女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
26号 (Aug. 1993)  pp. 40 -- 41

■女たちの映画評

  • 小さな旅人
  • ごった煮的映画感想+一口コメント


小さな旅人

イタリアの少年に乾杯

R. 佐藤

私は、少年の無言の抵抗に弱い。 汚れを知らない小さな子どもが貧しさゆえに(これが重要)悲しい顔を向け、 大人である私たちに自分の置かれている状況を、無言で訴えるともうメロメロと涙があふれてくる。 『泥の川』にでてきた川船で売春する母を持つ男の子、 『自転車泥棒』で父親の悲しみを見つめる男の子。こういう男の子をみると、強い母性本能がうづき、 彼らを抱き締めてあげたくなってしまうという性格を保有しているやっかいな女である私。 そんな私がこの映画を観てしまったのだから、たいへんである。

シチリアから都市ミラノに出ていった貧しい母子家庭の母は、 自分の体ももう売れなくなったと悟ったのか、 こともあろうに年端もゆかぬ娘に売春をさせてしまっている。それを知っている幼い弟。 そしてある日、少年はそれを密告する。母はつかまり、姉と弟は孤児院へ送られることになった。 彼らにつきそう、素朴な巡査。やはり南部出身である。字幕には憲兵とあったが、 イタリアの憲兵というのがどういうものかよくわからない。 日本でいうと巡査みたいな役だ。彼は出世するタイプでなく、要領も悪い。 姉と弟の反目しあう姿や、弟がかたくなに食べることを拒否する態度にとまどって 茫然となったりする。

この姉弟の演技は心憎いほど自然だ。弟は、姉や若い憲兵を無視しつづける。 自分の殻にとじこもって、じーっとこの世の苦しみに耐えているという表情をみせる。 そのため、姉の方が本当はもっともっと悲しいのに、 姉はみじめにも弟の批判をも受けなくてはならないという状況におかれる。

このふたりが、心を開き笑顔をみせることがあるのだろうか?との思いで 観客はふたりの表情に注目しはじめる。

夜汽車のコンパートメントのやりとり。最初に行った孤児院。 憲兵のふるさとの海辺の騒々しくて雑然としてるけど、なぜか暖かい家。 憲兵の子ども時代の写真。リアリティをもった画面。ロケが多用されている。 海辺もフランス映画の様にシャレてなく、生活感にあふれている。

「泳げるか?」と憲兵に聞かれ、男の子は「泳げる」と答える。 それが嘘だとわかっても、憲兵は彼をなじらない。海辺で憲兵が弟と遊ぶシーンは、心に残る。 少年に笑顔が戻ったのだ。それをまぶしげにみつめている姉。 弟の喜ぴを自分の喜ぴとして受けとめることができるようになった姉。観客の心が踊る一瞬である。

深い傷を持ったふたりの子どもたちは、これから助け合って生きていけるのだろうか。 新しい施設には、「サッカーのチームがあるのよ」といって弟に上着をかけてやる姉。 イタリアンネオリアリズムの世界が戻ったようななつかしさ溢れる映画だった。




ごった煮的映画感想+一口コメント

宮崎暁美

タイの映画『アナザー・ワールド』は単なるファンタジー物、 タイムスリップ娯楽物と思っていたけど、 それだけでないタイの独立を保った誇りを描いた映画だった。

『青春デンデケデケ』を見て、ペンチャーズの来日公演を、 八王子市民会館の一番前の席で、見上げるように見たことを思い出した。

梁家輝(レオン・カーフェイ又の名をトニー・レウン)出演の『ミスティ』のチラシを見ていたら、 『悲情城市』に出演したと書いてあったけど、それはトニー・レオン(梁朝偉)ですよ!
『フルムーン・イン・ニューヨーク』でも台湾と香港の三人の女優マギー・チャン、 シルビア・チャン、スーチン・ガオワと書いてあったけど、スーチン・ガオワは中国の女優。 『酪駝の祥子』で金鶏賞助演女優賞を受賞している。 今年のベルリン映画祭のグランプリを受賞した『香魂女』にも出演している。
さらに今年のカンヌでグランプリを受賞した『覇王別姫』に『酪駝の祥子』 に主演していた張豊穀も主演している。映画雑誌などでは鞏俐や張国栄のことばかり書いてあるけど、 張豊穀のことももっと書いて欲しいな。 そういえば『北京の想い出』にも泥棒の役で出ていた。 さらに『北京の想い出』に主演していた小学生の女の子は今二〇才くらいになって、日本にいる。 そしてテレピの中国語会話に出ている。その中国語会話には『心の香り』や 『胡同模様』に出ていた朱旭も出ていた。彼は中国の笠智衆だと私は思う。

『ボブロバーツ』を見ていたら『ドント・ルック・バック』のパロディのような場面が出てきた。 ボブディランの歌、「アイ・シャル・ビーー・リリースト」や「時代は変わる」 のパロディまであった。

前号で『ナイト・ヘッド』のことを書いたのに三月で終わってしまった。残念。 でも、豊川悦司さんが出演した演劇『あわれ彼女は娼婦』を見にいった。 最後、豊川さんが血まみれのかっこうで出てきてびっくりした。 でもなんで『あわれ彼女は娼婦』なんて題名なのか理解できない。

シネマジャーナル二五号で阮玲玉出演の映画三作品について書いた時、 ルビをふるのに彼女とよく共演していた朝鮮人の俳優、 金焔のことを書いた文に載っていたユアンリンユィと書いたら、 東京国際映画祭の『阮玲玉』にはルアンと書いてあったので、間違ったと思って、 ルアンリンユィと訂正した。でもユアンは間違いではなかった。北京語読みだった。 (公開時はロアン・リンユィ)

キネマ旬報社の「張芸謀コレクション」を買ったら、期待はずれだった。 今までにあちこちの本に載っていた文章がほとんどだから。 『秋菊の物語』だけが真新しいことだった。 張芸謀の新作のことが載っているのではないかと期待したけど載っていなかった。 人民中国四月号に姜文(『芙蓉鎮』『紅いコーリャン』主演男優) が次に撮る映画のことが載っていて、張芸謀監督の作品となっていたから 私はそのことが載っていないかなと思ったのだ。 人民中国によるとそれは『私はおまえの父だ』という題名で、 姜文は今度は文化ホールの館員の役だそうだ。シナリオを二人で練っているという。

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