女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
22号 (1992.4)  pp. 47 -- 49

中国映画祭及び中国映画について

宮崎 暁美

昨年十一月から十二月のル・シネマでの中国映画祭と、 今年一月から二月のバウスシアターでの中国映画祭アンコールロードショー。 それにユーロスペースとバウスシアターでの田壯壯監督特集。 中国映画がこんなにも長い間連続して上映されたことは、初めての事だったのでは?

張芸謀の『紅夢』も、もうすぐ始まるし、 陳凱歌の新作『人生は琴の弦のように』も岩波ホールで公開予定だし、 さらには当初中国映画祭で上映予定だった謝晋の『清涼寺の鐘』 も今年公開予定と聞く。 東京国際映画祭での『過ぎにし年・迎えし年』の銀賞と主演女優賞受賞など、 中国映画に関する話題に事欠かない。

天安門事件の後、中国映画はどうなるのだろうと心配されたけど、 少しは上向き状態になったのだろうか? 最近、聯小平氏が改革路線を進めるべきだと語ったことが新聞などにも載っていたけど、 それに期待したい。

さて昨年の中国映画祭、会場を文芸坐からル・シネマに移しての上映。 作品の内容はかなり充実していたと思うけど、会場と公開方法の評判がよくなかった。 これだけ中国映画に対する関心が広がって来ているのに、今までより狭い会場と、 一作品三〜四日という短い上映期間。それに一本づつの上映になって実質値上げだった。

会社の友人が『李連英』を士曜日に見に行ったけど 何時間も前に行ったのに見れなかったと言っていた。 あきらめてユーロスペースの田壯壯特集で見たようだけど。 私も六回券を買ったのにル・シネマでは結局四本しか見れなくて アンコールロードショーと田壯壯特集のほうで見た。 といっても三本は映画祭が始まる前に見ていたのだけど。

次回はぜひもっと広い会場と、長い期間の上映をお願いしたい。 もっとも今回のように場所を変えてというのも、それなりに良いのかもしれない。 渋谷じゃ遠くて行けなかった人も吉祥寺だったら行けるという利点もあった。


女人故事』についてはシネマジャーナル十九号 に『ウーマンストーリー』という題名で載せた。

その中に、日本で公開された中国映画で初めてのフェミニズム的な視点の映画と書いたけど、 この映画の主人公のひとり張文蓉(五人兄弟の長男に嫁いで、一人息子がいる役の人) が代表団のひとりとして来日したので、 中国では他にもこういう視点の映画があるかどうか聞いてみた。 彼女は「中国でも女の人の状況を描いた映画はあるけれどこのような視点の映画はほとんどない」 と言っていた。

映画新聞でこの映画の監督、彭小連自身が『女人故事』 と同じ脚本家、肖矛脚本による『血色清晨』 という作品がフェミニズム的視点の映画としてあると語っている。 社会や男から求められている、女の処女性に対する疑問を問う内容だそうだ。 監督は彼女と北京電影学院で同級生だった李小紅という女性監督。

この映画は中国国内で公開はされたが、国外には出されていないという。 私のところに来たアジア映画通信の前田さんからの手紙の中に、この作品をビデオで見て、 上映会をしたいと思っているけど、 外国での公開を許可されていない作品なのでやれるかどうかというというのがあった。 ぜひ見たいけど、九州じゃ、ちょっと遠いなあー。


おはよう北京』については前号 で佐藤さんが書いているが、私も東京国際映画祭アジア映画週間で見た。 主演の馬暁晴は『過ぎにし年・迎えし年』と『街角の騎士』にも出演している今、 売れっ子の女優で、中国では珍しく映画制作所所属ではなくフリーでやっているそうだ。 三作とも、現代っ子で元気のいい女の子を演じている。

彼女も代表団の中にいた。 東京国際映画祭の時にも来日しているので十、十一月と続いての来日だった。 映画の役からは想像もつかない縞麗な人だった。 ウランちゃんのような髪型が印象に残った。

監督は張暖忻。 『青春祭』では文革中タイ族の村に下放された女性の心の開放を清々しく描いたが、 この映画では向上心があるといえば聞こえはいいが、そのためには恋人もころころ替えてしまう、 エゴイズム丸出しの女性を描いていた。北京の若者たちの間ではこんな人が増えているのかな? 八九年中国映画祭公開の『失われた青春』『輪廻』 なども金儲け話に振り回される若者が描かれていたけど。

この映画で象徴的に使われていたのが崔健というロック歌手。 中国ではヒーロー的な存在だという。 運転手の青年が自室でギターを弾いているシーンの後に貼ってあったのは彼のポスターだったし、 にせ学生が彼女のために歌った歌も彼の「假行僧」という曲だった。

