女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
12号 (1989.08)  pp. 54 -- 55

中国の映画人

さど・じゅん

映画のポスターを横目で見ながら仕事へと急ぐ。(又々見逃しそう…) 新聞の映画案内欄が、おいでおいでしている。 (でも, 東京遠いしなあ…)そんな、こんなで、あんまり映画みてないのであります。 シネマジャーナルがなんだか遠いなあと、勝手に寂しがっていましたら、今回、 標記のタイトルで、文を書く機会を手にすることができました。感謝、感謝。

とは言っても、『上海映画事情』の大牟礼さんと違って、 私はちっとも中国の映画通ではありません。『古井戸』は見ましたが、 『芙蓉鎮』も『赤いコーリャン』も見ていないのです。 「第五世代」という言葉も、へ、へ、へ、と笑ってごまかすくらい、 とんと知らなかったのであります。それなのに、なぜ、なぜ?当然の疑問ですね。

孫自強??『芙蓉鎮』の監督の助手です。一九六四年生まれの中国人。 孫さんは、今、私の仕事場である日本語学校の生徒です。 これはいい機会とばかりに話を伺ってみることにしたのです。

まず、孫さんのプロフィールです。
一九八二年、復旦大学入学。大学で中国文学を専攻するかたわら、休みには、 聴講生として北京映画学院でディレクターの勉強をしました。 復旦大学は上海にあるのですが、学生組織である復旦大学映画学会を作り、 ついで上海の複数の大学で上海大学生映画学会を組織、映画誌を発行していました。 その誌上での孫さんの論文が認められて、映画製作所に就職しました。 ここでも、演劇学校に通って、ディレクターの勉強を続けたそうです。 そうして、謝晋監督と出会い、『芙蓉鎮』を制作、今日にいたる、という次第です。

なぜ日本へ、という問いに、孫さんは次のように答えました。

??映画制作会社にいる限り、会社の方針のものしか作れません。 独立して会社を作りたいです。独立プロを作るのは簡単ではありません。 というよりとても難しいのが現状です。 みなさんご存じの六月四日の事件でますます難しくなりました。 でも、日本で記録映画の勉強を続けて、独立プロの夢をいつか実現したいのです。

??今、週一回、六本木の記録映画センターに通っています。独立して、 中国内の少数民族の記録映画をとりたいとずっと考えています。

孫さんは日本語をはじめたばかり、この私は中国語はてんでだめ、という訳で、 中国語ペラペラの私の上司に通訳を頼みました。 映画通でもなく、制作の裏側にも暗く、ましてや言葉を人に借りて、 ではこれはもうムボーというより他ありません。 そこんところをご理解の上、引き続きお読み下さいね。

中国では、映画がどの様に作られ、どの様にして人々の元に届くのかを尋ねてみました。

映画制作所は、シナリオを監督に手渡し、制作を命じます。 陳凱歌、張芸謀などの一流の監督になると、ある程度、制作上の自由が与えられますが、 ほとんどの場合は、会社の方針通りに作っていくそうです。 できあがると会社のトップが編集します。 編集後、永田町にあたる中南海にまわされます。 つぎは、中央廣播電影電視部(廣播は放送、電影は映画、電視はテレビ。 日本の映倫です)で、ここが終わると、中国映画発行公司にいきます。 これは映画の配給会社で、中国には一社しかなく、ここをパスしないと、 作品は永久に一般公開されることなくボツになってしまうそうです。

日の目をみた映画は映画館で上映されるわけですが、 一回の料金は〇.五?〇.八元(平均月収は一二〇元だそうです)。 日本では映画代が高い、と孫さんが溜め息まじりに言ってました。

ポーランドのワイダ監督を知っていますか、と聞いたら、 知らないという返事がかえってきました。 中国ではポーランドの映画はまず見られないそうです。そこで、 外国の映画はどの様にしてはいっていくのかを質問しました。

??主に日本やアメリカの映画が入ってきますが、外貨の問題もあって、直接、 買い付けに出向くことはほとんどありません。買うのは香港でです。

??外国の作品がそのまま上映されることはまずありません。カットされるのは、 政治的なものだけでなく、同じくらいの比重で性的なものも対象とされます。

孫さんが感銘を受けた日本の監督および作品は
  大島渚:青春残酷物語、日本の夜と霧
  黒沢明:乱、羅生門
だそうです。

最後に、孫さんがみた中国、日本、 それに他の国の映画で印象に残ったものを選んでいただきました。

中国:
  1. 『盗馬賊』 田荘荘 一九八五
  2. 『林家舗子』 水華 一九五〇?六〇年代
日本:
  1. 羅生門
  2. 砂の器
  3. 青春残酷物語
その他:
  1. 呼喊和細語 (スウェーデン)
    (原題がわかりません。すいません。たぶん『叫びとささやき』
  2. 公民凱恩 (アメリカ)
    (たぶん、『市民ケーン』だと思います。)

孫さんはヘビースモーカー。通訳して下さった私の上司もスモーカー。 煙の中で、話しはつきないようでしたが、またの機会にということで終わりにしました。 出海さん、今度一緒にお話できるといいですね。

日本語学校には、映画評論家を夢みていたという韓国の若者もいます。 また、話を聞いて、シネマジャーナルの仲間をつづけようとおもいます。 よろしくっ!

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