女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
24号 (January 1993)   pp. 11 -- 13

第5回東京国際映画祭から

E. 出海

九月二十九日から東京の渋谷で開かれていた映画祭、はやいものでもう五回目。 一年おきから毎年になり、入場料金も値下げし、 フィルムマーケットも設置された今回だが、BUNKAMURA を中心にみたかぎりでは あまり盛り上がりのない映画祭だったような気がする。

お祭りの好きな我がシネマジャーナルも、例年なら見逃し・もれのないように スタッフが総出で渋谷の街を走り回るのだが、今年は皆「それどころじゃないわ、 仕事仕事」とばかりに、自分の仕事にかけまわり、空いた時間に どうしても見たいものだけ当日チケットを買って見る人が多かった。

わたしはと言えば、唯一プレスカードを持った責任感から (もう一人は大切に申請書をしまい過ぎて取り損なってしまった) 毎日、仕事の合間に渋谷へ通い、日本映画を中心に自分や自分が行けないものは スタッフに見てもらう為にチケットを確保したり… そればかりでない夜は出来るかぎりプレス試写をチェックし、 もうヘトヘトになってしまった。

でも、映画に感動した夜は浮き立つ心で仕事の疲れも忘れて若者の遊び回る姿も ニコニコ横目に渋谷駅へ向かうのだが、映画がつまらなくてがっくりきた夜は、 何でこんな映画のために貴重な時間を…と腹が立ち、 連日夜ごはんを外食で耐える子供たちの顔がちらつき涙が出そうになったりし、 つくずく映画好きの母親を持った子供が不憫に思われた。


よかった映画、つまらなかった映画、見れなかった映画

いい映画を見たい。いい映画を見た後は何があっても優しい気持ちでひとりを楽しめる。 でも、つまらない映画を見た夜にひとりで雑踏を歩く孤独感はたまらない。 若者の笑顔も年をとった自分へのあてつけに見えたりして自己嫌悪になる。 それも年を追うごとに深くなってきたみたい。で、その映画ですが、 楽しい気持ちで夜道を歩いた映画は、『ディスイズマイライフ』『きらきらひかる』。 腹が立ったのは『天国の大罪』『ナースコール』。 『おこげ』と『愛について、東京』は話題性が高く自分なりに期待して行ったわりには 女性の存在、とくに男性とのかかわりがセックスひとつとってもありふれていて少し期待外れだった。 『ザザンボ』は長いなと思ういらいらを通りこすとパー感動がわいてくる妙な映画、 『シコふんじゃった』『うみ・そら・さんごのいいつたえ』『おもいでぽろぽろ』 『無能の人』『橋のない川』などはすでに一般上映の終わった映画なのでパス、 『死んでもいい』『地獄の警備員』はどうしても仕事の都含でみられず、 『はるか、ノスタルジィ』はチケット切れで見ることができなかった。


カネボウ国際女性映画週間への疑問

今回は終わってみて特に感じたことを少し…。まず、私たちの中でも苦情が高かったのが 『カネボウ国際女性映画週間〜映像が女性で輝くとき〜』のラインナップ。 『ヴィルコの娘たち』『それから』などはあきらかに男性の映画であるし、 『泥の河』にいたってはなぜここに…と疑問がわく。 パンフの「男性の職業とされていた映画監督の座に、近年女性が登場し、 輝かしい成果をあげているが、…」の主旨のもとに選定するのであれば もっと世界を見回してほしい。今を生きるたくさんの素晴らしい女性監督がいるはずだ。 アメリカを例にとれば『マドンナのスーザンを探して』『私のパパはマフィアのドン』 『シーデビル』などインディーズ出身のスーザン・シーデルマン、 『ジャンピング・ジャック・フラッシュ』『ビッグ』『レナードの朝』『プリティリーグ』 のペニー・マーシャル、『プルースチール』『ハートブルー』のキャサリン・ビグロー、 『愛は静けさの中に』『ドクター』のランダ・ヘインズ、 『愛のイエンストル』『サウス・キャロライナ』のバーバラ・ストライザンド、 『愛は危険な香り』のカレン・アーサーなど数えあげたらきりがない。 しかも彼女たちはみなエンターテイメントの作品としても世界に認知された女性たち。 そして今、最大の問題は、男性だけにしか与えられてないアカデミー賞の監督賞を 女性にもと頑張っている。監督だけではなく世界には有能な女性プロデューサーが どんどん登場し私たちを楽しませてくれている。 例えば、スピルバーグ関係全般をプロデュースしているのはキャサリン・ケネディだし、 『ターミネーター』『アビス』『ターミネータ2』はゲイル・アン・ハード。 今回の映画祭に特別待作品として出品されている『ディスイズマイライフ』 はプロデュース、脚本・監督がすべて女性の心あたたまる愉快な映画だ。 確かにマイナーなものやパイオニア的な貴重な十数年前の女性監督の作品を紹介するのも大切なことであると思うけど、 副題の「映像が女性で輝くとき」を考えれば、 今奮戦中の才能ある女性映画監督のつくった作品こそどれをとっても この副題にピッタリのような気がした。いろいろ考え方もあると思うのですが、 もう少し回顧趣味でなく、現実をみつめた女性映画週間であったら… と願わずにいられません。


『天国の大罪』は新しい女性を描いた映画か?

