一つで、ファンにとっては悲願の上映だったといえるでしょう。 何せこの完全版が今は亡きデビッド・リーン自らの手で完成したのが89年。 日本公開を待っているうちにビデオ化されてしまった経過があったのですから。 オーバーチュアもインター・ミッションもちゃんとある70mmでの上映とは 嬉しいかぎりでした。が…。ラスト十分前に起きた釧路沖地震のために、 あわれフィルムはズタズタになってしまったのでした。 リールからはずれたフィルムを巻き戻し、切れ切れになったラストシーンを 観終わった頃には50分もたっていました。結局“完全版”はまぼろしに 終わってしまったのです。


『シリアル・ママ』

93年/監督/ジョン・ウォーターズ
出演/キャスリーン・ターナー 他

 キャスリーン・ターナーが正義感あふれる殺人鬼に扮するこの映画を日本で作るとしたら、 主演は加賀まり子しかいないでしょう。バリー・マニロウの歌に合わせてゴミを 選り分けるなんてぴったりでしょ。 本来だったらディバインが演じたであろう役柄にいどんだターナーが面白すぎて文句なしです。 後半出てくる“白い靴の女”は昔世間を騒がせたあのパトリシア・ハースト。 ジョン・ウォルターズがメジャーになってしまうのには一抹の不安があったのですが、 あの明るいヘンタイ度は健全です。このあとに上映されたのが『八仙飯店之人肉饅頭』で、 つまりスプラッタニ本立てというわけ。 こんなプログラムを組んだスタッフに頭が下がります。


『ハードロック・ハイジャック』

94年/監督/マイケル・レーマン
出演/ブレンダン・フレイザー
   スティーブ・ブシューミ 他

 タイトル通り、売れないハードロック・バンドがラジオ局を占拠してしまうという スプラスティック・コメディ。最近めきめきと頭角を表してきたブレンダン・フレイザーと スティーブ・ブシュミがロック野郎を演じている、それだけでも楽しい作品です。 デビュー作『ヘザース ベロニカの熱い日』のショックが忘れならない マイケル・リーマン監督はこれからが楽しみな人。


『マウス・オブ・マッドネス』

94年/監督/ジョン・カーペンター
出演/サム・ニール 他

 ファンタでは以前『ゴースト・ハンターズ』が上映されている ジョン・カーペンター監督ファンには応えられない、本格ホラーの傑作です。 主演のサム・ニールがこんなにステキに見える映画はちょっとありません。 かつてカーペンターは『ゼイリブ』で映像によるサブリミナルを扱いましたが、 こちらは小説による洗脳と狂気がメインなので、妙に現実的な気がして、 観たあとジワジワと恐怖が襲ってきます。ビクビクしながら家路をたどったのは 私だけではないでしょう。


『シャドー・チェイサー2』

94年/監督/ジョン・イヤーズ
出演/フランク・ザガリーノ

 前作を観ていないげれど、観たからどうだというほどのものでもありません。 典型的なB級SF映画で時間つぶし以外の何物でもありませんでした。


『フィラデルフィア・エクスペリメント2』

93年/監督/ステファン.コーンウェル
出演/ブラッド・ジョンソン

 こちらの前作は封切り時に観ていますが、今回の方が面白かった気がします。 でも、よく考えてみるとこのテのタイム・パラドックス物って矛盾ばかりなんですね。


『シャドー』(クロージング作品)

94年/監督/ラッセル・マッケイ
出演/アレック・ボールドウィン
   ジョン・ローン

 実物はさすがにハンサムだった(でも熱帯魚柄のネクタイにメイド・イン・ホンコンを隠せなかった) ジョン・ローンの舞台挨拶で盛り上がったあと、 10年間の締め括りはこの作品でした。1930年代のコミック・ヒーローに扮するは アレック・ボールドウィン。対する悪役はジンギスカンの末裔ことジョン・ローン。 『バット・マン』と『ディック・トレイシー』 を足して2で割ったようなお話で、サイレント活劇のような楽しさでした。 ジョン・ローンは、ボールドウィンをすっかり喰っていて、ファンは大喜び (でもラストがなさけない)だったのでは? それにしてもオカマ、ジンギスカン、 忍者と続く彼の選択基準っていったい…?

