女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
12号 (1989.08)  pp. 6 -- 14

夏の夜に楽しんで!

私達が独断と偏見でお薦めする夏の夜の為の映画です


佐藤玲子
◇『グレート・ブルー』
八八年・仏=伊
監督/リュック・ベッソン
出演/ロザンナ・アークエット、ジャン・マルク・バール
*碓もが思いつくと思うけど、とにかく海がきれい!! 気分が広ーく広ーくなります。
◇『情事』
六十年・伊
監督/ミケランジェロ・アントニオーニ
出演/モニ力・ビッティ、ガブリエル・フェレゼッティ
*けだるいセックス。 モニ力・ビッティのあの顔をみていると少し寒くなんないかな、 よけい熱くなっちゃったりして。
◇『天井桟敷の人々』
四五年・仏
監督/マルセル・力ルネ
出演/アルレッティ、ジャン・ルイ・バロー
*まだ観てない人に…夏は休みがある。長いものを観る絶好のチャンス。 どこでも★★★★つくほどの名作。どうですか、挑戦してみては。
◇『ベルリンは夜』
八五年・米
監督/アンソニー・ペイジ
出演/ジャクリーン・ビセット、ユルゲン・プロホノフ
*夏なんだからやっぱリ反戦もの、反レジスタンスものも一本いかが。 ジャクリーン・ビセットが、異様に美しい。
◇『真夜中のカーボーイ』
六九年・米
監督/ジェローム・ヘルマン
出演/ダスティン・ホフマン、ジョン・ボイト
*ダスティン・ホフマンが寒い寒いニューヨークの ブッ壊れたビルの中で病気になるのをみるだけで心の中をサーッと風が吹きます。 画面を観ているとその冷たさがぐんぐん伝わってくる。


外山善子
◇『ベニスに死す』
七一年・伊
監督/ルキノ・ヴィスコンティ
出演/ダーク・ボガード、ビョルン・アンドレセン
*イタリアはヴェニスの豪華なリゾートホテルの様子と、 海岸に向かう美少年の涼しげな姿がいい。
◇『旅情』
五五年・米
監督/デビッド・リーン
出演/キャサリン・ヘップバーン、ロッサノ・ブラッツィ
*イタリアのヴェニスでアメリ力のもう若くない女の一人旅のわびしさと、 夏の花火にも似たはかない恋が胸をしめつけてせつない。
◇『エンゼル・ハート』
八七年・米
監督/アラン・パー力ー
出演/ミッキー・ローク、ロバート・デ・ニーロ
*南部ニューオリンズに降りたったときの 焼けつくような暑さと汗でへばリついたシャツを着たミッキー・ローク。 その姿をクーラーのききすぎた映画館で観るのって結構楽しい。
◇『小早川家の秋』
六一年・日本
監督/小津安二郎
出演/原節子、小林桂樹
*まだクーラーなどない、古き良き時代の夏の風物を懐かしむ意味で選んでみた。


大牟礼亮子
◇『グレート・ブルー』
八八年・仏=伊
監督/リュック・ベッソン
出演/ロザンナ・アークエット、ジャン・マルク・バール
*アフリ力の天才画家ムパタの絵を見たことがある。 “寂しく、しかも明るい”とある人が評して言っていた。 夏の日ふと仰いだ空の青みに、何かそのような湿っぽくなくどこまでも広がっていくような、 寂しい明るさを感じることがある。そんな切ないまでの青色に満ちた映画だ。
◇『気狂いピエロ』
六五年・仏
監督/ジャン・リュック・ゴダール
出演/ジャン・ポール・ベルモンド、アンナ・カリーナ
*例えば南の島で、青い、青い、青い、海を見ていると 自分がどこかの誰かだという事とかが、とにかく面倒になってしまう。 行けるとこまで行くという、めちゃくちゃはとにかくかっこいいのだ。
◇『不良少女モニカ』
五二年・スウェーデン
監督/イングマール・ベルイマン
出演/ハリエット・アンデルセン、ラーシュ・エクボルイ
*まともな人間は、夏になると何かめちゃくちゃなことをしてしまいたくなったりするのだ。 例えばうんざりするような日常を逃げ出して不良になりたくなったりするのだ。 夏に不良になるのはとっても正当なことなのだ。 だから「モニ力」の夏は正当な夏だったのだ。
◇『太陽がいっぱい』
六十年・仏=伊
監督/ルネ・クレマン
出演/アラン・ドロン、マリー・ラフォレ
*夏の、海の、映画はやっぱリかっこいいのだ。 夏はアツイから、海が青いから、なんといっても好きなのだ。 脳みそまで溶けちゃいそうなアツサがやっぱり好きなのだ。 そういう季節が一年に一度は必要なのだ。 そういう季節にはいっそ脳みそを溶かしてしまうと良いのだ。


