女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。

『桃色 colour blossoms』記者会見

2005年5月10日(火)13:30〜
ホテル西洋銀座
出席者 楊凡(ヨン・ファン)監督、松坂慶子、ハリス(河利秀)

ヨン・ファン、松坂慶子、ハリス

 10月に香港で公開され、話題となったこの作品の楊凡(ヨン・ファン)監督、初の海外作品主演となった松坂慶子、韓国で人気のトランス・ジェンダー女優ハリスの3人が華やかに揃い、記者会見を行いました。会見場は赤いバラに柔らかそうなソファ、いつもと違うしつらえです。監督は映画に合わせてか、ピンクのシャツ。ゴージャスな日本人マダムを演じる松阪さんは、色白が際立つ胸の大きく開いたあでやかな黒のロングドレスです。若き日の松坂さんを演じるハリスは、明るいグリーンのミニドレスでさらさらのロングヘア、ほっそりして清楚な感じがしました。

 楊凡監督は前半英語、後半北京語でお話。ハリスは、3年の留学(東京デザイナー学院のヘアスタイリングコースを卒業)中に覚えた日本語を今も上手に話せます。韓国語でも話しましたが、通訳さんが出る幕がないほど殆ど日本語で通していました。それがしばしば率直過ぎて、場内の笑いを誘っていました。

(注:映画の内容にも触れています)



監督 (英語で) 前回は2002年『華の愛 遊園驚夢』で来日しました。今回は新作を携えてやってまいりました。ぜひ日本のファンの皆様に楽しんでいただけたらと思います。この作品はベルリン映画祭をはじめ数々の映画祭に出品されています。近くモスクワ映画祭にも出品し、この他シカゴ、シアトルなど20の国際的な都市で上映される予定です。
 これは非常にミステリアスな作品です。内容ですが、香港に住む華やかな日本人女性(ディーヴァ[diva]=主役の歌姫、プリマドンナ・・・と監督は表現)梅木夫人が、メイライという女性(テレサ・チャン)を古い部屋を舞台にした「新しい世界」へ案内するものです。そこでメイライは異性間、同性間の様々な形の愛を体験していくのです。もう一つのテーマは運命に対する挑戦です。梅木夫人は自分の運命と戦っていきます。これは革命と私は考えています。皆さんはこの映画の華やかな外面だけでなく、内面的な強さ、運命に屈せず抗っていくメッセージを受け止めていただきたいと思います。今日はこの美しい二人をご紹介することができるのを嬉しく思っています。(拍手)

松坂 今日はおいで下さってありがとうございます。去年の2月に監督にお目にかかりまして、このお話をいただきました。監督はフランスの勲章をいだいている(‘97芸術文化勲章=レジオン・ドヌールを授与)とても美意識の高いインテリジェンスのある方です。そのご指導のもとに演じられるのはとても心弾むことでした。春に香港に行き、1ヶ月ほど撮影しました。香港のスタッフの皆様とってもプロで活気があってすごく楽しい撮影でした。どうぞよろしくお願いいたします。

ハリス みなさん初めまして。韓国から来ましたハリスです。よろしくお願いします。お会いできて嬉しいです。もっといい話ができればと思っています。ありがとうございました。

Q お二人同じ人物を演じられたわけですが、お互いの第一印象は?

松坂 とっても綺麗で、スタイルのいいお人形さんみたいな人だと思いました。

ハリス 松坂慶子さんて大女優で、演技もうまくて有名でそれであのー、生意気そうかな(場内爆笑。ここは偉そうと言いたかったのか?)と思っていたんですが、食事を誘ってくれたりほんとにお母さんのような(場内笑)、いや年取ってるじゃなくてー(場内さらに笑)、お姉さんのような。前の若いときの映画とか観たんですけど、とても美しくて尊敬する人だと思ってるんです。みなさんそういう風に思ってないんですか?(場内爆笑)みんな同じ思いですよね。(拍手)

Q 性転換した役を演じるにあたってどんな感想をお持ちですか?