掲載写真キャプション: ファンに囲まれ満面笑みのジョン・ローン/ サカナ柄のネクタイがおしゃれ?



 十周年にふさわしく、なかなか凝った面白い作品ばかりでしたが、 香港映画以外の私にとってのベスト3は順に『マウス・オブ・マッドネス』 『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』 『シリアル・ママ』でした。

 さていくらかは会場の雰囲気が伝わったでしょうか?  東京ファンタはマニアだけの映画祭だと思っていませんでしたか?  こんなにバラエティに富んだ映画ファンのための映画祭なんですよ。 次回はぜひ一緒に映画を楽しみましょう。 弟分の夕張ファンタもよろしく。

>> 東京国際ファンタスティック映画祭
>> ゆうばり国際ファンタスティック映画祭




地畑寧子

今年は、おおもとの東京国際映画祭が京都を会場にしていたせいか、例年以上に このファンタスティック映画祭は込みあっていたように思います。しかし、 なんていっても話題作をズラリと揃えたラインナップが、映画ファンを会場へと 足を運ばせる一番の誘因だったのだと思います。
 前記の関口さんが、実に穿った感想を書いて下さっているのですが、ここでは、 私なりの感想を書きたいと思います。


『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』

 『バットマン』はもちろんですが、『ビートルジュース』を観て以来、 (この作品のオープニングに映る町の模型がものすごく精巧にできていてびっくりした) 気になる監督になっていたティム・バートンの製作と聞いて、いっぺんにこの作品に 飛び付いたわけですが、予想以上のすばらしさでいうことはございません。
 ハロウィンとクリスマスを扱ったお話ですが、このブラックユーモアは、 お子さまにはちと難しそう。大人のためのファンタジーアニメといっていいと思います。
 人形をひとこまひとこま動かしては撮っていく、ストップモーションアニメといえば、 それは気が遠くなる作業。この作品もゆうに二年の歳月を費やしたとのこと。
 この映画を観た後、以前アニエス・ヴァルダの『ジャック・ドミューの少年期』 を観た時に、主人公の少年時代のドミューが、この映画の原点ともいえる ストップモーションアニメで手作り映画を撮っているほのぼのしたシーンを 思い出しました。
 ティム・バートンは、かのカレル・ゼーマンの映画が好きだそうで、 私も知人にすすめられて以前に観たことがあるので、この作品を観て、 なるほどと思いました。少年心を失わない冒険心と探求心、そして精巧なまでの アニメーションでの表現技術。また、こんな素晴らしい映画をつくってほしいと 思うばかりです。
 彼の次回作は、ジョニー・デップ主演の『エド・ウッド』。 史上最低の映画監督と言われた映画監督を題材にしたものだそうです。 今から楽しみです。


『ナチュラル・ボーン・キラーズ』

『トゥルー・ロマンス』といい『キリング・ゾーイ』やこの作品といい、 クエンティン・タランティーノが参画している作品は、不思議と タランティーノ印の映画になってしまうのはなぜでしょう。 この映画にもいつものオリバー・ストーンの色がほとんどなくて、ひたすらアララ…。 そうはいっても、よくみれぱ結構演出にアラがあるタランティーノ監督作品は、 『ワイルド・アット・ハート』なんかと見比べるとまだまだの感があるのですが。
 ですから、この作品、やっぱり演出は、オリバー・ストーンで正解。 なんだかんだといっても締めるときは締めるプロなんですね、ストーン氏は。
 主人公のふたりは、当然ヘンな二人なんですが、脇役もかなりキテます。 特に刑務所署長のトミー・リー・ジョーンズは、思わず笑ってしまうほどのマヌケぶり。 『依頼人』とはまたちがったボケぶりを発揮していますので、(出番は少ないです) 彼に注目している方は、必見です。


