女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
27号   pp. 57--58
私が好きなテレビシリーズ(3)

『第一容疑者2』

▼『第一容疑者2』

原題:PRIME SUSPECT 2
演出:ジョン・ストリックランド
製作:ポール・マーカス
撮影:ケン・モーガン&デービッド・オッド
原案:リンダ・ラ・プランテ
脚本:アラン・キュービット
音楽:スティーブン・ウォーベック
グラナダTV1992年 イギリス
捜査主任ジェーン・テニスン警部:ヘレン・ミレン
ロバート・オズワルド巡査部長:コリン・サーモン
                           ほか
(今夏NHK総合で前編・後編二夜放送)

地畑寧子

 以前この作品の前作をスタッフに見せてもらい、この作品を知った。脚本の良さ、 カメラワークの良さ、そして主役のヘレン・ミレンのうまさ(日本語吹替の 丘みつ子さんの声がまたいい)にすっかり参ってしまい、画面に釘づけになった。 そしてこの続編もしかり。

 タイトルからもわかるように一つの殺人事件を追ういわゆる刑事ものの類に入る作品だが、 拳銃など全く出てこず、敏腕刑事ジェーン・テニスンを筆頭に彼女のチームが足を使い、 理詰めで真犯人を追求していく。常に緊張した画面は、下手なサスペンス映画を観るより 断然いい。

 今夏放送の『…2』は、ある家の庭から白骨死体が出たところから始まる。事件の 追求と平行して、イギリスにもはびこる人種問題、権力や昇進にとらわれた上司からの プレッシャー、十数人もの強者男性連部下を率いるテニスンの中間管理職としての立場、 偶然の職場恋愛で判断の曇りを指摘されるテニスンの迷いが描かれている。 しかし、彼女は常に感情を顔に出さず、冷静沈着。露見した自らのスキャンダルに 対しても動揺をみせない。だが、彼女はいかにもキャリアウーマンしてるような気負いもないし、 冷たい女性でもなく、部下の信頼も厚い。そして、キャリアと同時に失うものもある 現代女性のありのままの姿を体現している。それをうかがわせる会話の妙、 原案が女性という点にも注目したい。

 彼女を演じたヘレン・ミレンは『キャル』『コックと泥棒、その妻と愛人』などで有名な 演技派女優だが、このテニスン役はまさにうってつけ。舞台を移しての『…3』 も期待したいところである。

 ちなみにテニスンの部下の一人は『エドワードII』でガヴェストンを演じた アンドリュー・ティアナンが扮している。





『第一容疑者2』

勝間

 この作品は“ぴあ”の1週間のTVスケジュールで見つけた時から楽しみにしていた。 昨年大牟礼さんの家で前作をビデオで見せてもらい、すごく面白かったからだ。 実はその数日前にビデオで『コックと泥棒、その妻と愛人』を見たばかりだったが、 その妻役の女優ヘレン・ミレンが、ちょうどこのドラマでは主人公の女性警部だった。 えぇっ、このテニスン警部がヘレン・ミレン?と驚いた。外国の俳優は髪形を変えただけでも ガラリと雰囲気が違う。ちなみにこういう意味で初めて私を驚かせたのは、10年ほど前の メリル・ストリープであった。

 彼女の違う顔にも驚いたが、もうひとつ驚いたのは女性警部についての設定のリアルさだった。 日本のドラマにはハイヒールにピンクのミニのスーツで“女刑事”が登場したり、 アメリカのドラマや映画でさえも娯楽的要素を重視して現実味が薄くなったりする (但し『羊たちの沈黙』は例外)。しかし、この『第一容疑者』では警察の地道な捜査を 描き、若い部下たちの女性上司への反発や、多忙な主人公と夫とのすれ違いによる離婚など、 現実に有り得ることを書き込んでいた。中でも印象に残ったのは、一日の捜査を終えて 空腹を訴える部下に主人公が言う台詞、「あなたはいいわよ、家に帰れば奥さんが 食事を作って待っていてくれるんですもの」。最後に彼女は部下たちの信頼を 勝ち取るが、そういう女性は夫を失う運命なのである。そしてもうひとつの結末として、 捜査でついに自白した犯人が、裁判で手のひらを返したように犯行を否認するという、 皮肉なラストシーン。彼女の戦いはまだ終わらないということを暗示したラストだった。

 さて、パート2は前作とは違う話で(前作の続きでは裁判ドラマになってしまうし)、 今度は黒人居住区を舞台にした白骨死体発見事件である。この地区ではかつて 行き過ぎ捜査があり、住民は警察に反感を抱いている。また、行方不明になったままの 少女がおり、その母親はひたすら警察に捜査の続行を訴えている。白骨死体は 彼女なのか?そして黒人層を選挙の票に取り込もうと、警察への反感を煽る政治家もいる。 警察の上層部は住民の反感を和らげ、捜査をスムーズにするために、他の署から優秀な 黒人刑事を助っ人として送り込んでくる。

 そのオズワルド刑事を目の前にして、初めて冷静なテニスン警部の捜査に曇りが見えてくる。 彼とは研修で意気投合し、一夜を共にしたばかりだったのだ。しかも気まずい別れ方を している。テニスンが彼に単純な仕事を命じたり、ぎくしゃくした行動を取るのは リアルである。だが、私としては恋愛で冷静さを失うテニスンを見せられたことに がっかりした。人命あるいは人権が関わる警察という職場の中での恋愛はご法度とは いえないか。テニスンが捜査の中でオズワルドとのコミュニケーションを避けたことが 原因で、彼は単独捜査で重要参考人を調べるが、その青年は留置所で自殺してしまった。 この時も、オズワルドの暴走に危惧を感じたテニスン直属の部下が彼女の自宅に 電話を入れたのに、別のルートの捜査から疲れて帰宅した彼女は電話に出ないという 失態を演じている。

 オズワルドは参考人の自殺について、内部裁判にかけられる。極度の閉所恐怖症に 取りつかれた青年を留置室に押し込め、医者をすぐに呼ばなかった彼らに不利な展開で 裁判は進むが、陪審人の協議の結果、捜査に行き過ぎは無しとの判決となる。 これは自殺した青年が黒人であったことによる陪審員たちの偏見を示している。

 今回の収穫は、第一に人種問題と、第二に捜査に私情を挟んだ結果の恐ろしさを 描いたということだろうか。

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