地畑寧子
◇『カリガリ博士』
十九年・独
監督/ロベルト・ビーネ
出演/コンラート・ファイト、ベルナー・クラウス
*無声映画だけに映像に訴えるスケールが違う。はっきり言って、不気味で怖い。
◇『暗くなるまで待って』
六七年・米
監督/メル・フェラー
出演/オードリー・ヘップバーン、アラン・アーキン
*アラン・アーキンが怖い。 オードリーって、演技も上手だったんだと気づいた次第です。
◇『八月の濡れた砂』
七一年・日本
監督/藤田敏八
出演/広瀬昌助、村野武範、テレサ野田
*石川セリのアンニュイが好きだったマセガキだった頃。 やたら軽く明るい今の青春と正反対の、屈折してじめっとした青春。何か懐かしい。
◇『冒険者たち』
六七年・仏
監督/ロベール・アンリコ
出演/アラン・ドロン、リノ・バンチュラ、ジョアンナ・シムカス
*シムカスに憧れ、バンチュラに憧れ、コンゴの海がとてつもなく美しい。 夕陽のシーンは特に、映像美そのもの。
◇『草原の輝き』
六一年・米
監督/エリア・カザン
出演/ウォーレン・ビーティ、ナタリー・ウッド
*なぜか夏に思い出す。シャイで、ピュアだった時代を追体験させてくれる。 ワーズワースという素晴らしい詩人を教えてくれた。
◇『砂の器』
七四年・日本
監督/野村芳太郎
出演/加藤剛、丹波哲郎、島田陽子、加藤嘉、森田健作、山口果林
*丹波哲郎と森田健作が亀嵩なる町を探して歩くのが夏の真っ盛りのシーン。 清張の謎解きドラマの世界に入るのもいいかも。 四十分にわたる芥川の曲がすばらしかった。
◇『無法松の一生』
四三年・日本
監督/稲垣浩
出演/阪東妻三郎、沢村アキオ
*小倉の太鼓が鳴る季節。阪妻はやっぱリ素晴らしい。 私が大好きな日本の映画。
◇『ディーバ』
八一年・仏
監督/ジャン・ジャック・ベネックス
出演/W・W・フェルナンデス、フレデリック・アンドレイ
*夏に涼しさを運んでくれる映像と曲。 ワリーのアリアは何度聞いても主人公の青年と一緒に泣かせてくれる。
◇『地上よリ永遠に』
五三年・米
監督/フレッド・ジンネマン
出演/モンゴメリー・クリフト、デボラ・カー
*バート・ランカスターとデボラ・カーの波打ち際で抱きあうシーンは素敵。 フランク・シナトラが良かったし、 モンゴメリー・クリフトが夜明けに鎮魂のラッパを吹くシーンは涙もの。
◇『ビッグ・ウェンズデー』
七八年・米
監督/ジョン・ミリアス
出演/ジャン・マイケル・ビンセント、ウィリアム・カット
*これ以上のサーフィン&青春ものは、出ないでしょう。 曲もよかったし、爽やかで、海と波のシーンは見ごたえがありました。
◇『地下室のメロディ』
六三年・仏
監督/アンリ・ベルヌイユ
出演/ジャン・ギャバン、アラン・ドロン
*盗んだ大金を、プールの更衣室に隠したシーンがあった。 ラストで、大金が水面いっぱいに広がるシーンは圧巻。 人々の開放感とギャバン&ドロンの緊迫感が妙にいいとりあわせだった。 フィルムノワールの中では白眉。
◇『汚れた血』
八六年・仏
監督/レオス・カラックス
出演/ジュリエット・ビノシュ、ドニ・ラバン、ミシェル・ピッコリ
*暑い夜、裸足で歩くビノシュの足がなぜかよかった。 エキセントリックで暗闇の映像が何か心を静めてくれた。
◇『サンデー・ラバーズ』
八十年・英=仏=米=伊
監督/ジーン・ワイルダー他
出演/ジーン・ワイルダー、ロジャー・ムーア、リノ・バンチュラ
*あっけらかんとハートウォーミング。 四話のオムニバスで、芸達者な熟年男達の小話。 バンチュラとジーン・ワイルダーの話が好きだった。
◇『シャイニング』
八十年・米
監督/スタンリー・キューブリック
出演/ジャック・ニコルソン、シェリー・デュバル
*とにかく怖い。ニコルソンの狂気は生半可ではございません。 雪が涼しさを呼んでくれるでしょう。
◇『トップ・シークレット』
八四年・米
監督/ジム・アブラハムズ
出演/バル・キルマー、ルーシー・ゲタリッジ、オマー・シャリフ
*思いっきり笑いたいときに.すべてパロディーで、 バル・キルマーが今のイメージと正反対で完全にコメディアン。 とにかく彼の唄が上手でびっくり。
◇『ナイルの宝石』
八五年・米
監督/ルイス・ティーグ
出演/マイケル・ダグラス、キャサリン・ターナー
*明るい女性板インディ。完全なエンタテイメントがいい刺激になリます。
◇『引き裂かれたカーテン』
六六年・米
監督/アルフレッド・ヒッチコック
出演/ポール・ニューマン、ジュリー・アンドリュース
*ヒッチコックの中ではあまり評価は高くないけれど、私は大好き。 謎ときも面白いけれど、逃走シーンの危うさは手に汗の連続で充分楽しめます。
◇『避暑地の出来事』
五九年・米
監督/デルマー・デイビス
出演/サンドラ・ディー、トロイ・ドナヒュー
*無垢な時代のアメリカ青春ものの決定版。 これに出てた人々はどこに行ったのでしょう?  夏の日の恋の曲、毎年よくどこかしらでかかってますね。
◇『白いドレスの女』
八一年・米
監督/ローレンス・カスダン
出演/ウィリアム・ハート、キャサリン・ターナー、ミッキー・ローク
*サスペンスものでは上級かな? 原題が“Body heat”。 ジョン・バリーの上品でグルーミーな曲が素敵。
◇『ヒッチャー』
八五年・米
監督/ロバート・ハーモン
出漬/C・トーマス・ハウエル、ルトガー・ハウアー
*心が凍ってしまうサイコ・サスペンス。ホラーに近い何かがあって、 ハンサムだけど冷たいルトガー・ハウアーの殺人鬼の恐怖としつこさには脱帽。
◇『ファンダンゴ』
八四年・米
監督/ケビン・レイノルズ 出演/ケビン・コスナー、ジャド・ネルソン
*この作品と『アメリカン・フライヤーズ(未)』は、 どっちもケビン・コスナー主演の青春もの。 別に夏でなくてもいいけれど、爽やかな気分になりたいときに観て欲しい。 アイドル映画じゃないちょっと深めのいい作品。
◇『眠れぬ夜のために』
八五年・米
監督/ジョン・ランディス
出演/ジェフ・ゴールドブラム、ミシェル・ファイファー
*『アフター・アワーズ』には及ばないけれど、 もどかしさを味わいたいときにどうぞ。 パロディーシーンもあってつまらなくはない。出演陣が面白い。
◇『狂った果実』
五六年・日本
監督/中平 康
出演/石原裕次郎、北原三枝、津川雅彦
*湘南のぼっちゃま映画にはかわりはないけれど、 あの当時の作品の中では内容があって(石原慎太郎の作だものね)よかった。
◇『白と黒のナイフ』
八五年・米
監督/リチャード・マーカンド
出演/グレン・クローズ、ジェフ・ブリッジス
*危険な情事で一気に怖い女と思われてしまったグレン・クローズが 逆に殺人鬼と戦うサスペンスもの。知的で美しくよき母親、よき弁護士。 ガープの世界やナチュラルの婆と同じくらい好き。 ソフトなジェフ・ブリッジス が残忍な殺人鬼だった衝撃が大きすぎる見ごたえ充分のスリラー。 これもジョン・バリーのすてきな曲。


