女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
18号 (1991.04)  pp. 42 -- 49
都合により、web版では本誌とは構成の一部が変更してあります

電影大陸 ASIA -- 台北日記(2)



大牟礼



—台湾・香港映画総括のようなもの—

1990年中時晩報電影奬金馬奨入選作品

*11月26日(月)…

この日から中時晩報(新聞)主催の電影奬の参考上映が行なわれる。 今年で3回を迎えるこの電影奬の対象作品は、その年に台湾で上映された香港映画、台湾映画。 香港映画の場合、台湾での公開は北京語による吹き替え版。 上映会のチケットは引き替え制で、中時晩報紙上の「電影花」3枚で1チケット。 新聞は1部5元(約25円)だから、3部分の15元で観ることができる。 台湾は日本のように"文化"生活がバカみたいに高いことはない。

30日まで10本が上映される。うち7本を観ることができた。以下はその映画の寸評(観た順)。


『西部来的人』
A MAN FROM THE WEST / 1989年 台湾

監督 黄明川/1955年台湾生まれ。台湾大学卒業後渡米し、アートスクールへ。 その後アメリカでCF製作。88年に帰国してインディペンデントで映画製作。 『西部来的人』は初の35ミリ。

物語は東(山地)に西(台北)から傷を負った男がやって来る所から始まる。 村人の話す泰雅語(台湾の原住民の言葉)はまるで日本語のクリオールで、 日本人にとってはちょっとしたカルチャーショックだ。 日本は一民族の言葉を変えてしまうほどのことをしてきたのである。 でも、泰雅語も耳慣れてくると自身のオリジナルから乖離したインテリの苦悩とでもいう理屈っぽい内 容がうるさく感じられてきて・・・・。 唯一の救いは台北で風俗風俗やって帰ってきましたという秀美という名の女の存在で、 裸の背中が妙にエロテイックで生命力を感じさせる。


『客途秋恨』
SONG OF THE EXILE / 1990年 香港

監督 許鞍華(アン・ホイ)
脚本 呉念真
出演 陸小芬・張曼玉(マギー・チャン)

戦乱の中で中国人のもとに嫁ぎ、今(1973年)は香港に住む日本人女性。 彼女の娘は時折ヒステリックになる母親に閉口しているが、 一緒に日本に里帰りの旅に出掛ける。

「アタシは日本人なのよ!」と叫んで、日本にやってきては昔の友達に会って香港の生活、 子供の自慢話をして虚勢をはる母親。 娘は周りの日本人の言葉がわからず、母がかつて感じたであろう疎外感を思う。 母親は祖国と夢みてきた日本も結局自分の帰るべき所ではないと悟る。 最後に溜息まじりに「帰ろうか」。

何ともやるせなく、おかしく、そして悲しい。

光と影。水面の反射する光線のようにキラキラと記憶の断片が交錯するのが美しい。


『刃瘟』
THE STORY OF A GANGSTER / 1989年 台湾

監督 葉鴻偉/1963年生まれ。89年湯臣電影公司に入社。 助監督、脚本を経て88年『旧情綿々』初監督。

英語のタイトル通り THE STORY OF A GANGSTER である。 ロングのフィックスショットでの乱闘シーンや少年と少女のツーショットなどもモロに候孝賢の影響がみられる。 でもそれが映画への純情として伝わってくるので、観ていて瑞々しくもあり、 かと思うと東映任侠映画ばりのヴァイオレンスもあったりして若さを感じさせる。 物語は台湾語を中心に語られる。 ただ、ラストがファーストシーンに回帰していくという変な意味づけをしてしまったのが、 映画をしぼませたように思う。


『笑傲江湖』 (スウォーズマン)
SWORDMAN / 1990年 香港

製作 徐克(ツイ・ハーク)
監督 徐克・程小東・胡金銓(キン・フー)・李恵民
出演 許冠傑(サム・ホイ)・張敏・葉童(セシリア・イップ)・張学友(ジャッキー・チュン -- 注:ジャッキー・チェンではない。チュンは『チャイニーズ・ゴーストストーリー2』に出てた人)

