女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
14号 (1990)  pp. 61 -- 65

李修賢(ダニー・リー)に会いに香港電影博へ行く記

山本

いつだったか仕事場で、キネマ旬報のグラビアページをパラパラしていたら、 友達が側から「あっ出とるよ、出とるよっ」と香港電影博のぺージに手をどっと差し込んだ。 その時!私の運命は決まったのだった。

「えっえっ!?」とそのぺージに目をハシらせた私の捉えたのは中央辺りの写真。 そこにはなんと李修賢が周潤發と共に写っているじゃありませんか!!

第2回香港電影博??次の瞬間、動作のトロい事で有名な私が本屋へぴあを買いに走る。 帰って即ぴあの編集部へ電話をかけて詳細を聞いた私は、昼休みには券を買っていた。 もちろんこの私の電光石火の行動力にびっくりしない友人は誰もいなかった。

こうして私の東京行きは突然決定したのである。 しかしその頃はなにしろ仕事がゴチャゴチャしていて時間がなく 東京行きの支度などできたもんじゃなかった。 ろくに広島を出た経験もなく、二十七歳というトシさえドン臭すぎて 安心のタネにもならないという私が物心ついて初めての東京行きだというのに 時刻表を買ったのも前日、当日には出掛ける五分前まで寝ていて妹にあきられてしまった。

とにもかくにも新幹線に乗りこみ、ほとんど寝ながら5h〜東京到着。

なかなか計画さえ立たず、“行きます”とだけハガキを出した佐藤さん宅にTEL。 大荷物抱えてまず渋谷へ。

香港電影博があるPARCO PART3の場所を確かめてからテキトーに食べた私は まず渋谷パレス座で『恋人たちの予感』を観る。並んで待ったなんて久しぶり。 予想通りのイキでステキな映画で、メグ・ライアンの魅力開花!ほろびまくる!! ビリー・クリスタルのヒゲのないカオは新発見だった。



さて、前置きが長くなりましたが、そろそろメインの香港電影博のおハナシを・・・


考えが甘かった!!

『恋人たちの予感』を観終えて人混みを掻き分けて会場に着いたのがすでに開演4時5分前。 思ったより狭い場内は一周してももうとても座れる余地はない。通路に座る。

それにしても、こっちに来るとやっぱりこんなにたくさん香港電影ファンがいるんだなーと思うだけで、 感じるだけでもうちょっと感激。思わず周りをぐるーっと見回してしまう。 この人はいったい誰のファンなのかな、 こいつは絶対渋好みだろーなーなどと思っているうちにどうやらいよいよ・・らしい雰囲気。

わーわー ぴーぴー どーっ! これがゲストであるサモ・ハン・キンポーが姿を現した瞬間、 香港電影博のオープニングだった。 (シルビア・チャンも来る予定だったがキャンセルになり残念!!)

おーっこれは噂に聞いてたファンタステイック映画祭のノリに近いじゃないか!  と私の胸は踊る。

初めて見たサモ・ハンはひとまわり締まってるかなという感じだけれども正に映画そのまま。 ユーモアよりも貫禄を感じる? ともうひとりのゲスト(私などにはその昔のGメンでお馴染みの) 倉田保昭さんの話をナンともフワフワした気持ちで聞く。

いよいよ『狼』の上映となった!! 待ってました!  これがまた最初から感動ものの盛り上がり!  上映が始まりスクリーンに「徐克」「呉宇森」と出るといきなりわーっと拍手。 ましてや「周潤發」などと出ようものなら会場一斉に大拍手! という具合で、 私はもちろんよしっ次の「李修賢」だっと狙いを定め、元気にわーっと手をたたいた。 でもこんな個人プレーも香港電影博大好きの熱気にあたたかく包まれ浮いちゃうことなどないのだ。

とにかくノリが良くて、殺し屋の周潤發が鮮やかなガンプレイでも披露しようものなら それこそ会場はヤンヤの大喝采。これぞ電影博!!

私の李修賢は、刑事でありながら、男気があり腕のたつ殺し屋周潤發に惹かれてしまうという なんとも正直で魅力的な役を潤發とガップリ組んで気持ちよく、カッコよくキメている。 潤發と張っても一歩もヒケをとらないんだぞ!  と私はあらためて修賢に惚れ直す。

修賢が捕えるべき相手でありながら、“惚れちまったね”ってカンジで ‘彼ならこうする、きっとそうだ’などとやっているシーンでは笑いもキテいたが、 映画が進むにつれ会場全体もうのめり込んじゃってるのがわかる。 “男が男に惚れる”ってホントにいい。 だからハッキリいってこの映画はまさに修賢と潤發の男の映画なのだが、 紅一点の葉倩文(サリー・イップ)が可憐で可愛い。 出しゃばらず、十分に存在が美しく輝いているのが素晴らしい。

なかなか渋い朱江という俳優、『男たちの挽歌』のタクシー会社の社長さん。

それにお馴染みの面構えの彼(わかる人にはわかってもらえる)も出ている (つまり『愛と復讐の挽歌』で窓拭きを装った周發の右腕。 ちなみにこの時裏切った左腕を演じた彼は『狼』の冒頭に潤發に殺される)。

ラスト三十分辺りはもう言うまでもない大銃撃戦である。 そして“テッテー的”で“凄い”の二言。 “ここまでする?”ととんねるずなら言うはず。 しかし、正に男の花道である。先など見ずに突っ走る。 若くはない男達がやるから胸にくる。 そして私はやっぱりそれに憧れてしまう。