松坂 初めは日本から来た貴婦人のような素敵な女性だったんですけど、何回か台本が直されまして、最終稿で結局男性と言うことになって、もうビックリしました(笑)。でもこの映画は愛について書いていますし、愛のために自分を変えるというテーマがあるので、この方が本質に迫れますのでいいと思いました。

ハリス 私は最初ニューハーフを演じるのを嫌がっていたんですよ。なぜかっていうと、みなさんご存知のように私もニューハーフですから。「韓国で初めてのニューハーフ女優」「ニューハーフのハリス」とあまりに言われるのでいやになってたんです。でも、女優はどんな役でもよく演じればいい、国際的な映画をお金のためにでなく、アートのために撮ったのですごく良かったなと思っているんです。

監督 (北京語で)私が演じたわけではありませんが、梅木夫人に対する思い入れをみなさんに紹介したいと思います。私の監督ノートにも書きましたが、もともと冬に生まれた梅木夫人ですが、彼女は春が好きで桜が好きなのです。彼女は自分が愛する人のために運命と戦っていく役柄です。エロティックな場面がたくさんありますが、私が梅木夫人にこめたメッセージを感じとってください。

Q 今回松坂さんは初めてニューハーフを演じましたが、ハリスさんから見て松坂さんはどうだったか、アドバイスなどされましたか?

ハリス 30年前の若い頃の梅木夫人を演じるのに、どういう風にしたらいいかなと迷っていました。それで似てないとおかしいんじゃないかなと思って、松坂さんの演じるのを見て真似しました。上手で文句ないです。松坂さんは化粧する前から梅木さんになります。女優さんとして100点(満点)だとしたら200点です(拍手)。

Q 松坂さんはハリスさんを見て参考にしたことは?

松坂 あとで写真撮影をしたらおわかりになると思うんですが、ポージングや歩き方がとても綺麗なので一生懸命真似しました。

監督 またも口をはさみます(笑)。松坂さんは役作りのためにとても頑張ってくれました。発音の練習も一生懸命したと聞いていますし、自分の撮影のないときもよく現場に来て、他の人の演技を観ていました。ハリスの演技を観て、これこそ若いときの梅木夫人だとコメントされたこともあります。

Q セリフですが、テレサ・チャンは普通の話し方だったのに、松坂さんハリスさんはちょっとオーバーというか舞台劇のような感じがしました。監督の指示があったのですか?

松坂 はいそうです。梅木さんはいつも舞台で演じているように、というご指導がありました。元は男性なので、女性的な言い回しや、声が高くなったときは低目の声でと。

監督 私に質問があったかと(笑)。基本的に性転換者はドラマのクイーンのように圧倒的な存在感があります。今回の映画は舞台劇の中の映画、舞台劇の中の舞台劇のようにしました。幻想的でありながらリアリティも引き出すというように、音楽にも工夫しました。彼女達にはディーヴァに徹するようにと話しました。初めて松坂さんにお目にかかったときにどういう風に演じたらいいのか聞かれましたが、そのとき私は『サンセット大通り』のグロリア・スワンソン、『欲望という名の電車』のヴィヴィアン・リーのようにと演じて欲しいと言いました。松坂さんはそれ以上のものを生き生きと演じてくれました。この場をお借りして松坂さんに感謝します。

Q 今日本では韓流ブームなのをご存知でしょうか。ちょっと気になるのは兵役についてです。ハリスさんは兵役についてどう思われますか?

ハリス 私、行ってないんですよ。若いころから性転換していて戸籍も女ですから。子供を生めないほかは女です。前の恋人とか結婚したいと言うんですけど、私はまだ若いですから結婚はいいです(場内笑)。兵役は国の法律ですから行かないとダメですけど、2年間もありますからいいか悪いか私も迷っちゃう質問ですね。みなさんはどうですか?行きたいですか?行きたい人手を挙げてみて下さい(場内爆笑)。

Q ペ・ヨンジュンさんとかイ・ビョンホンさんとか、日本で人気ですがそのことはどう思われますか?

