女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
14号 (1990.04)  pp. 28 -- 29
『セックスと嘘とビデオテープ』記事一覧

『セックスと嘘とビデオテープ』

傷つきたくない症候群

妻に毛嫌いされて、セックスができず、 その分セックス好きの妻の妹と情事を楽しむ仕事人間の夫。
セックスがいやで、ひたすらそんな自分の深層心理探求とゴミ問題に没頭する妻。
姉の夫とまさかの場所で、スリルを味わいながらセックスを楽しむ独身の妹。
夫の旧友でビデオテープの中の女達のセックス告白だけが慰めのインポ男。
この四人の相姦図がこの映画だ。

みんなの原稿が遅いので(私がこの担当だった)催促の電話をすると一様に
「書けない」
「どう切り込んで良いのか解らない」
と唸り声を上げる。

実を言うと私も五回目。 つくづく思うに書けない訳の一つに「セックス」「嘘」「ビデオテープ」 というMの例を上げるまでもなく、現代キーワードが、 タイトルにテーマについてしまっているからじゃないだろうか。

この三つは、今の私たち(わたし)にとって「こうなのよ」 と言うには身近にありすぎるものだし、 それも困ったことにプライベートなことであるものだから下手にわけ知り顔で言うと、 差し障りがある。

弁護士の夫と、妻の妹の関係を「みんな疲れてるんだから、 いいじゃないの息抜きしたって」と言えば「やってるやってる」と言われそうだし、 「妹は大した女だわ、応援したい」と言えば「矢っ張り……」、 「インポの男はあの妻と成立したのかどうか……」と言えば 「欲求不満の見方。やったやらないは問題でない」と笑われる。

しつこいようだけど、あの妻とインポの男はビデオテープの告白の中でどうなったのか。 テープを見たかぎりでは、解らない。 ただセックス拒否症的女が男を求め、 インポの男が生身の女を求め始めた動きが感じられるだけ。 それが愛の芽生え、愛の予感なのだろうか。 見終わって、不満が残ったのも確かだ。 傷つきたくない症候群とでもいいましょうか。

傷つけたくないといいながら、実は自分が世界で一番傷つくことを恐れる者たちの集まり。 セックスも嘘もビデオテープもいいけれど、 逃げ込みたくても逃げ込むことのできない沢山の人間がいることも忘れないで欲しいナァ。

四人の抱える問題が、人対人のコミュニケーションの問題であるならば(あるのだから) こうゆう言い放しでいいのだろうか。 二六歳の監督の感性が四〇過ぎの私の感性と合わないだけなんだとしたら、 それでもいいけど、私はこの映画そんなスゴイ映画とは思わない。

(出海)

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