これは、活劇!!  盗まれた武功秘術の巻き物「葵花宝典」をめぐって、悪者・良者・〓〓権力抗争が入り乱れる。 二人の道士は狂言廻しかと思うといつのまにか巻き物をめぐる渦中の人となっている。 苗族(ミャオ・ゾク)の女当主が強くて美しくて正しくて、いつのまにか男対女の戦いだったりする。 大団円のラストは定石通り、大地の間を主人公達を乗せた馬が駆け抜ける。 だからこそ、胸がすく思いがするというもの。


『両個油添匠』
TWO PAINTERS / 台湾

脚本 呉念真

『チルスとマンス』の台湾版。 で『チルスとマンス』ってどんな映画だったかというと無口な安聖基が最後に突然バクハツして ビルから飛び下りるって映画だった。 あの強烈なラスト、すべてが安聖基に集約されていくから前半のソウル〓〓青春も生きてくる。 こちらは“街”よりも“二人の背景”・・・ 一人は泰雅族出身の青年、一人は大陸の故郷を夢想する中年 ・・・に台湾の今があるというわけで、 そちらを追って社会派ドラマにした分映画のオモシロさがなくなってしまったし、 テンポももたついてしまった。台湾語、泰雅語が使用される。

(編注:この作品は去年の6月中旬に「アジア映画の新しい波'90」で 『二人のペンキ屋』という邦題で上映されています。 原作者の黄春明と監督の虞戡平が来日)


『後街人生』
香港

監督 ラウ・アモン

台湾での公開は当然、北京語による吹き替え、でも、これは絶対に広束語で観たかった。 思えば、『ギャングス』は初めて書葉の勢いに圧倒された映画だった。 言葉がセリフでもストーリーでもない“何か”だった。例えば強烈な体臭とかそんなものだ。 だから意味なんてわからなくてもかまわない。 このラウ・アモンという人は心底人間が好きなのだ。 だから、人間が生活する街がスゴクいい。 そして、彼らは何も持たず自分の体だけが唯一のものだから、言葉も自分の持ち物なのだ。

『ギャングス』では子供達が無軌道に暴れまわったが、 『後街人生』では一人の裏道に生きる女とその娘がぶつかり合う。 母親役の女優もいいけど、娘役の子が圧倒的にイイ。まだティーンエイジャーだろうが、 体を張ってつっぱっていて観る者の胸に迫ってくる。とかく大陸や祖国「64」、 「97」といった課題を追いがちな香港映画の中にあって、 ラウ・アモンはあくまで人間とその人の住む“界隈”を撮り続ける。 次回作も観たい!!と思わせる人です。


『滾滾紅塵』(レッドダスト)
TILL THE END OF THE WORLD / 1990年 香港

監督 厳浩(イム・ホー)
脚本 三毛・厳浩
出演 林青霞・泰漢・張曼玉(マギー・チャン)

二つの混乱(日中戦争と文革)をはさんで、くっついて離れて、 くっつきそうでついに離ればなれになる男女のメロドラマ。 香港映画の美術や技術のよい仕事ぶりがみられる。 といっても私の思考は、まだ香港映画に慣れていないのか、 唐突に見せ場、見せ場がつながるので、そーかストーリーはいらないのかと無理に納得して観る。

ところで今ってこの手のメロドラマはよそでは成立しないんだろうなあ、とふと思う。 “天安門”だの“返還”だのただならぬ空気がある種とても映画的ムードを作っているのかもしれない。 というわけでクライマックスの大仰さが少しもやり過ぎに感じられなかった。