張暖忻監督はフランスで『花轎泪』という映画を共同監督している。 これには姜文も出演している。


双旗鎮刀客』は西部劇アクションのような作品だ。 『七人の侍』からの要素を取り入れているなと思った。しかし、 何だか知らないうちに刀がくるくるまわって人を殺してしまうシーンにはちやっちさを感じた。

時代をさかのぽって、香港ノワールを黄土高原にもってきた感じだ。 やっぱりアメリカの西部劇とは違う。

監督は何平、陳凱歌や張芸謀たちより後の世代。 何平も代表団の一員として来日したが、細面で神経質そうな感じの青年だった。 台湾にも同姓同名の監督がいる。


老店』は北京ダックの老舗「全聚徳」をめぐる物語。 中国でヒットした劇、『天下第一楼』の映画化。

TVの中国語講座でも、この劇をいれた寸劇があったし去年は日本にも公演に来た。 私はこの劇を見に行ったけどあまり面白くなかった。 やはり劇は言葉がわからなければ面白くない。 台詞の節回しや、語呂あわせなど、言葉の遊ぴは通訳イヤホーンではあまり伝わってこない。

この映画はとても風格のある語り口で「全聚徳」の人間模様を描きだしてはいた。 でも結局は足の引っ張りあいや人を蹴落として伸し上がっていく様を描いているわけで、 私は基本的にこの種の物語が好きでない。だから三国志も見る気がしない。 日本で三国志がもてはやされ、企業戦略に利用されているのを見るといやだなって思う。

芙蓉鎮』で悪役的な共産党の幹部を演じた徐松子が、 この映画では悲劇のヒロインを演じている。監督は彼女の夫の古榕。 徐松子自身も上海映画製作所で監督修業をしている。 まだ映画は監督したことはないが、TV番組は二本作り、一本は賞を受賞している。 彼女も代表団の一員として来日した。


街角の騎士』では『子供たちの王様』の謝園が映画フィルムの配送員として登場する。 この映画ではバイクに乗っているシーンがいっぱい出てくるが、 最近の中国映画にはバイク軍団がよく出てくるなあ。 『過ぎにし年・迎えし年』でも出てきたし、 『ロック青年』でもバイクの群れが出てきた。はやりなのかな?。

馬暁晴は騙されて妊娠してしまう役をやっていたけど、 『おはよう北京』でも騙されて妊娠してしまう役だった。 また『野山』で金鶏賞主演女優賞をとった岳紅も、この作品では謝園の妻の役で、 臨月の大きなお腹をかかえた役をやっていた。 彼女『黒い雪の年』でも大きなお腹をかかえた役をやっていたけど、 『野山』の時のように元気に野山を飛び回る役も見たい。

この映画の監督は葛暁英。今回の中国映画祭では 『街角の騎士』 『おはよう北京』 『女人故事』が女性監督の作品で前回に引き続き、 六本中三本が女性監督の作品だった。


李連英』は昨年八月に試写で見て、度胆をぬかれた。 そしてグロテスクな映画という印象を持った。

宦官という存在をよく知らなくって見たからということもあったけど、 描き方がどうも好きにはなれなかった。 でも二回三回と見るうちに、今までと違って、 西太后や宦官が人間味ある人物として描かれているようには感じた。

主人公の宦官李連英には姜文、西太后には劉暁慶の『芙蓉鎮』コンビ。 二人にとっては『芙蓉鎮』『春桃』に続く三作目の共演である。 九十年三月号の「大衆電影」には、二人の四回目の共演作『死水微瀾』 のことが載っていたけど、これは完成されたかどうか定かではない。 監督は『春桃』と同じ凌子風。一九一七年生まれということで、かなりの高齢。 完成されても、若い世代の作品の上映が多い中国映画祭では上映されそうもない。 百花賞で作品賞を受賞した『春桃』でさえ日本に来ていない。

李連英』の監督は田壯壯。陳凱歌、張芸謀、彭小連などと同じ、 北京電影学院八二年卒業粗の第五世代の監督である。 彼も代表団のひとりとして初来日した。

彼は『盗馬賊』で一躍有名になったが、私はこの作品を見て、寝てしまった。 たくさん見た中国映画の中で、寝たのは三つくらい。 それでもいろいろな人が良いというので私の理解が足りないのかなと思い、 そのあと二回見にいったけど、やっぱり私にはあまり好きな作品ではなかった。 チベットの風土や風俗を物珍しく、中国側からの視点で描いたにすぎないように思う。 これを見てチベット人はいやな顔をしていたと、 アメリカでチベット人と一緒に見に行った外山さんは言っていた。

田壯壯特集も見に行ったが、評論家が絶賛するほど良いとは思わなかった。 評論家うけはするけど一般うけはしないのでは? 一部作品を除いて席はガラガラだった。 『狩り場の掟』だけ見ていないけど、 あまり見る気もしない。

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