女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
31号   pp. 46 -- 47

中国の女性監督たち 第一弾

宮崎 暁美

 今年は中国の女性監督の来日が相次いだ。六月に名古屋アジア文化交流祭に来た 『雲南物語』の張暖忻監督、 一〇月に女性未来21に来た『北京好日』の寧瀛監督、 十一月に江ノ島女性映画祭に来た『画魂』の黄蜀芹監督、 『天国からの返事』の王君正監督、 『独身女性』の秦志[金玉]監督など。 それに江ノ島女性映画祭では中国の女性監督の特集が組まれた。 (藤岡さん、橋本さんのレポート参照)

 世界の映画界では活躍する女性監督が増えているけど、なんといっても活躍しているのは 中国だろう。現在中国には三十数人の女性監督がいるらしいが、 日本でも中国映画祭などで上映されてきた。 そんな中国の女性監督の作品から日本公開作を紹介したい。




王好為(ワン・ハオウェイ)

 日本では『ピンぼけ家族([目焦]這一家子)』(七九)、 『夕照街(夕照街)』(八三)、 『少女 香雪(哦! 香雪)』(八九)、 『離婚(離婚)』(九二)が上映されている。 人情物やコメディタッチのものに定評がある中堅クラスの監督。 カメラマンの夫、李晨声(リー・チェンション)との共同作品が多い。 女性監督としてだけでなく、北京映画製作所を代表する監督でもある。


ピンぼけ家族([目焦]這一家子)』(七九)北京映画製作所

 人情コメディ物。紡績工場の現場主任の一家四人(父、母、娘、息子)の日常生活を コメディタッチで描いている。中国映画を見始めた頃に見たので、 息子のガールフレンドを家に呼ぶシーンでお父さんや息子も含め一家全員で分担して、 買物に、部屋掃除に、テーブルセットに、料理にと準備にあたっていたのが印象的だった。 この映画に出演していた劉暁慶が百花賞助演女優賞を獲得。


タ照街(タ照街)』(八三)北京映画製作所

 北京の古い胡同(横町)「夕照街」を舞台に、建築ラッシュが続き、 古い北京が新しい北京に生まれ変わっていく隙間の、胡同に住む人々の人間ドラマ。 失業青年たちを集めて商売を始めてしまうたくましさに、この人達はどこにいっても やっていげるだろう、と思ってしまった。 最後はこの夕照街に住む人々が離ればなれになってしまってほろりとさせられる。


少女 香雪(哦! 香雪)』(八九)北京児童映画製作所

 山村に汽車の駅ができて、この駅に通うことを通して、汽車の乗客とのかかわりから 都会との接点を見いだす少女たちを描いた。 山村の四季が美しい。特に秋の柿取りのシーンが印象的。

離婚(離婚)』(九二)北京映画製作所

 未見なので、藤岡さんの江ノ島女性映画祭報告 を読んで下さい。





張暖忻(チャン・ヌァンシン)

 日本では『青春祭(青春祭)』(八五)、 『おはよう北京(北京早)』(九〇)、 『雲南物語(雲南故事)』(九三)が上映されている。 女性が主人公の作品がほとんど。紆余曲折しつつ、自分の人生をつかんでいった女性を 暖かい視点で描いている。微妙に揺れ動く女性の心理や気持ちを するどく映像に反映させている。


青春祭(青春祭)』(八五)北京電影学院青年映画製作所

 雲南省にあるタイ族の村に文革中、下放された少女の精神の開放を描いた。 失われた青春へのレクイエムと再生を意識して作った作品だそうだ。 瑞々しい映像が印象的。


おはよう北京(北京早)』(九〇)北京青年映画製作所

 現代っ子のバスの車掌を主人公に、打算的な彼女の恋人選びを描いた。 結局ニセ留学生と結婚して、商売を始めたところでバスの運転手、車掌との 三つ巴の恋のさやあてはけりがつく。ニセ留学生がライブハウスで崔健の 「假行僧」を歌っていたのはニセ留学生のオチがあったのね。 本誌二一号に佐藤さんの映画評が載っています。


雲南物語(雲南故事)』(九三)北京映画製作所

 日中戦争後、中国に残留し雲南に暮らしている実在の日本人女性をモデルに描いた作品。 くわしくは本誌三〇号及び、 この号の 名古屋アジア文化交流祭の記事を参照して下さい。





董克娜(トン・コーナー)

 中国の女性監督の草分け的存在。多作の監督であるが日本で上映された作品は 『ひとりっ子(失去的夢)』(八九)だけである。九〇年の中国映画祭の時に 代表団で来日した。


ひとリっ子(失去的夢)』(八九)瀟湘映画製作所

 ひとりっ子政策がとられている中国では高学歴を目指し、子供に 過度の期待がかかる。そんな中で実際に起こった母親による息子殺しを元に作られた作品。





黄蜀芹(ホァン・シューチン)

 『舞台女優(人・鬼・情)』〈八七)、 『画魂(画魂)』(九二)が日本では上映されている。 どちらも大変な努力の末、芸術的な頂点を極めた実在の女性をモデルに描かれた作品。 江ノ島女性映画祭で来日した監督ですが、パンフレットの中で 「文化の刷新と創造は非主流の中から生まれるでしょう。 女性監督は女性の視点から映画を作ることによってかえって 主流映画にはないものを持てるのです」 と語っています。


舞台女優(人・鬼・情)』(八七)上海映画製作所

 従来男だけが演じてきた鍾馗の役に取り組み、人間国宝級になった 裴艶玲(ペイ・イエンリン)をモデルに、彼女の半生を振り返る物語設定。 数々の困難に出会いながらも自分で道を切り開らき、ついに鍾馗役者として 認められるまでを描いた。裴艶玲は日本にも公演しに来たことがある。


画魂(画魂)』(九二)上海映画製作所

 二年前から心待ちにしていた作品! 今や国際的な女優となり、 日本でもよく知られている鞏俐が主演している。中国の女性画家、 潘玉良の生涯を描いた。彼女が生きた時代の上海、パリを舞台に、 裸体画が得意だった彼女と時代との軋轢を描き「女性は人間ではない」から 「女性も人間」そして「女性も独立した人格を持つ人間」 へと変わっていった社会も映し出している。

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