この他、葵楊名監督、呉念真脚本(この人ホント量こなしてます)の台湾映画 『兄弟珍重』が評価を得ていたが、未見。 商業映画のほかに非商業映画部門が設けられ、 8ミリ、16ミリビデオ作品の中から秀作数本が上映される。 といっても大学映研の作品発表会のような作品(スミマセン)でちょっと疲れました。

その中で唯一抜きんでて見られるのが 『老周老汪阿海和他的四個工人』(監督・林正盛)。 “現代”からとり残された山あいに住む果樹農民の姿を丹念におったドキュメントビデオで 作り手の素朴で素直で謙虚な態度が感動的だ。

「日本語を学校で三年間勉強した。 でも“復光”(日本統治終了)で中国(外省人)が来て全部なくなった」 今でも北京語は喋れないという。 この名もない貧しい農民の生活をカメラは黙々と追う。 時代の流れや歴史の変化の恩恵を受けることのない彼らが黙々と生きるように。 彼らはいつかは消えてなくなり忘れ去られていくのだろう。 目覚ましい“進歩”と生活向上に誰もが躍起になっているような台北の街を見ている一方で、 こんな若い映像作家が地道にやっていると知ると何だかほっとする。



さて十二月は金馬奬の季節。

街中でバスの車体に街灯に“目”のデザインをあしらったポスターを見かける。 1990年金馬奬の入選作は、 『西部来的人』『客途秋恨』『刀瘟』『笑傲江湖』『滾滾紅塵』そして『愛在他郷的季節』。



『愛在他郷的季節』
FAREWELL, CHINA / 1990年 香港

監督 羅卓瑶(クララ・ロウ)
脚本 方令正
出演 張曼玉(マギー・チャン---金馬の3本に出演!)・梁家輝(『激光人』にもでてた)

珍しく吹き替え版ではない。広東語、北京語、英語が使用される。

中国大陸から先にアメリカ入りして音信の途絶えた妻を追って、NYへやってきた南生(トニー・レウン)。 その彼が妻の足どりを追うのと同時進行で観客は祖国を離れアメリカヘやってきた中国人の姿を垣間見 ることになる。 そして、主人公もまた妻と同じく異郷にはまり逃れられなくなっていく。

撮影の最中に“天安門事件”に遭遇していることも手伝ってテーマのほうはかなりヘヴィーである。 が、妻をひたすら追い求める夫に絞りこんだため、絶えず緊張感があり、最後まで一気に見せる。 主演の二人に加え、南生の道連れとなる少女ジェインの存在も見逃せない。 『後街入生』といい、香港のティーン・エイジの女の子ってなんでこんなにインパクトがあるの?



さて前述の6本で作品賞など競われたわけだけれど、これがテレビで大々的に放映される。 香港、台湾の映画人が一堂に会するわけだからそれはもう華やか。 候孝賢は昨年『悲情城市』で作品賞をとりたかったとか言っていたけれどナルホドと思う。 作品賞は『滾滾紅塵』(主演女優賞も・・林青霞)、 主演男優賞はトニー・レウン(『愛在他郷的季節』)

この直後『滾滾紅塵』の脚本家で女流作家の三毛が自殺するというショッキングな事件があった。

自分達の根っこの部分に関わるという意味では香港と台湾が映画で追っていることは同じだが、 香港は「祖国を離れる、そして……」という方向に、 台湾は「台湾という場の内に……」というように相反する形で表出しているのが興味深い。 大陸と香港と台湾、さらに世界中に流出する華僑すべてを含めて「中国人」であるという複雑さを 日本人は到底理解できないのかもしれない。





1990年台北金馬國際影展

TAIPEI GOLDEN HORSE INTERNATIONAL FILM FESTIVAL 1990

映画祭のオープニングは『夢』。 INTERNATIONAL CINEMA が、米・仏を中心に20本。ASIA-AFRICA SPECIAL が12本。 UNBANNED CINEMA は『コミッサール』『つながれたヒバリ』など4本。 DIRECTORS IN FOCUSは、篠田正浩作品3本。 クシシュトフ・キェシロフスキのテレビシリーズ『十誡』の十本すべて。 (これはぜひ観たかったけれど全部平日の昼間なのでパス。ズルイヨ)