岩野素子
◇『東海道四谷怪談』
五九年・日本
監督/中川信夫
出演/天知茂、若杉嘉津子
*あまリにも有名だけど、何度でも観たいから、取り上げずにはいられない。 暗闇が本当に暗く映っている映画。 ラストの浄化された聖なる美しさのために、そこへの過程は凄惨をきわめる。
◇『亡霊怪猫屋敷』
五八年・日本
監督/中川信夫
出演/細川俊之、千曲みどり
*最初は確か病院か研究室みたいな所に、夜、主人公がいて回想形式で物語が始まる。 降りしきる夜の雨の中、 いかにも由緒のありそうなお屋敷の中へ力メラがずうっとすべり込んでいくと、 もう結末まで逃れられない。そして、映画が終わった後も去らない奇妙な不安。
◇『怪異談・生きてゐる小平次』
八二年・日本
監督/中川信夫
出演/藤間文彦、志垣太郎、宮下順子
*二人の男を惑わせ、破滅へと追い込んで行く宮下順子の息をのむ美しさ! ヒロインの美しさは怪談映画にとって最も大切な要素だと思う。 そして“水”も。 宮下順子は、行水をつかったり、滝にあたったり…。 小平次は沼に沈められて殺される。
◇『ツィゴイネルワイゼン』
八十年・日本
監督/鈴木清順
出演/藤田敏八、大谷直子、原田芳雄、大楠道代
*この映画、幽霊は出てこないけど、闇の深さでは、中川信夫のものに負けないと思う。 死者と生者の間を行き来しているような大谷直子がそこに立っているだけで、 いたたまれないような恐怖感がスクリーンに満ちて来る。


