女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
28号 (February 1994)   pp. 59 -- 62

試写室
試写から二作をご紹介

『トゥルー・ロマンス』  …… Y
『トゥルー・ロマンス』  …… 雀
『恋のたそがれ』  …… 出海
『恋のたそがれ』  …… Y


『トゥルー・ロマンス』

ひょんなことから『レザボア・ドックス』の評判を聞き、無性に観たくなって、 あまリ好きでない渋谷の某映画館に出掛けた。観てびっくりの面白さで、帰りは気分上々。 (26号で書きましたが) そしてこの『トゥルー・ロマンス』。監督は、トニー・スコットだけれど、 これは純然たる脚本のクエンティン・タランティーノの作品じゃないかな。 彼が日本のヤクザ&アクション映画オタクだとは聞いていたものの、ここまでやるとは…。 巻頭に出てくるサニー・千葉(千葉真一)の映画は観たことがないので、 さっぱリわからないけれど、日本人としてはひたすらニヤリ。 そして、主人公のクリスチャン・スレーターの部屋には、 渡哲也などのヤクザ映画のポスターがいっぱい。 (タランティーノさんの私物ではないかと思う) そして、テレビをつければ『男たちの挽歌2』が出てくるはで、 ハイスピードのストーリー展開と共に二重の面白さで、思わず声を上げて笑ってしまった。

ハッキリ言ってアクションはすご〜く派手。銃の撃ち合いは悲惨を通り越して、 笑えてカタルシスを覚えるほどものすごいし、 今まであまリ好きでなかったクリスチャン・スレーターが純で、思わずホロリ。 そしてなんといってもエライのは彼の恋人を演じるパトリシア・アークエット。 彼女は『ファー・ノース』で大声を張り上げる風変わりな女の子、 『インディアン・ランナー』でも狂暴なビーゴ・モーンテンセンの妻役で、 ちょっとキレてる身重の女性を演じていたけど、 ここでは派手派手の衣装にハードなアクション。一見おっとりした物腰だけに その落差にただただ恐れ入るぱかり。彼女はあのロザンナ・アークエットの 実妹らしいけれど、スレンダーな姉とは相反して彼女はグラマータイプの美人。 以前よリだいぶ痩せてもっと美しくなっていた。演技も上手だし 姉同様これからもっと期待できる女優さんだと感じた。

この映画は、90年代の『俺たちに明日はない』のお題目がついているようだけど、 『俺たちに明日はない』のラストに漂っていた無力感はない。 バイオレンスと純愛のミックスによって生まれた明るい未来、 希望に満ちた未来が待っている。彼らにとってこの一連の事件は、 幸せをつかむための思い出になっているというオチが笑うでもなく、 妙に明るくて観ている方は狐につままれたような気分になってくる。

ストーリー展開はいたってスピード感いっぱい。相手に口を割らせるために ジェットコースターに乗せる珍妙な拷問?があったリ、 警察の隠しマイクをつけた気弱な悪漢が盗聴に四苦八苦したり、 いわゆるその筋のプロがスレーターのようなアマチュアにまんまと乗せられてしまうなど ユーモラスなシーンもいっぱい。それにデニス・ホッパーと クリストファー・ウォーケンの夢のような大物対決?も唐突にあったり (ウォーケンのバシっと決めたポーズがかっこよすぎて言葉が出ない!)、 顔面傷だらけのヨタった買人にゲイリー・オールドマン、 ベッドでテレビばっかリ観てる別になんでもない役でブラット・ピットが出てたりと 映画ファンが喜びそうな場面もあって息つく暇がない。

この号が出るころには公開されていると思うので、興味のある方は、 ぜひご覧になって下さい。特にアクション映画が好きな人には超オススメの一品です。

(Y)


『トゥルー・ロマンス』

ぶっとび!!
でも、心地よかった。私の頭も相当ぶっとんでいるのだろうか? ともかく、監督の(あの『トップ・ガン』の)トニー・スコット一人じゃ、 こーんな面白い作品できっこない! 脚本の(あの『レザボア・ドッグス』の監督の) クエンティン・タランティーノの勝利。 この『トゥルー・ロマンス』は脚本賞もの。 たぶんアカデミー賞にノミネートされるだろう。もしかすると主演の二人も。 ひょっとすると、助演男優賞候補も出るかもしれない。

2時間1分、ノンストップ・バイオレンスの上に、細部が凝っていて、 笑わせてくれるからたまらない。日本の誇るサニー千葉のニンジャ映画、 そして『男たちの挽歌II』のビデオ!! 日本刀を持ったティ・ロン、 そして發仔のアップ!! 泣けそう! タランティーノ氏とお友達になれそう!