*12月8日(土)…

今日から「金馬国際影展」。午後会場の長春戯院へ行くが前売り券は先の先まで売り切れのものが多々。 上映の前日に売り出すんじゃないの?! 約束が違うじゃないかと思いつつ 『ホワイトハンター・ブラックハート』だけ購入。 チキショーおまえらいつまでもそんないい加減なことしていろよ! と心の中だけで毒づき、 気をとり直しようもなくMTVへ。

初めてのMTV。百元(約五百円)の料金に飲み物つき。8畳ほどの個室に大画面のビデオがあるが、 いかがわし気な雰囲気が如何にも台北。 選んだビデオは『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー2』。 画像があまりにも汚い。


*12月9日(日)…

気をとり直し、ダフ屋から券を買うつもりで再び長春戯院へ。 1時間前に13〜15枚だけ当日券を売ることを知る。昨日のガックリ料、返してほしい。

まずは、『ダディー・ノスタルジー』を無事観る。 (ダーク・ボガート年とったなぁ〜)途中で寝る。

2本めはドワイヨンの『女人的復仇(WOMAN'S REVENGE)』。 女二人と不在の男(死んだ男)の三角関係。 小柄で顔のつくりもおとなしいイザベル・ユペールがあのベアトリス・ダルをいたぶるのがすごい。 『主婦マリーがしたこと』を思い出す。本当にいい女優。 この感情のネトネトの嵐ってダメな人はダメだろうなあ〜。 ちなみに私は結構好き。会場は満席だけれど観客はやはりしんどいらしく、 あっちこっちで椅子がギシギシ。

3本めはベルトラン・ヴァン・エファンテルの『TUMALTES』(混乱)を観る。 終映は11時ちかく。2本でやめて帰ればよかった。


*12月12日(水)…

『I WANT TO GO HOME』(アラン・レネ/1988『我要回家』)
私も思わず I WANT TO GO HOME。笑ってるんだか、泣いてるんだかよくわからない。 帰りのバスの中、窓に広がるのは夜の街。明るい闇に溶けだすネオンの輝きが目にしみる。 アラン・レネに望郷の思いをくすぐられる。


*12月14日(金)…

『ホワイトハンター・ブラックハート』 (『白色狩人黒色人』)
いくら指定席だからといって(台湾の映画館は全て指定席制) やはり開演までには席についていてほしい。 ましてやここは新宿のB級専門館や浅草名画座ではない。 INTERNATIONAL FILM FESTIVAL の会場なのである。 まあ東京の某国際映画祭のようにやけにフォーマルな装いで 「たまには映画でも観ましょうか」という人も困りものだが。 最初の15分程は途中からはいって来る人のため集中できない。 でも結局差し引いてお釣りがくるほどに「映画を観た」のでヨシとする。


*12月18日(火)…

『ヌーベルバーグ』
とりあえず、この映画祭では『ホワイトハンター・ブラックハート』 とコレさえ観れればと思っていたので大満足。

カメラが動くだけでこんなにも感動的だったなんて…。 高野文子の漫画に「いこいの宿」というのがあってその中の旅人のセリフに 「愛だ! 愛だったんだ。私が捜し求めていたのは愛だったんだーッ!」 というのがあったけど、時々そー叫びたくなる瞬間がある。つまり今がその瞬間。 中国語のタイトルは『新浪潮』。


*12月22日(土)…

『旺角(モンコク)カルメン』の王家衛の『阿飛正傅』DAYS OF BEING WILD を観る。 構想2年撮影1年、総製作費5千万HKドル。 売れっ子スターばかり6人も集めてのクリスマス大作。 テレビドラマより多くの映画が出ては消えている香港映画にあってはまさに破格。 出演は張国栄(レスリー・チェン)、張曼玉(マギー・チェン)、 劉徳華(アンデイ・ラウ)、梁朝偉(トニー・レウン)、 喜玲、張学友(ジャッキー・チュン)。 今の香港映画を観れば、必ずこの中の誰かが出ているのではないかというほど。

