女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
24号 (January 1993)   pp. 24 -- 31

広島の香港映画祭

広島の香港映画祭・前夜祭

香港電影かため撃ち!!
久々の熱狂
欲望の翼』が私の中でも伝説になったその瞬間!

K. 山本

折しも9/12、19にサロンシネマで、フィルマラ138"カルト監督たちの夜PART2" と題して『ヘンリー』『惑星ソラリス』 『ガーデン』そして『欲望の法則』 とゆー開いた口がふさがらんよ的行かずにはいられないオールナイトがあり、 その上10/3には一期一会シリーズ第11弾として、 とうとうアルモドヴァル監督特集、 愛してやまない『マタドール』を含む 『神経衰弱ぎりぎりの女たち』 『アタメ』『バチ当たり修道院の最期』 (広島初公開)の4本立てフィルマラという、 考えただけでも身体モタないモノスゴい9月になりそうな再び病み上がりの私の身にふりかかった悟空の元気玉並みの大ニュース!!(いきなり長い!!)

そうです! 2月の香港エンターテイメント映画祭に続いてやって来ました、 '92アジアウィーク香港映画祭!!

前回は病に倒れ悔し涙を流したけど、ビデオ発売に先駆けたイベントと考えればオサマリはつく。 でも今回は!今回こそは!!と歯がバキバキ折れる程の力を入れずにはおけない見事な攻撃!!

9/11の前夜祭を皮切りに『欲望の翼(阿飛正傳)』 『傾城之恋(傾城之戀)』 『黄昏のかなたへ(飛越黄昏)』 『客途秋恨(同)』 『レッドダスト(滾滾紅塵)』 『あの愛をもう一度(我愛大空人)』 『いますぐ抱きしめたい(旺角門)』 という選りすぐりの7本が観られるとゆーのだから今回ばかりは広島在住の身を祝福 (今言うと響きがヘンじゃのう)するしかないのであります。

どうです?! このラインナップ! 血ヘドを吐いても、 はってでも日参するぞと決意した私の気持ちお察し戴けるでしょう。 (ね!勝間さん)

ここ最近(といっても随分!)生活の忙しさと体調の悪さが相まって、 映画館通いの足も鈍りがちだった私のノーテンに神は香港電影という鉄槌を振り降ろされたのでした。

こうして幸運にもオハコとも言える香港電影熱狂期間を特権として与えられた私は 前夜祭前売券を握りしめて11日を待つのでありました。

9月11日(金曜日)〜
あーとうとうキちゃったぞ!! 明日遠足の如くウキウキワクワク落ち着かない私。 6時までの仕事を5時半で早退し、券あんまり売れてないみたいだよという内部情報も 耳に入れつつ(残念!でも少しホッ 複雑)私の足はもつれ気味に映画館への道を… とイキたいのですが、実はその前にひとつ用があって逸る気持ちを無理やり抑えて 立ち寄ったのがヨージヤマモトの店! Y'Sです。 ここでちょっと言っとくと、私はY'Sの服を着るよーなY'S大好きでもないし、 オシャレでもないです。 これは偏に映画好きの友達が最近観た『都市とモードのビデオノート』の影響で、 日頃足を踏み入れ難いY'Sへ足を運んでみようとゆー事になり、 誰が先に入るかジャンケンなどとゆー経緯を経てとうとう進入を果たし、 又そこに私が便乗したとゆーワケですが、こんな事迄書くにも訳があります。

Y'Sへ行って、ちょっと急いでるんですが〜 (中略)以下店の人のセリフに“ ” 〈開演は6時半、券が売れてない情報もあって私は結構悠長に構えていた。〉 15分位には行きたいんですよ  “あ15分に待ち合わせ?!”  イエちょっとそこの朝日会館へ (朝日会館という映画館で前夜祭はあった) “え とゆーと、もしや映画祭?”  (急に元気になり)そーなんですよ、香港映画祭なんです。 “さっき来ちゃったよ”  へ‥‥  “その出演者とかゆー人”  え〜っ(大声) もしやカリーナ・ラウ?! 女優さん?  “うん女優さんも来たし男優さんも、ほいで監督さん? 背の高い人とその奥さん”  ひえ〜