さらに主役二人を取り巻く共演者が豪華すぎる。主人公の父親(しかも元警官) =デニス・ホッパー、ヒロインのヒモで麻薬の売人=ゲイリー・オールドマン、 密売組織の顔役=クリストファー・ウォーケン、主人公の友人のルームメイト (ラリってる)=今をときめくブラッド・ピット、そしてエルビスの霊(?)= バル・キルマーなのだ。オールドマンの憎々しいへらへら笑いと、 ウォーケンの後光がさすようなかっこよさが最高。オールドマンは、 私にとって『ドラキュラ』の汚名をやっと雪いだという感じ。

これら主要人物の他にも、主人公の友人(つまりブラッド・ピットのルームメイト) が単細胞の好人物だったり、その売れない俳優仲間がびびった演技で笑わせてくれる。 また、実際の年より十は上に見えてしまう、 貫録あるクリス・ペンをはじめとする刑事連中も楽しい。

これらのクセモノに負けなかったクリスチャン・スレーターには、 この作品がたぶん代表作となるだろう。もちろん今までにもヒットはたくさんあったが、 見るファン層が限られていたと思う。だが、この作品に巡り会って、 けっこう彼は恵まれた道を歩いているのだと嬉しくなった。ずっとそうであってほしい。 いや、たとえヘンな作品でも私は観に行っちゃうと思うのだが。

パトリシア・アークェットが文字通り体を張った熱演。バスルームでの乱闘場面、 ガラスでケガしなかったのだろうか? 香港電影でもガラス割りは得意中の得意だけど、 あんなにアップで撮るのは珍しい。 (タランティーノはやはり香港電影をビデオで何本も見ているんだって!) それにしてもパトリシアって、すっごいグラマー。試写会場を出る時、 「すんげえおっぱい」と言っている女の子がいた。お姉さんのロザンナとは、 顔は全然似てないけど、バストの豊満さは共通している。

筋の説明はやめときます。次の一言で締めくくります。
『TRUE ROMANCE』万歳!!



PS.
  1. デニス・ホッパーの〈シチリア人の血筋説〉、 現実にもあの場面に対して流血沙汰が起きなかったのかと心配になった。
  2. 私はその後『レザボア・ドッグス』のビデオを借りた。 こちらもすっごくおもしろかった。ハーベイ・カイテルとティム・ロスが目下、 〈気になるあの人〉である。

(雀)


『恋のたそがれ』

出海 E.

監督・脚本 山ロ 貴義
製作・原案 平田 耕史
撮影・照明 塩田 明彦
音楽    本多 信介

「『恋のたそがれ』の監督をしました山口と申しますが、シネマジャーナルさんですか」 と電話が来た。わたしの仕事場がシネマジャーナルの連絡場所となっている。それで、 ときどき劇場、配給会社、もちろん全国の定期購読者の方々から電話をいただくが 監督さんからは初めて。監督という名前に弱いわたし、それだけで動揺するのに (カマトトな私)、『恋のたそがれ』を知らなかったものだからすごく恐縮してしまう。 スタッフの映画物知り縛士、カルトQにでたら優勝間述いなしの地畑さんも知らなかった この映画、さっそく試写会の切符を送っていただき、ふたりでぴあ試写室へ見にいった…。 前以て電話で場所を細かく確認したのに試写室のあるビルが分からずふたりで迷っていたら、 同じ堀所を探す男性が声をかけてくれた。彼が見つけてくれて、滑り込み。 どこのどなた様か、お名前を聞くのを忘れましたが、その節はありがとうございました。

さて、この映画はモノクロ16ミリ、70分。 主人公は小さなコミック誌の会社に勤める25才の男。 イラストレーター志望の彼女がいるが、担当を任されたわがまま漫画家の妹とも出来てしまって…。 この映画は、筋よりもシナリオ(とくに会語)と人物描写に注目。以下は感想です。

○テンポのはやいのが好きなわたしには、各シーンが長く、セリフの言い回しものんびりで、 このまま終わりまでいくとなるとどうなるのかな…と始めは不安だった。 でも半ば過ぎから慣れてしまって、それも気にならなくなった。