山田美遊
◇『フランスの思い出』
八七年・仏
監督/ジャン・ルー・ユベール
出演/アネモーヌ、アントワーヌ・ユベール
*田舎のほこりっぽい黄色い道。地面からゆらゆらたちのぼるかげろう。 パリ育ちの少年ルイがやって来た村、ルーアンス。 ここでのルイのひと夏の経験を彼の目を通してみずみずしく描く。
◇『クリープショー』
八二年・米
監督/ジョージ・A・ロメロ
出演/S・キング、レスリー・ニールセン
*小品だが、なかなか面白い五話から成るオムニバスホラー映画。 男の子が読んでいたホラー漫画雑誌から、 一話ずつ絵が実写になり話が始まるという手法が面白い。
◇『摩天楼はバラ色に』
八七年・米
監督/ハーバート・ロス
出演/マイケル・J・フォックス、ヘレン・スレイター
*裏の青空のようにスカッと笑える作品。 マイケルが水を得た魚のようにハマリ役。 単純に楽しめるところがすごくいい。
◇『ローマの休日』
五三年・米
監督/ウィリアム・ワイラー
出演/オードリー・ヘプバーン、グレゴリー・ペック
*本当に映画らしい映画のうちの一つ。王女様のアバンチュール。 スペイン広場でアイスクリームをほおばるシーンは、あまりにも有名。 オードリーは何をやっても可憐で、気品があり、溜息が出る。
◇『ひまわり』
七十年・伊
監督/ビットリオ・デ・シーカ
出演/ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニ
*この映画は何と言ってもひまわりの黄色につきる。 太陽に向かって咲くひまわり。えんえんと黄色。 あまリにも鮮烈で、そして寂しい黄色だった。
◇『ロッキー・ホラー・ショー』
七五年・英
監督/ジム・シャーマン
出演/ティム・カリー、スーザン・サランドン、バリー・ボストウィック
*この暑苦しさは、真夏の夜に観ると又、格別ではないかと一人考えている。 やみつきになるよ、きっと。
◇『アフター・アワーズ』
八五年・米
監督/マーチン・スコセッシ
出演/グリフィン・ダン、ロザンナ・アークエット
*次から次へとこの世の不条理に見舞われる哀れな男の異常な一夜。 情けないやらおかしいやら、もどかしいやらでストレスがしっかり溜まる。 寝苦しい夜になることまちがいなし!
◇『マスカレード・甘い罠』
八八年・米
監督/ボブ・スウェイム
出演/ロブ・ロウ、メグ・ティリー、キム・キャトラル
*ロブ・ロウ主演のラブ・サスペンス。 海、ヨット、車、海辺の家などの小道具で豪華さを味わい、 謎解きの部分でドキドキ、ハラハラを味わい、 仕上げはロブのベッドシーンを思い浮かべつつ安らかな眠りにつくというのはいかが?
◇『スプラッシュ』
八四年・米
監督/ロン・ハワード
出漬/トム・ハンクス、ダリル・ハンナ
*海に住む人魚が溺れかけた少年を助ける。 それから後、大人になった二人は再会するが…。街は陸へ上がった人魚をめぐリ大騒動。 海の中を泳ぐ人魚の姿はファンタスティックで、 爽やかな気分になれる童話のような作品。
◇『サマー・ナイト』
八二年・米
監督/ウディ・アレン
出演/ウディ・アレン、ミア・ファロー
*実はこれ、私は観ていない。 でも、タイトルがぴったリなので、いかがでしょう。
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