そうです、前夜祭のゲストは超豪華にもウォン・カーウァイ監督、 カリーナ・ラウ、トニー・レオンだったのですが、 ナンと揃いも揃ってお揃いで彼らは私の来る前にY'Sの店に来ていたのでした。 私の興奮は開演前、会場にも着かぬ間にもう絶頂近く! 急いでいながらコーフンしながら、すっかり舞い上がったへんな日本語で、 キレイだったですよね とか 買ったんですか と聞きまくり、 監督の奥さんが服を買われたという情報を胸にトぶよーに会場へ向かいました。

そんな状態ですから私は会場へ着いてからも、まずパンフを買う時点で 千円なのに千円札出して「スミマセンおつりください」と言う始末。 情報とは裏腹にロビーが妙にザワついていた事も原因と思われました。

そして、そして劇場内に入ってみると、ああやっぱり、 情報に反して席は一杯に埋めつくされているのでした。あーどーしょう! しかし!同じ店に前後してカオを出したとゆー偶然はもー偶然じやない!!  お導きだと信じてウロウロした結果、おおナンと奇跡のように前から二番目の それもド真ン中にポッカリ一つ席が空いているではあーりませんか!!  ふう今だ開演一〇分前です。既にこれです。 ここまで書くにもコーフンが甦り疲労甚しい私ですが続けましょう。

まずゲストの紹介と挨拶 カリーナ嬢の麗しい事、 カントクの意外にカッコ良くマイケル・ホイに似てる事。 トニー・レオンのキラキラした感じ。 ティーチ・インは映画上映後となり、 正に噂通りであった伝説の映画『欲望の翼』の上映は始まったのでした。

いやぁー ホント 噂には聞いていました。どんなに心騒いだ事でしょう。 今年は『阿飛正傳』に標的を定めると豪語していた私。 どんなに観たかったか‥  そんな頭でっかちの期待も気負いもどこへやら、映画が始まった途端、 我を忘れて静かに溺れてしまいました。 ジャック・メイヨールが海と一体になったみたく、安らかに眠るように、 夢の中に居たんじゃないかって位‥


欲望の翼』は正にアジア映画
 仏映画の退廃や極愛への羨望も
 伊映画の残酷真摯も
 英映画の典雅への盲溺もなく
 米映画のハチ切れんばかりの生命力もそこにはない
 『欲望の翼』は  空気で 血液で 親密な内臓で
 そして 濃密な酔い でした
 ブルーグレイにかすんだ魅惑が そこに ありました

ウォン・カーウァイ監督がゲストとしていらっしゃるという話を聞いた時、 この文化不毛の地と呼ばれる広島にウォン監督にマトモに話を聞けるヤツが 居るのだろうかと真剣に心配しましたが、 上映後のティーチ・インでの質問は会場を埋めた一部のファンと一部のミーハーその他、 多勢に任されてしまいました。

主催者側の責任逃れか、はたまた朝日会館一杯のお客さんへのサーヴィスか?

しかし、カリーナ・ラウのサイン入りパンフがもらえるという事で、 挙手による質問には事欠かなかったものの、セリフも自分で考えるのですか?とか、 撮影は大変でしたか?という初歩的な質問から、 返還後はどーするの的なヒヤヒヤする無神経な(と、私は思った)質問、 お二人は(カリーナとトニー)仲がいいそうですけど、 (私は夫婦だと思っていた。ちなみに答えは「いいお友達です」カリーナ・ラウ) などとゆーミーハー筋質問と内容はそんなものだった事は言う迄もありません。

800余人の客の中にはホンモノの香電フリークも確実に居るのでしょうが、 つまりある程度狂っているファンは私の様にシャイだって事でしょう。(と片付けておく)

こんなすごい映画を撮った監督のカンロクと華のようなカリーナ・ラウ、 そして周潤發の豊かさというより、やはり華やかな印象のトニー・レオンに 間近で会えただけで嬉しい、美しい役者さんでした。 二人の存在は監督という肩書きと尊敬の雰囲気を和らげる意味でも、 とても大きなものだったように思えました。

華やかな役者に出会えた興奮よりも、やはり心に残るのは『欲望の翼』と、 それを撮った監督の大きさだったからです。

心ざわめくけれどどこか静かな余韻を残して前夜祭は終わりました。


 脚のない鳥は飛ぴ続け、一生に一度だけ地上に降りる
 それが最期の時

飛ぶ前に死んでいたんだ、そうヨディは言ったけれど、まだ夢うつつに、 私も脚を失くしてふわふわと飛び続けているような、 定かでない透明な脚でサクサクと雪の中のゼリーを踏んでいくような、 ひとときを正直に足跡だけ残してゆくような……