『レイジング・エンジェルス』

 この作品に聞しては、この作品自体よりもプロデューサーとして来日した 元筑波久子さんの方が印象に残ってます。
 ファンタにしては、この作品は観客の平均年齢が高いなあと思っていたら、 かつての彼女のファンが応援に会場に来ていたからのようです。
 さて、作品の方はといいますと…ビデオでいいかなっというのが感想。 主人公のショーン・パトリック・フラネリーは、どうみても ロックを目指す若者って感じじゃないし(弱々しい〜)、ラストに出てくる エンジェルの姿が、完全にヘビメタしてる(ガタイがよくてブロンドの長髪)のには、笑。 ストーリーもわかったようなわからないようなモノで、始終苦笑の連続でした。
 ちなみに主人公のフラネリーは、TV版のインディ・ジョーンズを演っていた人です。 周囲の人に勧められて観たものの、どうしてもハリソン・フォードのインディを 忘れられず、このシリーズがしょうにあわずに途中で観るのをやめてしまった 経験があります。ですから、こと彼に関しては今日までちっとも相性が合わない私です。
 でも、日本では、フラナリーのCDが発売されてたそうです。題名もズパリ 『あくなき挑戦』。気になる方は聞いてみて下さい。私はこの映画で彼の歌声を聞いたので 遠慮しておきます。


『マウス・オブ・マッドネス』

 欧米の中年男優では、すでにケビン・コスナーもハリソン・フォードも卒業? している私なので、今はつまらないB級アクションから文芸モノまで世界を股にかけて 頑張っているサム・ニールの作品を観ることにしています。 そんな考えでこの作品を観ることにした私は、やっぱり邪道なんでしょうね。 (生粋のファンタファンは、当然ジョン・カーペンター作品として選ぶに決まってますものね)
 とはいえ、そんな邪道の私でもこの作品は大変面白い作品でした。 恐怖を描くことは、残酷に肉体に損傷を与えることだけではないのです。 この作品では、文字を武器にした狂気を扱っていましたが、前述の関口さんの通り、 現実にありえそうな題材で心の底から凍りました。



三〇号でたくさんの原稿が集まり、この号はそんなでもないだろうと思っていたら、 またいろいろな人からの原稿が集まって、嬉しい悲鳴をあげています。 締め切り間際に集まってくる原稿に編集担当者はアップアップ。 でも、今回は何人もの人がワープロ打ちや、校正、編集、版下作りに協力してくれました。
 M. 羽原さん、F. 川野倉さん、J. 志々目さん、M. 大場さん、 どうもありがとうございました。








香港映画特集編



関口治美

第一回の『蜀山/天空の剣』『山中傳奇』 以来、東京ファンタと香港映画の関係は深いものです。 昨年はアンディ・ラウで大いに沸かせてくれましたが、 今年も計8本もの作品を上映してくれました。


香港電影不夜城

ファンタで香港オールナイトが開かれたのは、87年の第3回以来のこと。 昨年のアンディ・パニックの二の舞を避けるべく、ファンタ十年目にして初めての整理券 (二回目のオールナイト、『白髪魔女伝』でも配りました) 発行ということで、オープニングから観る私には、ラッキーでした。 アニタ・ムイ、カリーナ・ラウ、そしてなぜかアルフレッド・チェンらをゲストに迎えて さあ始まりです。


『新難兄難弟』

94年/監督・陳可辛(ピーター・チャン)
     &李志毅(リー・チ・アイ)
   出演・梁家輝(レオン・カーファイ)
      梁朝偉(トニー・レオン)
      劉嘉玲(カリーナ・ラウ) 他

 ダブルトニー・レオンによる香港版『バック・トゥー・ザ・フューチャー』。 相変わらずレオン・力ーフェイが悪ノリ(あの声で歌っちゃうし、ヘンなダンスも披露) してますが、カリーナ・ラウの特殊メイク(重かったでしょうね)にまずびっくり。 必殺女殺しの目を持つトニー・レオンがなかなかの好青年ぶりで、 好みじゃなかった彼を見なおしてしまいました。タイムスリップしたとたんに 聞こえてくる曲が、『黒薔薇vs黒薔薇』のタイトルにかかる曲という楽屋オチも 楽しいもの。アニタ・ユンの三つ編み姿も可愛いし、オールナイトの一本目には 最適でした。

