女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
14号 (1990.04)  pp. 71 -- 73

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地畑寧子

『月を追いかけて』 RACING WITH THE MOON

きわめてノスタルジック、きわめてイノセント

『カジュアリティーズ』、『俺たちは天使じゃない』 が一挙に公開されているショーン・ペンの主演作。 私事で申し訳ないけれど彼は私の好きな俳優の一人。 とにかく暴力事件で警察沙汰になることが多々あり、マスコミ嫌いは有名、 負のイメージを背負っていますが、彼の演技力は誰もが認めるところです。 彼の作品をいままで観た中で駄作だったのは『上海サプライズ』くらいでしょう。 彼の魅力は"群れないところだ"といっていた人がいましたが、 同じ年代の‘ブラットパック’の枠にはまらずはじめから一個の俳優として実力を発揮していました。 いままでロバート・デュバル、クリストファー・ウォーケンといった大物と共演し、 十分にわたりあうところをみせています。

その狭間でこの作品は、彼が強烈な個性を抑えた静かな叙情的な好感のもてる良作です。

第二次世界大戦中のカリフォルニアのとある小さな町を舞台に あまり裕福ではないペン扮する青年と住み込みのメイドをしている母親と ひっそりと生きているエリザベス・マクガバン扮する少女との無垢なロマンス、 アルバイト仲間のニコラス・ケイジ扮する青年との友情が進行していきます。 ペンとその父親との言葉は少ないけれどひたひたと心にしみ込んでくる親子の信頼の厚さ、 親友ゆえに彼の過ちを叱責しなければならない苦しさ、 叱責しながらも友の過ちの償いに必死の奔走をしざるを得ない情、 それを健気に助けようとするマクガバンの愛情など、どこか忘れかけてしまったものが、 この作品にノスタルジックに描かれています。

映像の美しさも出色で作品のカラーをもりあげています。 "MOONLIGHT BECOMES YOU" (歌ビング・クロスビー)、 "SING, SING, SING" をはじめ、 バックには40年代へのノスタルジアを盛り上げる選曲がなされているのも魅力のひとつでしょう。

('84米作品 監督 リチャード・ベンジャミン)


『鬼ママを殺せ』 THROW MOMMA FROM THE TRAIN

ダニー・デビトーとビリー・クリスタルの掛け合いが面白いブラック・コメディー

大ヒット中の『ローズ家の戦争』では、『カッコーの巣の上で』 以来の長い付き合いのマイケル・ダグラスと『ロマンシング・ストーン』 シリーズで付き合いのあるキャサリン・ターナーを起用して、 監督業にも気をはいている、ダニー・デビトーですが、 この作品は彼の長編初監督作品です。 ダニー・デビトーといえば前出の『ロマンシング・ストーン』や『ナイルの宝石』の他に 『殺したい女』や『ツインズ』などとにかくうまいコメディ俳優として有名ですが、 この作品をみると第一作とは思ないほど監督としての実力も確かなのがわかります。

ヒッチコックの『見知らぬ乗客』をヒントに、目の上のタンコブの母親を殺そうとして 同じく妻に憎しみを抱いているビリー・クリスタル扮する創作教室の教師に交換殺人を持ちかける、 ちょっと頭のヨワイ短絡的な中年の生徒を彼自身が演じています。

一方ビリー・クリスタルは日本でもロングランを続けている『恋人たちの予感』の俳優ですが、 急上昇をしているメグ・ライアンに押され気味の感があります。 しかし、この作品では、彼のコメディセンスが十分に発揮されていて ダニー・デビトーとよくかみあっています。 短絡的で、頭がヨワイ生徒とかこつけているデビトーの思わぬ創作力の高さにとまどったり、 自分に実力を認めてもらいたいと執勘にせまるデビトーのしつこさにおののいてしまうくだりはみものです。 とくにタイトルバックが流れるオープニングのシーンは、 クリスタルの一人芝居で文章が書けない作家が苦しんでいる様を実にユーモラスに演じています。 頼みもしない交換殺人を勝手にされてしまい、 自分も殺人をしなければならなくなるハメになってしまう戸惑いをコミカルによく演じられるのは、 彼ならではでしょう。

そして、当の母親を演じているのが、怪女優(?)アン・ラムゼイ (この作品でアカデミー助演女優賞ノミネート)。 この作品はこの3人がすすめていく設定では一般にいうブラック・コメディーではありますが、 毒気もさほど強くなくスンナリと入っていける、ハートウォーミングで機知のある 明るく笑えるコメディーです。

('87 米作品)

(ビデオ発売になっている「アメージング・ストーリー2」の第3話 THE WEDDING RING をダニー・デビトーが監督・出演しています。 これもコメディーですが、あたたかいいい作品です。 主演のレア・パールマンはデビトー夫人です)


『アメリカン・フライヤーズ』 AMERICAN FLYERS

野球だけじやないケヴィン・コスナーの魅力

ハリウッドの良き伝統を受け継いだ作風の『フィールド・オブ・ドリームス』 が公開間近になっています。原作のすばらしさもさることながら、 主演のケヴィン・コスナーをはじめ、 出演者が総じていい作品にはめったに出会えないと思います。 作家に扮したジェームス・アール・ジョーンズ、 コスナーの妻役のエイミー・マディガン、 出番は少ないけど『アトランティック・シティー』 の時の素晴らしさにまさるともおとらない演技をみせてくれるバート・ランカスターには 感動せずにはいられないでしょう。 親子の絆を本流に、夫婦間の信頼、夢、一個の人間としてのあリかたなど いままで言い古されてきたものがさわやかに描かれています。 とくに60年代に青春時代をおくった人にはグッと胸に迫るものがあると思います。 一度は観てほしい作品です。

いまやハリウッドを背負って立つ存在になったケヴィン・コスナーですが、 短くはなかった下積み時代を抜け出しはじめた頃の作品がこの 『アメリカン・フライヤーズ』です。 いわゆる自転車競技を扱ったスポーツ物ですから 『ヤング・ジェネレーション』を観たことのある方は比較しながら観てみるのも一考でしょう。 ただ『ヤング・ジェネレーション』は、 デニス・クリストファー扮する自転車レースに魅せられた青年を中心に友情を加味した作品でしたが、 この『アメリカン・フライヤーズ』は兄弟愛を本流に自転車レースを扱った作品で、 レース自体もロッキー山脈が舞台でかなり苛酷です。 レースに賭ける強者たちの姿も交えて、臨場感の点で『ヤング・ジェネレーション』 のはるか上をいっています。

医者ゆえに自分が先天性の脳出血で残り少ない命であることがよくわかるだけに、 かつて自分が保持していたレースの覇者の座を最愛の弟(デビット・グラント) にも勝ち取らせてあげたいと病気をおし隠しながら苛酷なレースに一命を賭けて 自らも臨む兄をケヴィン・コスナーが魅力的に演じています。 自身で捨ててしまった家族(親)をかつての過ちを悔いながら、 取り戻していこうとする姿は『フィールド・オブ・ドリームス』に近いものがあります。

かつての正統派といわれる俳優が、めっきり減ってしまったアメリカ映画ですが、 どっこい生きている正統派俳優ケヴィン・コスナーの軌跡をこの作品でぜひ追ってみてください。

出演者は他にレイ・ドーン・チョン、アレキサンドラ・ポール、 チョイ役でジェニファー・グレイが出ています。

('85米作品 監督ジョン・バダム)

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