その大きく静かな余韻を確かめに、今夜私は又『欲望の翼』を追うのです。



欲望の翼』に始まり『欲望の翼』に終わった

香港映画祭 in 広島

久々の連日映画館通いを私に甦らせた香港映画祭が終わって、早2週間、 ナンだか気がヌけた中、再びツィンピークスで気持ちを盛り上げる日々が続いている。 9/11の前夜祭に始まって9/25シネツィンで最終日を迎えた香港映画祭は文字通り 『欲望の翼』に始まり『欲望の翼』に終わった。

作品でいくと私は皆勤賞がもらえるだろう。 日替わりの『黄昏のかなたへ(飛越黄昏)』 『客途秋恨(同)』 『レッドダスト(滾滾紅塵)』 『あの愛をもう一度(我愛大空人)』 『いますぐ抱きしめたい(旺角門)』 からレイトショー上映のあった『傾城之恋(傾城之戀)』、 そして5度足を運んだ『欲望の翼(阿飛正傳)』迄、上映作は全て観た。

お客さんの入りもテレビスポットがとても良く出来ていたせいか割りと良く、 『欲望の翼』は最終上映が連日立ち見という盛況振りだった。 (私は一度通路に座って観たのでおシリが四角くなった)

それにしてもいい映画祭だったと思う。 作品のカンジのバラつきもバランスが取れていて。 私は一応香電フリークで通っているので「どれを観にいったらいいかな?」 と聞く友達には『欲望の翼』と『いますぐ抱きしめたい』は絶対、 文芸調を好むなら『客途秋恨』『レッドダスト』、 結構娯楽っぽく楽しみたいなら『黄昏のかなたに』 『あの愛をもう一度』を言っておいた。 アドヴァイスとしては適当だったと思う。 周潤發という役者としての目玉、 『傾城之恋』は私的感情で申し訳ないが、 コラ・ミャオがキライなのでナンたって周潤發じゃけー、 見てもいーんじゃない?! という甚だアッサリした答えをしたのだが、 これもそう的外れではなかったように思える。 キライな役者とゆーのも大きいが、今回の映画祭では『傾城之恋』が一等退屈だった。 たとえアン・ホイというブランドであっても。 あきれる程に素直じゃないコラ・ミャオにはイライラさせられっ放し、 周潤發もただの放蕩息子のカンジがあってイヤだった。 私が意固地なのだろうか。 (ただひとつの収穫は大好きなエレイン・ジンが小さな役で出ていた事)

反して『客途秋恨』はとても良かった。 吹き替えの声がNHK教育番組っぽいに難はあったが、あそこ迄口を合わせるとはアッパレ。 (パンフによるとメチャクチャな日本語だったらしいが)

そして、自伝的要素を含みながら感情に流されないところは ホウ・シャオシエンものの脚本家によるところも大きいだろうが それにしても素晴らしい。

必要以上に女ではないが、最低限の女は踏まえていて、アン・ホイって ホントに稀な才能と思う。

そしてこの映画では父親役のリー・チーフォン(ウェイス・リーともいう李子雄)が良かった。 (『男たちの挽歌』で白いコートを翻すカッコいい悪役シンを演った) 女優二人は勿論だけども、彼はシーンが少ないけど、又だからこそよけいに印象が強い。

アイコに ズット イッショニ イテクダサイ と言うシーンは感動的だった。

レッドダスト』は大河であった。 この映画は、今だかつて香港映画は『ポリスストーリー』 しか観たコトがないという友達と行ったのだが、 そして二本目にこれを見せるのは正か否かと悩んだのだが、 彼は正統派歴史的大(?)ロマンのこの映画に退屈する事もなく良かったと感動していた。 (ホッ)

私は歴史の波にもまれたリン・シンシャーとチン・ハンよりも、 マギー・チョンとリン・シンシャーの女二人の関係に心魅かれ涙してしまった。 男女愛の頭打ち現象!?などとゆー思いつきが頭をよぎったのは私だけだったろうか?