掲載写真キャプション: ファンから贈られるたくさんの花束を笑顔で受け取る香港の人気俳優トニー・レオン


『方世玉II』

93年/監督・元奎(ユン・ケイ)
   出演・李連杰(リー・リンチェ)
      瀟芳芳(ジョセフィン・シャオ)
      李嘉欣(ミシェル・リー)
      郭藹明(エイミー・コク)

 『ワン・チャイ』シリーズで、リー・リンチェイのファンになった私ですが、 これには正直いってがっかり。ユン・ケイとツイ・ハークの実力の差を 見せ付けられた気がします。『ワン・チャイ』では、リー・リンチェイの 世にも美しいアクションをこれでもかこれでもかと見せてくれましたが、 こちらでは奇を衒ったギャグやアクションをごまかしてしまったとしか思えません。 たしかに熱血ママのジョセフィーヌ・シャオはおかしいし、チャンバラそのものの 殺陣はすごいかもしれないけれど、これじゃブルース・リー・ブームから ジャッキー・チェン登場までに乱立したカンフー物と何ら変わりがないじゃない?  リー・リンチェイはもっと自分の良さに気付くべきだと思います。 私はなんだかムカムカしながら観ていたのでした。


『青蛇転生』

93年/監督・徐克(ツイ・ハーク)
   出演・王祖賢(ジョイ・ウォン)
      張蔓玉(マギー・チャン) 他

 ファンタおなじみのツイ・ハーク作品ですが、実に評価に困ってしまいます。 京劇や東映アニメでご存じ『白蛇伝』(小柳ルミ子の『白蛇抄』ではありません) を白蛇の妹分青蛇から描いたもので、前半は京劇っぽい書き割り風セットといい、 正に蛇女といった感じの青蛇(マギー・チャン)ダンスといい、 なかなかステキだったのですが、後半のSFXアクションが盛り上がらず、 ひたすら眠気を誘ってしまうのです。 ただし、本来なら年令的にいっても白蛇役のマギーをあえて青蛇役に配したのは正解。 ジョイ・ウォン(白蛇役)には前出のダンスや心理描写を細かく演じるなんて 不可能でしょう。マギー・チャンの演技力だけが救いといえます。


『東方三侠』

93年/監督・程小東(チン・シュウトン)
   出演・梅艶芳(アニタ・ムイ)
      楊紫瓊(ミシェール・キング)
      張蔓玉(マギー・チャン) 他

 アニタ・ムイ、ミシェール・キング、マギー・チャンによる女性アクション。 女バットマンみたいなアニタ(ドレスの胸元からスリップがのぞいていたのを 見逃さなかった私)、二人羽織アクションなどというとんでもないものを披露してくれた 透明人間のミシェール、パンク・メイクの賞金稼ぎマギー。みんな色っぽくて カッコ良いけれど、私の好みはマギーでした。 アホな悪役のアンソニー・ウォンにもあっけ(!)です。 なんたって、汽車よりも強靱で、切り落とされた自分の指をためらわず 食べてしまうというヘンタイオジサンぶり。 この続編はもっと面白いという噂なので観たくてしかたがありません。

掲載写真キャプション: オールナイトの舞台挨拶にて/ 左『東方三侠』の主演女優・アニタ・ムイ/ 中央『新難兄難弟』の主演女優・カリーナ・ラウ/ 右『新難兄難弟』の監督・ピーター・チャン



オールナイトでちょっと気になったのは、舞台挨拶が終わったとたん帰ってしまった 最前列の一行。一日3千円かけてたった15分で帰ってしまうとは!おかげで 私の周りはガラ空きになってしまったので、いてもたってもいられず、 立ち見の人に片っ端から声をかけるハメになってしまいました。 出ていく前に席を譲りましょうね。




