女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
28号 (February 1994)   pp. 64 -- 65

わたしの好きなテレビシリーズ(4)
『CBSドキュメント』『48HOURS』(TBS)

深夜12時すぎホッと一息ついた寝る前、これらの番組を見るのを楽しみにしている。 TBSがCBSと提携して、古いのから最新のものまで生の音をいかしつつ、場面によっては 日本語に吹き替えてみせてくれるドキュメント番組。外国、とくにアメリカの社会問題や、 国民性の違いがわかってとても面白い。

どちらも一時間の番組。『CBSドキュメント』は、3本のドキュメントをCBSのレポーターが テーマにそってレポートし、その3本の合間にスタジオの日本側の二人のコメンテータが 短い解説を入れる。『48HOURS』はひとつのテーマでさまざまな取材を展開し、 アンカーマンとしてダン・ラザーが頭と終わりに出て来てコメントを入れる。 これらの番組が扱うテーマは、例えば、子供の行方不明、麻薬問唐、 中絶反対と賛成派の運動、エイズ、警察官犯罪、ミシシッピー水害、 ベトナムを再び訪ねて、死刑囚、セクハラ、神父の幼児への性的暴行… など興味ある問題をインタビューと実写で構成する。 ちょうど日本のNHKスペシャルとワイドショーをあわせたようなものと考えたらいいと思う。 でも日本と違うのは、相対する意見をもった人々に直撃取材しコメントをとり、 対立しながら紹介していること。日本ではなぜか見る者たちにはあたりさわりのない 芸能ニュースのみしかしつこい突撃取材がみられないが、ここでは、こんなこと、 こんなところでと驚くような突っ込んだ取材をどのような分野でも行う。 例えぱ、無罪を訴える死刑囚とその事件を扱った検事、弁養士にインタビュー。 セクハラされた女性が名指しで上司を告発し、その上司がモザイクなしで反論したり、 インチキ医者の告発とその医療を信じて治療を受ける患者とが堂々と主張しあったりする。 不正医療請求を訴える人とその医療機関に突撃し、請求を書いた責任者に 説明をもとめたりした。汚職警察官がでて罪のすべてを告発、 その問題を分析したりもする。番組をきっかけに、再審が開始されたり、 治療が廃止されたり、疑惑の人が逮捕されたり…と後日談もつく。

個人主義が徹底しているアメリカと日本の違いもあるが、一番見ていて思うのは、 インタビューされた人たちがはっきりと目分の意見を述べること。親だから、兄弟だから、 上司だから、先生だから、隣同士だから言うべきことを我慢することはない。 自分の生活に権利と義務を持つ。シロクロをはっきりさせる。何もないところから 何かをつくりだしていくには、やはり、それくらいの徹底さがないと…。

これらの番組を生んだCBSを知りたいと思い、 『ニュース帝国の苦悩?CBSに何が起こったか?』(ピーター・ボイヤー)を読んだ。 これは、CBSテレビのニュース論であり、CBSテレビの内部変遷ドキュメントでもある。 CBSニュースの歴史は、あくまで真実を伝える使命を持ち、 視聴率などに縛られない独立したひとつの分野であるという正統論と、 テレビニュースは生の瞬間を捕らえた劇的空間で、 それは視聴率を大いに稼げるひとつの娯楽的ショウ番組であるという考え方との 対立の歴史でもあった。1970年代から80年代を通して、 これまで聖域であったニュースの正統派が、新しいニュース論を持った人々に 交代していく過程を、ニュースはショウだ、の代表であるバン・ソーターの擡頭から 失墜までを追いながら描いていく。渋くて甘い、アンカーマンのダン・ラザーおじさまは どのように生まれたか。首脳陣は彼を使って視聴率のいっこうに上がらないニュース番組を どのように復興させたか…。女性キャスターはなぜ必要だったかなど、 この厚さ3センチほどの本にびっしり書かれてある。

日本のテレビニュースが午後6時からまるでヨーイスタート!と声がかかったように いっせいに走り出す今日の姿はまさしく10年前のアメリカのテレビ界と同じ。引き抜き、 引き抜かれ、堅苦しいニュース番組は高視聴率を目指して体質改善を余儀なくされ、 報道の娯楽化ショウ化が提唱され、すべてが視聴率にふりまわされる。そこで、 時間に追われて仕事するスタッフの中にはガンで無念死するもの、 ノイローゼで自殺するものが出ようが、時は人に関係なく流れ、 あしたの興味をひく出来事をもとめてニュースをたれ流す。 鳴り物入りで引き抜かれたキャスターも、視聴率が上がらなければポイされる。堅苦しい、 棒読みのかつてのNHKニュースより、男と女が並んだ今のニュースの方が見ていて楽しいが、 こうして高視聴率をつかんだニュース帝国CBSがその後どうなったかは 日本の今後を見るようで興味深い。通信衛星が次々あがり、 もうすぐ多チャンネル時代が確実にやってくるテレビの将来は今のように 明るいままであるはずはないと思うのだが…。ついでに言わせてもらうと、 NHKのあのCGたれながし、フジをまねたセンスのない娯楽化、 いつになっても一般化可能性のうすい視聴料ムダ使いもはなはだしい 大金を使ったハイビションドラマ作り。そのしつこいPR、これらもどうにかしてほしいな。

(出海)

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