黄昏のかなたに』はもっと絞れればスマートになるのにという 香港映画にありがちなパターンに陥っていたように思うが、見馴れればそれも愛しい。 久々の葉童(イップ・トン)と真面目なリチャード・ンが嬉しい一本。

あの愛をもう一度』ではエリック・ツァンに大いに笑わせてもらい、 ミーハーな気持ちでカム・コクリョンを楽しんだ。 (カム・コクリョンは香港のミッキー・ロークと呼ばれており…え?!… ドウドウ・チャンと公私共に睦まじかったが、 性生活がずっとなかったという理由で最近別れたと伝えられている)

残すはウォン・カーウァイ監督作二本。

いますぐ抱きしめたい』のどーしょーもないジャッキー・チュン!  そのどーしょーもないチュンを見放せないアンディ・ラウ。 そしてそのどーしょーもない弟分を見放せないラウを好きになるマギー・チョン。 どうしょうもない、どうにもならない、止めようのない時刻を 息をつめて胸痛めて観る私達。誰もマギーの元へ彼を返してあげられない。切ないのだ。 でも突っ走る。アレックス・マンの久々の勇姿(彼の勇姿つまり憎々しい悪役!)

最後に'92No1『欲望の翼』。 もう身体の一部のように愛してしまった。 しかし私は別に自分の身体の一部を特に愛してるとゆー事実はないので、 患って終始痛むので気になって仕方ない。あーそーいえばここを酷使していたな、 これからはもう少しいたわろうとゆーよーな愛着の気持ち?… 巧く言えないけど、とにかく私の中にひたひたと入り込みしみ込んで、 しまいにゃ向こうが私をヒタヒタにしちゃったのか、 私が溶けたのかわからない位同化してしまった。

あの音楽 キレイな映像 魅力的な役者達、 どれを取ってものめり込まずにはおけない。

カツカツカツ ヨディの足音、マギーの横顔、ウィンクするミミ、 震えるジャッキー、オレンジを頬ばるアンディ、 ゆだねるレベッカ、しかめるトニー。

初めて『欲望の翼』を観た時、歩くヨディの後ろ姿〜スローモーション〜 そこでENDかと思って思わず時計を見た。 ここで終わったら正にスゴイコトだぞと思った。 実際私の友達の中にはあそこで終わっていたら最高だったという人もいる。

私は確かにあそこで終わっていたら本当にスゴい映画になっていたと思う。 一本の映画として凄く完成度の高いものになっていただろうし。 でも先を観てもやはり『欲望の翼』の素晴らしさは変わらない。 続編 を思うとこのラストは別の意味でスゴイと思わせる。 トーンの違う例えをあえてさせてもらうなら『ツィンピークスパイロット版』 ナミではないか、あの突然のパフォーマンスともいえるラストシーンは…  ランニングにトランクスの下着姿で鏡の前でダンスを踊る。 これをカッコ良いと感じさせる事の出来るのはレスリー・チョンだけかも知れない。 遅れ毛と汗の生々しさに相まってかわいさを見せたカリーナ・ラウは、 今迄を考えると確実に段チに美しくなっていた。

監督の全幅の信頼の元に出たマギー・チョンの存在感 (存在感とゆーことぱさえ似合う女優になってきた)。 コゆーい演技とカオで目をクギ付けのレベッカ・パン、 情無くも一途な告白にカメラがクギ付けのジャッキー・チョン、 そして警官の時のアンディ・ラウのちょっとユーモラスなカンジがとても良くて好きだった。

5回の『欲望の翼』を一人で行ったり、友達と行ったり。 シネツィンには舞台挨拶に来たウォン・力ーウァイ監督夫妻、カリーナ・ラウ、 トニー・レオンの写真が貼ってあったが、 友達と行った折りには毎回その前でこれが監督、この松居直美に似たのが奥さん、 これがミミ役のカリーナ・ラウ、この人がラストに出てきたトニー・レオンよ、 と嬉し気に説明してしまう私であった。 そして本当はヨディは汽車の渡る鉄橋で投身自殺をするハズだったという裏話も。

さて『欲望の翼』続編はどうなるのだろう?!  ティーチ・インで監督は三年後位には撮りたいと言っていらしたが、本当に待ち遠しい。 希有なキャラクター、ヨディが死んでしまったのは残念至極だが、 まだまだ魅力ある男女が残っている。ヨディの双子の弟が出現する事もないだろう。 (ここで愛情込めて笑って下さい)

この辺りで香港映画祭レポートのようなものはおしまいです。

これを機会に広島でもいい香港映画を不自由なく観られるようになりたい!!

ポリスストーリー3』 『ハードボイルド』 『阮玲玉』が早く観たい!!!

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