『白髪魔女伝』

93年/監督・于仁泰(ロニー・ユー)
   出演・張國榮(レスリー・チャン)
      林青霞(ブリジット・リン) 他
   衣装・ワダ・エミ

 オールナイトに間に合わなかったトニー・レオンとエリック・ツァン、 それに世界のワダ・エミの舞台挨拶に続いて上映。トニーの必殺女殺しの瞳を 間近で見てしまったあとでしたが、この作品のレスリー・チャンには負けてしまいました。 とにかくレスリーが凛々しくてうっとり。ブリジット・リンとの悲恋も泣かせるし、 ラブ・シーンもきれい。(ブリジットはなぜ脱がないなどとヤボは言わないように)。 「いいなあ、わたしもしたい…」とため息をついていた女性もいたそうな (私じゃないってば)。こういう美しい映画を観てしまうと、益々日本映画に 悲観的になってしまいます。

掲載写真キャプション:
『白髪魔女伝」の衣装担当で香港金像奬を受賞したワダ・エミ
張堅庭(アルフレッド・チェン)監督/ 『彼女はシークレット・エージェント』などでその辣腕ぶりが評価されています
役者・監督・プロデューサーとして大活躍の曾志偉(エリック・ツァン)/ 香港映画に新風を巻き起している映画製作会社UFOの中心人物としても有名/ ちなみに『新難兄難弟』もこのUFOの作品。
ファンの声援に応えるエリック・ツァン、トニー・レオン



『八仙飯店之人肉饅頭』

93年/監督・邱禮濤(ハーマン・ヤウ)
   出演・黄秋生(アンソニー・ウォン)
      李修賢(ダニー・リー) 他
   製作・李修賢(ダニー・リー)

 あまりに残酷すぎてロードショーできない。台湾バージョンはややソフトなので どうにか上映できる。などとウワサが先行していた作品ですが、 『ゾンピ・ナイト』『シリアル・ママ』 などで免疫がついていた私には、スプラッター・ホラーとしてはやや 物足りない作品でした。この映画はどうやら実録物として観るべきだったようです。 そう考えてみると、獄中でも暴行や取り調べでの拷問シーンは確かに追力があります。 とはいえ、どうしてもTVのワイドショーでの再現フィルムを 観ているような気がしてなりません。アンソニー・ウォンの人肉解体さばきの 手際よさにはホレボレしてしまいました。まるで本職の肉屋さんみたい。



アンディ・ラウ・スペシャル

 アンディの舞台挨拶がほぽ絶望的だったにもかかわらず、平日の昼間とは思えぬほどの 混雑ぶり。途中、広島(アジア大会)からのアンディの電話をはさみ、 熱狂の二本立てとなりました。

『サンダーボルト〜如来神掌』

90年/監督・黄泰來(テイラー・ウォン)
   出演・劉徳華(アンディ・ラウ)
      王祖賢(ジョイ・ウォン)他

 確かにある意味では拾い物かもしれないけれど、ファンのためにも 上映するべきではなかったのではないでしょうか? バスよりも早く走ったり、 思い切り大きく笑ったりが秘拳“如来神掌”だって言われてもねえ。 元華が『タイム・ソルジャース』みたいに無敵の悪役ぶりを見せてくれるのは 嬉しいけれど、『ロジャー・ラビット』のパロディみたいなアニメ亀がラストで 突然活躍しちゃって大団円というのは、アホらしくてやってられません。 ギャグも笑うに笑えないものばかりで、特にジョイ・ウォンの侍女役の女性が、 男性下着でドレスを作るシーンには、げんなり。 今回観た香港映画中ダントツのハズレでした。


『殺人者の童話』

94年/監督・陳静儀(ヴェロニカ・チャン)
   出演・劉徳華(アンディ・ラウ)
      袁詠儀(アニタ・ユン) 他

 こちらはなかなか楽しめました。今年日本で公開されたアンディ映画のほとんどが アイドル然としたものばかりなので、そろそろ彼の映画に飽きてきた頃だったのですが、 こういうシリアスな役ならむしろ安心して観ていられます。女殺し屋のアニタ・ユンが 喘息持ちというのには、私自身がそうなので妙な親近感を覚えてしまいました。 悪役の一人もいかにも憎々しげでマル。警部役のレイ・チーホンもシリアスで ステキだったけど、ラストのウィンド・サーフィン・ルックがてんで似合わなくて残念でした。 アンディはアクション・スターのわりには二の腕の筋肉が発達していないのが気になります。 ムキムキは似合わないと思うけれど、もう少し鍛えた(ほんの心持ちでも)方がいいのでは?