次に、オープニングの『天国の大罪』。これはもしかしたら、『映画祭の大罪』 かもしれない。ある新聞の映画祭評でこれがはたしてオープニングにふさわしい映画か… と頭をかしげる意見が続出したと書かれてあったが全く同感。暗くて、みじめで、 女性が古臭くて、おまけにターゲットが女性なのか、アクションを見る若者なのか サユリストのおじさまなのか不明。優秀な映画職人と大女優が組んでも 必ずしもいいものができるとは限らない例はたくさん見てきたがこれもそのひとつみたい。 はっきり言ってあの吉永小百合のやった女性はいったい何! それにあのおじさん臭い男優たち! マア、胸をシーツでぐるぐる巻きにしてちっともエロチズムの感じられないセックスシーンは我慢するとして、 終わった後に吉永さんが妻子持ちの不倫の相手に「あたしどうなるの、 このままズルズル年をとって、わたしやだ、絶対やだ」と叫び始めたのには驚いた! だって、十年ですよ、不倫を始めて十年。分別ある大人同士の付き合いに 「どうしてくれるの」はないと思うのですが。 子供が出来てもう堕ろせないというけれど何度も同じ間違いするのは男ばかりのせいとは思えないけれど。 要するに吉永さん(演じる女性)にも間題があるのでないですか。 その上「わたしとシタあとで、妻ともスルのね」など男の観念で女を書いたとしか思えない 耳を覆いたくなるようなセリフを女性検事がのたまうファーストシーンを見せられて、 もう続きをみる気力もうせてしまった。 でも、プレスでのこの映画のチケットはないとのことで封切り劇場で お金を払って見た都合上簡単にでるのもしゃくで終わりまで見た。 その後、子供を誘拐されたあとの彼女の過剰な狼狽振りに苦笑。 小百含さんが突然「わっー」とかなんとかわめいてソファにひっくりかえった時には 発作でも起きたのかとこちらがびっくり仰天。独りで生んで、 独りで育てているキャリアの女性のとる態度としては、首をかしげたくなることばかり。 もっと知的に、法律的に、社会的に我が子の誘拐を考える目があってもいいのじゃないでしょうか。 それに、我が子を取り戻す時もボスの男に泣きながら哀願すればすむなんて、 その気持ちが嫌い。男が誘拐者に会いにいくのを自分は車の中で待っているなんて。 自分の大切な子供だったら自分の手で救出すべきです。 それから、子供と再会する雨のシーン。 衰弱した子供をブーメランみたいに振りまわすのはみっともない。 おっことしたらどうするの! 本当にわけのわからない女性なんだから! それにあのキャリア女性の愛の観念がまたすごく古い。 彼女の究極の愛がスーパーでの食事の買いだしや家庭での食事、子供、団欒でしかないのッ。 やたら、男に振る下がって買い物から帰ってくるシーンが目についたけどね。 「わたしは男に狂いました」と言ってカナダでログハウスを作るのもいいけれど 『羊たちの沈黙』や『ニキータ』の主人公の女性たちのアナーキーぶりを見習ってもらいたかったな。 なぜこれらの作品が男にも女にも支持され大ヒットしたのか考えて欲しかった。 ジュディ・フォスターは男とベットで狂うシーンも男の腕にぶるさがって幸せを振り撒くシーンもなかったけれど セクシーで知的で哀しく、しかも強い魅力的な女性だった。 吉永小百合の演じた女性と彼女を比べて欲しい。 この世に狂うものは男しかないの……少しでも今の仕事を持つ二〇代、 三〇代の女性たちを丁寧にマーケティングし、彼女たちの苦しみ、悲しみ、結婚観、 恋愛観をわかろうとする優しい目差しで作品を作っていただいたらもう少し違う 『天国の大罪』が生まれていたと思います。 女性の生き方で映画を批評するのは間違っている、 一方的過ぎると批判されるかもしれませんが、吉永さんがテレビ、新聞などで何度も 「働く女性に見てもらいたい、自分を貫く自立した新しい女を演じた」 とおっしゃっていたので、私も含めた働く女性たちが見たらきっとこう思うという意見を率直に話しました。 作る人、演じる人が一生懸命でひたむきでも、見る女性たちは憤慨するか苦笑してしまう、 このズレがこの映画の最大の罪ではないでしょうか。


今の愛を描く『きらきらひかる』に、感動

感動した『ディスイズマイライフ』はトークで取り上げるので もうひとつの感動した映画『きらきらひかる』について。 どこがいいって役者さんひとりひとりが皆光っていた。とくに、豊川悦司さん。 この方は「気になるあの人」でも熱烈なラブコールを行い若いフタッフに顰蹙をかってしまったが、 どうだ彼のよさがわかったか! 笑顔がいいでしょう。それから薬師丸ひろ子の演じる女性がよかったですね。 哀しくて切なくて、目分をもてあましてしかも彼を愛してしまって。 『おこげ』の清水美紗は後半、あの変な男にかかわって、 しかも子供生んで結婚までしてしまって女のいい加減さを暴露してしまい 興ざめしてしまったけれど、ひろ子さんは立派なおこげ。 必死に生きてもああいう関係しか持てないってこと現実だし、 それはそれで受け入れてしかも強く前向きに生きて行く3人を応援したい。 ああいう映画を見るとホッとするし、仲間を得たように勇気が湧いて来る。 松岡さんの人間の見方が好き。 ユーモアとウエットにとんだセリフと軽やかな映画のリズムで飽きずに終わりまで見てしまった。



思いつくままずらずら書きましたが、何だかんだいってもお祭りが好き。 それに短期間で世界中の映画が一杯見れるのは映画ファンにとって最高の喜びじゃないでしょうか。 だから、東京国際映画祭は発展してほしい。みんな気取らず、普通の感覚で、 映画が好きな人が映画を楽しむ映画祭を願ってます。

本誌「シネマジャーナル」及びバックナンバーの問い合わせ:
order@cinemajournal.net
このHPに関するご意見など: info@cinemajournal.net
このサイトの画像・記事等の無断転載・無断使用はご遠慮下さい。
掲載画像・元写真の使用を希望される場合はご連絡下さい。