ハリス その方たちの演技はすごくうまくて、観たらファンになってしまうんじゃないですか?ドラマとか映画とかはまっちゃって、惚れちゃう?私達の映画を観て、松坂さんや私に惚れてください(笑)。はまってください。

Q (韓国語で)今までどんな作品に出てきましたか?この映画に出演をして、どんな変化がありましたか?今後どういったことをやっていきたいと思っていますか?

ハリス (韓国語で答えたので通訳さんが訳しかけたところ、マイクを持って自分で日本語でもう一度話し、場内大うけ)主にドラマ、映画にも出ていましたがずっと歌手として活動していました。何故かというとキャスティングを見ると、ニューハーフの役ばかりでしたから。台湾に行って演技したときに、いい新聞を見たんですよ。「美しくて演技のうまいハリス」という記事があってとても嬉しくて、やっぱり演技してよかったなとそんなことを感じてたんです。それから楊凡監督と香港で映画を撮って、国際映画祭にも行ってそこで東洋人歌手として初めて歌ったり、いいことがたくさんありました。それは「これはいい、これはいや」ではなくて、どんな役でも演技して私のものにしたから。前は若い考えをした小さな女優だったと思う。これからはもっと努力していい女優になります。そんな感じなんです。ごめんなさい、私日本語短くて(笑)。

Q 松坂さん、ハリスさん、お互いのどんな演技が一番エロティックだったでしょうか。

松坂 五感に響く映画じゃないかなと思うんですが、最初の方で黒いエナメルの手袋をはめた手がずっと壁に触れていくんです。もうそれだけでもセクシーだなぁと思いますし・・・。そうですねぇ、梅木さんは五感がすごく豊かな方で、存在そのものがセクシー。ハリスは思い切ってやってらっしゃるので、どれもほんとに素敵なシーンです。エロティックというのではないですが、自分の生い立ちを話しているシーンがありまして、そこが胸痛みました。

ハリス 同じセリフを話したところがあるんですよ。そこがとてもよかったです。私が演じたところは「えー、恥ずかしいー」なんて思うし、エロティックとかそんなん思わないですね。ただエナメルの手袋のところは、うん、エロティックでいいかなって。私あのー、普段セクシーって言われるんですけどもー、可愛いし(笑)セクシーでないです。これからは演技します(笑)。

監督 この映画の中では直接的にはエロティックな描写はないと思います。これはポルノ映画ではないと思っていますし。ただ見せていないところ、それ以上のところまで観客のみなさんに感じてもらえる、それがこの映画の特徴だと思います。アジアやヨーロッパで直接的なエロティックな描写の映画は非常に多いですけれども、我々の今回の映画はそうではなく五感に訴えるものです。ベルリン映画祭で上映したとき、大きな反響を巻き起こしました。間接的な描写から観客に様々な感じ方を引き出せた映画という、まさにエロティック映画のエキス、真髄にせまったものと言うコメントをいただきまして嬉しく思っています。













松坂慶子、ハリス
フォトセッション用セットがあった!楊凡監督のこだわり?














松坂慶子、ハリス
日本語で一所懸命答えるハリスさんを横で「うん、うん」と頷きながら見守る松坂さん。とても良いコンビに見受けられました












ハリス、松坂慶子















ハリス
サービス精神旺盛でカメラマンに大受けのハリス嬢














松坂慶子
笑顔がお美しい






ヨン・ファン、松坂慶子、ハリス

 この後フォトセッション用の一角に移りました。初めは女優二人でしたが、楊凡監督が入って自分で立ち位置を決め、二人のポーズも変えたとたんに、洒落た雰囲気に!さすがにカメラマン出身の監督です。

作品紹介はこちら

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(まとめ:白石映子 写真:梅木直子)
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