 といった具合で、今回の香港映画の中で私のお気にいりは 『白髪魔女伝』『新難兄難弟』『東方三侠』 といったところ。来年もステキなゲストと楽しい作品に巡り会えますように。





地畑寧子

 東京国際ファンタスティック映画祭94のもう一本の柱ともいえる香港映画群の上映。 昨年より〓に(更に?)ファン層が広がってきたようで、 すごい熱気。私もその熱波にのって一気に全部観まくってしまいました。



『新難兄難弟』

 今年のベスト10に入れたい作品。
 現在の香港映画で人気、そして抜群の演技力で三本の指に入る二人が、 なんと父子を演じる人情喜劇。今の日本では、ミドルエイジ以上をターゲットにした 人情喜劇は、今も一、二シリーズで残っているものの、 それ以下の年齢の人が楽しめるモノはないのが淋しい限り。
 香港映画がカンフーや黒社会モノだと思っている人に特にオススメしたい作品です。 香港映画は、この作品に限らず、『籠民』や話題作『新不了情』など、 いわゆる長屋ものといわれる人情コメディの秀作があるのも忘れないでほしいと思います。
 好青年を演じたトニー・レオンもさることながら、ちょっと頑固で気風のいい父親を 演じたレオン・カーファイのオヤジぶりはもっといい。あまり知恵はないものの 人望があって、ユーモアもあり、貧しいことなんて気にもしない。 他人の悩みごとは自分のこと以上に心配して解決しようと奔走する。 こんなキャラクターをひょうきんさも込めて演じられるのは、 彼かチョウ・ユンファくらいなものでしょう。(だからラストのオチも効いてくる)
 お金持ちの令嬢をアッケラカンと演じてたカリーナ・ラウもよかったし、 この三人をとりまく人たちにも大いに笑わせ泣かせていただきました。

掲載写真キャプション:横顔も美しいカリーナ・ラウ


『方世玉II』

 この作品に関しては、30号 (59ぺージ)で書いたので多くは書きませんが、やはり監督の元奎(ユン・ケイ) がむりやり俳優として登場したのは、一作目の面白さに水を差した感じでいただけません。
 とはいえ、『天地大乱』レペルを期待しなけれぱ、見所、笑いところは ふんだんにあります。それも一重にリー・リンチェとジョセフィーヌ・シャオの頑張りのおかげ。 やはり二作目からでなく『方世玉』から上映されるべきだったのではと、 『方世玉』シリーズファンとしては悔やまれてなりません。


『青蛇転生』

 色はきれい、主演の女優二人はまばゆいほど美しい。 この点ではいうことはない作品ですが、何度観ても眠くなる作品です。 オープニングからアラビア調の音楽に乗ってマギー・チャンが蛇に化したダンスを 踊るシーンまでは観られるのですが、その後は、 このいつまでも耳にのこるアラビア調音楽を聞きながら仮眠といった状態。 特にラストに白蛇(ジョイ・ウォン)が赤子を産み落とすシーンは、 あまりに御粗末で、製作者側は「どうだ感動できるだろ」と画面で 訴えているかのようでかえって興醒め。しかし、僧を演じている超文卓は、 彼の孤高の人っぽい冷たいイメージが効いていて、リー・リンチェから引き次いだ 黄飛鴻役よりこちらの方がずっと似合っていました。