で、映画とはというとズバリ“とんでもない映画”無時代(設定は1960年代)、 無国籍(設定は香港)の不可思議なムード、くさいセリフ映画でしかない空間、 本物のヤシの木まで人工的に見える。ストーリーはあってないようなもの。 淡い脱出への期待とあきらめが飽くまでクールに熱く全編を貫く、 不意打ちを食らわされたように映画が終わり、帰路につくのだが、 どうしてもあの人をくったラストをもう一度観たいと思うと矢も楯もいられなくなる。 でも、一番スゴイのは、こういう映画にメジャーなお金をかける香港映画のとんでもなさだ。


*12月24日(日)…

MTVで『表姐好』 (ビャオ・ジェ・ニー・ハオ) 香港
大陸から強盗犯を護送して香港へとやってきた表姐(父方の従姉のことだが、“お姉さん”程度の意) が香港人や香港に移住しているがガチガチの国民党の台湾人などとドタバタ活劇を繰り広げる。 大陸と台湾と香港がひとつテーブルを囲むという現実にはありえない、 でも中国人なら誰でも想像しては思わず苦笑してしまうことをやりすぎにならない程度にパロディにして、 さらに香港アクションがメリハリをつける。 この年の大ヒットがうなずける好作品。

ミソクソ大量に出回っている香港映画だが自分たちの観客が一番観たがっているものをちゃんと知っているところが、 映画産業として成り立っている所以だろう。 とはいっても子供も大人も「ちびまる子ちゃん」に熱狂する日本人が何を観たいか、 なんてわかんないよなあ〜。


*12月29日(土)…

『驚天12時間』(香港)
監督 王晶
出演 アラン・タム、アンデイ・ラウ

映画の基本がB級、C級で、観客にも日本のように1600円分楽しむぞーという意気込みがないので とにかくスピーディーに回転することが命の香港映画。 とはいえたった二人の人命を救うためバタバタ人が死ぬのでどうも居心地が悪い。 悪者は日本人というのが定番になりつつあるのだろうか?  『ブラックレイン』の松田優作をパクったキャラクターもかっこ悪い。 でも下ネタがえげつなく飛びかう下品さは買います。

*12月30日(日)…

『阿嬰』
台湾生まれのジョイ・ウォンが今年里帰りして撮った2本のうちの1本。 J・ウォンの多忙さのため撮影が大幅に遅れ、 製作会社がJ・ウォンとマネージャーを告訴するという曰く付きの映画。 デキの方は撮影時間の問題以前というのが正直な感想。 女の復讐劇で素材は面白いのにヒネリすぎといおうかテンポものろくて疲れました。


*1991年1月6日(日)…

『霊幻家族』(香港)
監督 劉偉強
出演 林正英

ご存じキョンシーもの。おなじみのキャラクターにおなじみの話の展開なのだが、 安心して笑えるし、ちゃんと恐かったりもする。やはりプロの仕事。 気のよい美人の幽霊が色をそえる。


ところでこの日は“『××××』が面白い”といわれたので出掛けたのだが、 すでにその映画は終っていた。ここでは1度劇場公開が終るとすぐにビデオになるので、 再び映画館で観られることは、まずない。映画はあくまで商品であり、 映画館はショーウインドーという現象はもしかして日本より徹底しているのだろうかと疑問に思う。 それでも映画と観客の間に深くて暗い溝ができてしまった日本映画の現状を考えると、 ここ台北ではやはり映画は燦然と輝く大衆娯楽であり、映画館は街の風景としてそこにはまっている。 日本にはもはや大衆は存在しないのだ、という事実が身に染みる異郷での年初でした。


一九九一年一月
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