○出てくる女性がみな手足が長く、容姿、服のセンス、喋り方が似ていて姉妹みたい。 もっと短足で早口でがさつな女性も混ぜて欲しいね、監督の好みかな、と言ったら、 地畑さんたら、今の女性のスタイルはみんなあんなもんですよ、ですって。 年を感じさせる映画です。

○わたしの知り合いに、28才の息子が桔婚の気配をぜんぜん見せず、 密かに精神科医に見せようかと悩む母親がいる。また、23才の娘が大失恋で大騒ぎをし、 家族で心配していたら、その失恋相手の友達とルンルンでつきあいはじめ、 でも親には前の彼が忘れられないと訴え、その道徳心のなさにあきれて 胃痛を起こしている母親がいる。彼らたちにこの映画を見せれば、 理解できない子供の行動や子供の属する世代のことが見えてきて、 子供のことで身を削るより、自分の老後を考えることの方がよっぽど大事だと 考えるだろう。
私自身これを見て、20才の息子も含め、今の若い人たちの考え方が 具体的に見えてきたことが最大の収穫。息子だけでなく仕事や、 シネジャーで付き合う20代の男性や女性たちに不可思議なところがあり腹を立てたり、 幻滅したり多々あったがこれを見ていくつかは謎が解けた気がする。

〇コミック関係やわたしのいる映像関係の周辺にはこの種の若者はうじゃうじゃいる。 だが、その仲間うちだけのちまちました話しではなく、彼らの生活を通して 彼らの世代が普遍的に描かれているところにこの映画の面白さ、光る部分であると思う。 親子喧嘩に疲れた主婦たちにぜひおすすめの映画です。

○試写中は狭いし、声を立てると目立つ雰囲気で黙って見てたけど、 終わってその帰り道、とにかく地畑さんと笑いっぱなし。 登場人物の中の主要人物約3名がシネジャー関係者に容姿、声、性格すべてが 酷似していたからだ。思わずパンフレットで名前を確認したほど。 エピソードで出てくる話しは「あるある」と思いあたるものばかり。 ただ、美人ぞろいの女性たちと同じレベルのかっこいい男もひとりくらい出してよと言うのは賛沢かな。 それとも、今の若い女性たちってあいうふにゃふにゃした男をかっこいいと言うのかな。


『恋のたそがれ』

最近日本映画をあまり観なくなったので、一概にはいえないけれど、 私のような60年代半ば生まれの世代にとっての"我らの世代"を描いた映画が なかなか見つからない。この作品はその数少ない映画群の中で貴重な一品。 大事件が起るでもなく、日々がふんわりと過ぎていく。全共闘世代の人たちが観れぱ、 物足りないとは思うけれど、現在から遡ってこの十年くらいを振り返ってみれば、 私もこんな感じだったなあととても親近感を覚える作品である。

特に零細出版社にいた私は、主人公の男性が勤める漫画の出版社の人物関係や仕事、 辞めたいと相談にくる後輩、編集長の雰囲気など、あまりにリアルすぎて 苦笑のしっぱなしだった。学生時代の同窓の男性を見回してみても この作品に登場する男性達のように優しい人が大半。 傷つけるような荒いことも言わないし、やんわりと励ましてもくれて、 友達としては本当に付き合いやすいいい人ばかりだったように思う。 だからその延長にある恋愛に関しても同じこと。ただひたすら優しい関係で過ぎていく。 なんとなく恋愛関係になって、なんとなく別れて傷ついて、途方にくれて忘れてしまう。 そんな同世代の感覚が、この作品には息づいている。

この作品の中で唯一の事件といえぱ、車の貸し借リでのトラブル。 もちろん金銭がらみのことだから、多少のすったもんだはあるけれど、 できるだけの追求をしたんだし過ぎたことだから許してあげよう。 まとまりがあるようなないような解決法。 こんな身に覚えのあるエピソードのひとこまひとこまが、静かな笑いでつつまれている。 闘争はないけれど無感覚でもない、問題意識をもって生きてるわけでもない。 平穏な日常のささいなことがほんのりと共感になって静かに感動してしまう、 なんとも好ましい作品である。

(Y)

本誌「シネマジャーナル」及びバックナンバーの問い合わせ:
order@cinemajournal.net
このHPに関するご意見など: info@cinemajournal.net
このサイトの画像・記事等の無断転載・無断使用はご遠慮下さい。
掲載画像・元写真の使用を希望される場合はご連絡下さい。