私はひとり、おーっとか、わーっとか言っているが、会場のほとんどは固唾をのんでいる。 もしかして皆もひとリひとり唸っているのかもしれないが、そんなところまでイシキできない。

“きゃーカッコいい”と“ああ、なんてカッコイイ”・・・ とが混ざり合ってその美しき男達の潔さに思わずコミあげる・・& こんなにカッコいいんじゃ、もう私だけの李修賢じゃなくなっちゃうなあと思うと またコミあげるものがあって私はほとんどぐちゃぐちゃになる。

そういう具合で皆その壮烈さに撃ちまくられ、アングリさせられ、 タメ息と感嘆の声と共に映画は終った。

『狼』はちょっと凄いですよ、皆さん!! 体力2倍使います。 これは決して観逃してはいけません。

'90は『狼(喋血双雄)』と『等待黎明(風の輝く朝に) こんなタイトルになってしまう』 を観ずして何も語れない。

“この為”にやってきた香港電影博オープニング上映『狼』はこうして終った。 「ローウェル・ロウ(盧冠廷)は今絶好調って感じだね」 などという香電ファン男子の会話を耳にしながら心地よい疲れと共に階段を降りる。 興奮醒めやらず暑い暑い汗をかく。化粧してこなくてよかった・・・ とヘンなことにホッとする。


ポンパドールでパンを買っって渋谷駅で佐藤さん宅にTEL。 聞いた通りに電車を乗り継ぎ無事佐藤宅に到着。 (ホントウにありがとうございました)  その時ちょうどいらした大牟礼さんとお話したりして、 おかげで次の日もあわせてもうこれ以上ない二日間を、 これ以上ない四本の映画と共に過ごせた。


二日目、『恋恋風塵』も観たかったけれど、 時間の事もあって原宿へ『どついたるねん』を観に行く。 昨夜大牟礼さんと話していた時に 「最初に男の子が出てきて関西弁でまくしたてるんだけど早口で何言ってんのかよく聞き取れなかった」 と言っていらしたので少し気をつけて聞くが、私には難なく聞き取れて、 おーやっぱり私は関西人で耳が馴れてんだなーとヘンな関心をする。 ちなみにその男の子は「なんぼでもきてみい、なんぼでもどついたるわい」と言っていました。

引き合いが多くて広島での公開が延びた『どついたるねん』は流石の活動映画。 生で面白く、等身大にパワフルで日本映画に久しぶりの胸ワクワクは嬉しかった。 シネドーム(東京での封切館です。編集部注) 前でパンフを売っている人に「広島から来たんです」と言うとびっくりされ 「もう一度みていけば」と勧められたけれど、東京での観納めこれだけは! とこだわった『トーチソング・トリロジー』を観るため新宿へ行かなければならなかった。

『トーチソング・トリロジー』は、私の仲のいい友達の運命的な映画で、 彼女の話を聞いていたせいもあり、また私も観たい映画だったせいもあって 東京行きにこれだけは観て帰ろうと心に決めていた。 ところが、東京へ来ていい加減カンを頼りに歩き回って、 これが結構うまく当たっていたんだけれど、 よりにもよって観納めの新宿でカンが狂ってしまった。 ぴあを見て目星をつけたのに歌舞伎町に迷い込んだりして 東京に来て初めて人に道を聞いてやっとテアトル新宿に着いた時には もう上映時間が二十分も過ぎている。 “ああ、こんな大切な映画を途中から観るなんて死にたいや” と絶望しながら階段を降りるとなんと!!これはキセキか!? 「映写機の故障で上映時間が一時間遅れております。」との表示。 えーっホントにー!?凄い  『トーチソング・トリロジー』は私を待っててくれたんだ! これは私にとっても運命の映画なんだ!!なんて・・・

ロビーで次回上映まで本を読みながら待った。 エンドクレジットが終らないうちに扉をあけてしまったのには驚いた。 せっかくきれいな劇場なのに・・・

『トーチソング・トリロジー』は私の'89ベストワンになった。 私の友達すべてが言っていたマシュー・ブロドリックの素晴らしさと 例えようのない魅力には参ったが、 なんといってもハーベイ・ファイアステンの圧倒的な存在は私を釘付けにした。
人間の映画だった。


『恋人たちの予感』『狼』『どついたるねん』『トーチソング・トリロジー』 信じられないくらい充実したすんごいラインナップで映画を観て、 そのうち二本は洋邦'89のベストワン。

かくして私の“李修賢に会うために東京行き”は素敵に幕を閉じた。

(ところで、鹿賀丈史が日本で「トーチソング・トリロジー」を演った時のアラン 〔映画ではマシュー・ブロドリックの役〕は誰だったか、 知っている方教えてくれませんか!?)


P.S. なお、『狼』には『男たちの挽歌 最終章』というサブタイトルがついていますが、 実は『男たちの挽歌』の続編ではあリません。 本当の続編はGWに『アゲイン/明日への誓い』というタイトルで公開されます。 ですから一応『英雄本色III』ですが、お話は第一作より前の時代に戻り、 アニタ・ムイ(梅艶芳)扮する周潤發の姉御の強烈な女の映画になっているそうです。 乞うご期待!! あっリゲインの時任三郎さんもでてます。






お知らせコーナー

Web 入力者注: 以下は14号の記事を過去の資料として掲載しているものです。

◆『どついたるねん』は、場所を原宿シネドームからキネカ大森と横浜関内アカデミーへ移し、 二月二四日から四週間の予定で上映されます。 どうぞお見逃しなく!

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