『東方三侠』

 主演女優三人に関してはいうことはありません。日本ではきっと作られないような 作品なので、(たぶん作ってもサマにならないと思う) この手の映画は香港映画を観て楽しもうと思っています。
 それにしてもヘンタイぶりがすっかりオハコになってしまった アンソニー・ウォンっていったい。あとで気が付いたのですが、 彼が使っていた首ごと掴みとるかごみたいな武器は、その昔ジミー・ウォングが 主演していた、その名もスゴイ『空飛ぶギロチン』という映画で使われていたモノです。

掲載写真キャプション:舞台挨拶で笑みを絶やさなかったアニタ・ムイ


『白髪魔女伝』

 この作品も今年のペスト10に入れたい作品。
 闇を基調にした画の美しさ、見応えのある重めのストーリー、 悪の権化をおもわせる邪道の一門の親方二人のフリークな姿など、私好みの一品でした。
 とにかく強くて気高く美しいブリジット・リンとレスリー・チャン。 (ふたりが四十歳前後だとは全然思えない)  特にこのふたりのラブシーンには、画の美しさも消し飛ばされるほど美しくていうことがありません。
 一方ストーリーはというと、厳しい武門に生きる剣客の世界もハードなら、 障害を踏み越え、愛に生きようとすべてを投げ捨てお互いを求めようとするふたりの道程も ハードと実にかっちりと出来た展開で、好感がもてました。特に邪道に生きる悪者の元を 去る時、儀式としてブリジット・リンが、ワレモノの上を歯を食いしばって 歩いていく姿には、思わず涙。こんなにまでして行き違ってついぞ結ばれない二人。 観おわった後、かなりずしっときた映画でした。


『八仙飯店之人肉饅頭』

すでに二十八号で書いたので、 多くは書きませんが、あのレイプシーンをビデオで観ていたらたぶん 昨年のビデオベスト20には入れていなかったと思います。私がビデオで観たのは 北京語版だったので(したがって台湾で上映されたバージョンです)、 この胸が悪くなるようなレイプシーンは省いてあったように思います。
 しかし、このシーンを無理矢理入れようとしたダニー・リーって どういう人なんでしょう。今までかっこいい刑裏役などでかなり彼を観ていて、 ファンとはいわないまでも好みの俳優だったのに、人格を疑ってしまいました。


『サンダーボルト〜如来神掌』

 なんだか懐かしい80年代っぽいつくりのコメディアクションでした。 相変わらず古代のお姫さまの一発芸を見せてくれるジョイ・ウォンはともかく、 アンディ・ラウファンの人にはいいとしても、そうでない人間にはちょっと物足りない気も…。
 ただ面白かったのは、『東成西就』でも使っていた、虫を相手の腹中に入れて 太鼓で行動範囲を制御するカラクリ。
 とりあえずは笑えた作品でしたが、かなりの本数をこなしている彼ですから、 もうすこしちがったタイプの作品を紹介してあげればよかったのにと悔やまれます。


『殺人者の童話』

 この映画の監督は、アメリカのアクション映画が好きなのではと思わせるほど、 オープニングでスナイパーの手際のいい姿をかっこよく映し観客をぐっと引き付け、 人物設定(スナイパーの元縮めが画廊を経営するクールな女性で、 彼女を秘かに慕う男たちを従えているとか、画廊が指令を送るオフィスになっている) や細かいトリック(指令を高価な画に挟むとか、アンディ・ラウが逃走中に、 スケボーを通気孔に走らせて相手をだますなど)も工夫されていて、 アクション映画のツボをわかっている人だと感じました。
 難をいえば、主人公の二人のデートシーンや町中を走る車中から天を仰ぎみるシーンが 不必要なほど長かったりと中だるみの部分があったことです。
 観る前には、あのアニタ・ユンがスナイパーの役?と期待をしていなかったのですが、 彼女がなかなかの好演。 香港の女優の世代交替を思わせるだけの実力のある人だと確認をした次第です。
 ちなみにこの映画の監督は、ヴェロニカ・チャンという女性です。 文芸・ドラマものを得意とする女性監督が多い中で、アクションものに以前から かかわっている人のようなので(この作品が初監督作)、今後が楽しみです。

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